リアクション
「天御柱系のイコンとは操作方法もだいぶ違うのかな? 僕はドラゴンの方を希望するよ。この方のイコンは近接格闘型? それとも中距離支援型? 人型試作機との連携は開発段階で想定されてるのかな?」
「近距離か中距離かといえば、中距離型だ。人型試作機との連携は想定されていない。元々実戦用に作った機体じゃないならな」
「そっか……。飛行能力や、装甲なんかについても教えてくれる?」
リオの問いに、ゼスタは整備士を呼び、共に資料を見ながら答えていく。
人型は天御柱で用いられているイーグリットに近い。
装甲はイーグリットより厚く、大きさは同程度だが、イーグリットより軽量だ。
飛行の性能も、イーグリットより高い。
一般的な武器の装備が可能、更に脚部にビームサーベル、頭部にキャノンが搭載されている。
ドラゴン型は、帝国のヴァラヌスと生身のドラゴンをもとに、開発されたらしい。
こちらはスピード重視型であり、生身のドラゴンの数倍のスピードが出せるという。
翼が無事な状態であれば、左右の移動も戦闘機よりは楽に行える。
ドラゴン型時は、爪の攻撃とキャノンの攻撃がメインとなるらしい。
「なかなか興味深いお話しねー。ふむふむ、こういう形だと、関節部分とか弱くないかなー?負荷もかかりそうだし。できれば持ち帰って、調べたいんだけどな……?」
未沙は資料とイコンを見比べながらそう言う。
「それは無理というか、キミ達にであってもあまり詳しいことを知られては困るんだ。ほら、どこから情報が漏れるかはわからないからな」
「はーい。戦争に巻き込まれなければ、ここで整備に加わらせてもらったのにな。残念」
ゼスタの言葉は理解できるが、未沙としてはとても残念だ。
「俺はドラゴン型のテストを担当させてもらうが……。しかしこのドラゴン型は、機動性は良いが、外部に露出するパイロットの安全性は問題あるのではないだろうか、これは」
四条 輪廻(しじょう・りんね)が、ドラゴン型の試作機を見上げながら言う。
ドラゴン型は、操縦桿は外部にある。生身のドラゴンに騎乗するような形で騎乗することになる。
「その代り、パイロットの……つまり、サブパイロットの能力を十分に活かすことができる」
「まるで人を超える存在の為に作られたようなイコンだな」
ゼスタの言葉に対して、そう意見したのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だった。
「イコンという兵器を扱うことで、人は人を超える力で戦う事が出来る。しかし、帝国の七龍騎士はどうだ? 彼らが現在シャンバラで使われているイコンに搭乗した場合、ドラゴンに騎乗した時より、本来の力が出せなくなる」
だが。
彼らが地球人と契約をして、この変形機に搭乗したらどうだろう。
人型時には、地球人パイロットの能力をいかした攻撃が。
ドラゴン型時には、操縦は地球人パイロット、自身は独自能力による攻防に専念できる。
「また、機密保持の対策について確認したい。私達は試作機で実戦を行うことになるわけだが、特殊機は勿論、試作機も帝国に奪われてはならない。イコンを捨てざるを得ない時には、爆破をすべきと考えるが、その装置はついているのだろうか?」
「自爆装置、か……」
ゼスタは整備士と軽く話し合い、資料を確認した後、こう説明をする。
「変形機には自爆装置は現在のところ、設けていない。人型の試作機は自爆可能だ。ドラゴン型には自爆装置はないが、爆薬は積んである。各々の判断で増やしてもいい……ということだ」
「なるほどな……」
クレアは軽く息をついた後、こう続ける。
「作戦は『試作機を敵に鹵獲されないこと』を前提に組み立てることになる。状況にもよるが、基本的にはドラゴン型でかき回し、人型で砲撃支援。そして、通常攻撃で撃破出来ない相手……つまり、七龍騎士クラスの相手への最終手段として、ドラゴン型による特攻」
冷徹に語られたその案に、ゼスタはにやりと笑みを見せる。
「そんなところだな。試作機はデータを取った後は、プラント同様不要だ。シャンバラに持ち帰れない場合は、自動操縦に切り替えて、パイロットはパラシュートで離脱。機体そのものを武器として利用しろ」
「しかし、変形機に自爆装置がついていないのは、何故だ?」
顔には出さないが機密意識の低いのではないかと、軍人のクレアは違和感を覚える。
「単純に搭載が間に合わなかっただけだ。昨日完成したばかりで、実戦に出す予定はまだなかったらしいからな」
「まだ動作テストも満足に出来ていないというわけか、不安が残る……。隊長機にはしない方がいいだろう。隊長は必ずしも最大破壊力を有する者である必要も、個人技に優れた者である必要もないからな」
「ん、各校からの推薦状と、各人の希望。それとここで感じられた意識と姿勢を加味して、編成は俺の方で決めさせてもらう」
ゼスタは書類を取り出して確認し、テストパイロット志願者を見回した後、軽くメモをとる。
そして、こう決定する。
●01隊(主に龍騎士の撃破を目指す)
小隊長:早川 呼雪(はやかわ・こゆき) ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)(ドラゴン型)
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた) サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)(ドラゴン型)
姫宮 和希(ひめみや・かずき) ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)(ドラゴン型)
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん) クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)(ドラゴン型)
小隊長:葛葉 杏(くずのは・あん) 橘 早苗(たちばな・さなえ)(人型)
ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)(人型)
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ) ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)(人型)
ユリアナ・シャバノフ ヴェント(変形機)
●02隊(増援として後方から騎士団を攻撃)
小隊長:四条 輪廻(しじょう・りんね) アリス・ミゼル(ありす・みぜる)(ドラゴン型)
高島 真理(たかしま・まり) 源 明日葉(みなもと・あすは)(ドラゴン型)
朝野 未沙(あさの・みさ) 朝野 未羅(あさの・みら)(ドラゴン型)
十七夜 リオ(かなき・りお) フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)(ドラゴン型)
小隊長:御魂 紗姫(みたま・さき) シェス・リグレッタ(しぇす・りぐれった)(人型)
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす) ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)(人型)
天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら) リョーシカ・マト(りょーしか・まと)(人型)
柊 真司(ひいらぎ・しんじ) アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)(人型)
部隊指揮:クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと) エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)(人型)
「クレア・シュミットには全体の指揮を行ってもらいたい。多分、俺より適任だ。こちらからも指示を出すが、概ね軍人としてのお前の判断で指揮してもらって構わない」
「了解だ。不安要素は多いが、出来る限りの事はしよう」
クレアの返事に頷いて、ゼスタは皆に搭乗指示を出した。
○ ○ ○
護衛として訪れた者の半分は、ジープに乗り込んでエレベーターを使い先に地上へと出た。
南の方から、時折戦闘音が響いてくるが、この辺りには人の姿は無く、荒野が広がっているだけだった。
「ユリアナ……怪しい素振りは見せなかったな。笑顔も自然に思えたし、裏切ったりはしないんじゃないかな」
周囲の状況を確認しながら千歳はそう言うが、イルマは静かに首を左右に振る。
「ラズィーヤ様は一体何をお考えなのでしょう。思惑が見えません」
イルマは南へと目を向ける。
彼女を戦場へ出してしまっていいのだろうか。でも、止めるだけの理由がない。
「襲撃とかなさそうで良かったですね。しかしお2人は何やら深刻な顔をしていますね?」
共に見回りに出ていたテルミが千歳とイルマに話しかける。
「ん、ああ。要塞のことを思うとな」
千歳は咄嗟にそう返した。
「そうですね。試作機で実戦とは……無謀に思えますね」
「特攻することになるのでしょうか」
ツバキは不安そうな目で、要塞の方を見る。
音と一緒に、僅かな振動も響いてくる。
「どうか、皆さまお怪我がありませんように」
そして、そう祈るのだった。
「ちょっといいかな」
搭乗直前。
クリスティーが一人でユリアナに声をかけた。
「はい」
立ち止まったユリアナの耳に、クリスティー小さな声で語りかける。
「実は、ボクのパートナーのクリストファーは、【選帝神白輝精様の召使】なんだ」
その言葉に、ユリアナが目を見開いた。
「驚かせてごめんね。……もし、テスト中にエリュシオンに通じる行動をとったら、ボクごと処断して欲しいんだ」
ユリアナは即答せずに、瞳を揺らしていた。
「……隊長に言うべきよ」
「それは出来ないんだ……ごめん」
謝罪してクリスティーはユリアナから離れた。
「どうした?」
クリストファーが近づいてくる。
「操縦について教えてもらってたんだ。ね?」
クリスティーの言葉に、ユリアナは無言で頷いた。
「そう。危険な作戦だけれど、生きて帰ろう。……お互いにね」
そう言うクリストファーの目には、僅かな哀れみのような感情が現れていた。
首を軽く立てに振って、ユリアナは彼から目を逸らす。避けるかのように。
「ニコライにはパートナーはいないのよね?」
人型のイコンに乗り込みながら、ザウザリアスがニコライに問いかけた。
「……今はいない。けど、契約者に匹敵する実力が俺にはあるから、蒼空学園に特別推薦で入学できた。まあ、去年の特別推薦はユリアナ先輩だけどな。ユリアナ先輩はパートナーのお蔭、俺は実力」
「随分ライバル視してるのね。……それじゃ、私と契約しない? あなたはユリアナ・シャバノフを超える実力が出せるかもしれないわ。その資質を、感じたの」
ザウザリアスがそう言うと、ニコライは驚きの表情を浮かべた。
「け……契約してくれるんなら、してやってもいいけど。俺もあんたのこと結構気に入ったし。契約したら、教導団に入るのもいいなって思ってたところ。蒼空学園より自分の実力が発揮できそうだしな」
「そう。それじゃ、決まりね」
微笑みを浮かべると、ザウザリアスは契約の言葉を口にした。
ニコライも少し戸惑いながらも、彼女の手を取って、契約を誓う――。
「それじゃ、行ってくるね」
「そちらも気を付けるでござるよ」
ドラゴン型イコンの、
高島 真理(たかしま・まり)は後方のサブパイロット席。
源 明日葉(みなもと・あすは)は、メインパイロット席に座った。
真理のパートナーのうち、
南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)と
敷島 桜(しきしま・さくら)とは、ここでお別れだ。
無理やり一緒に乗ることもできなくはないが、テストとしてそれは相応しくないから。
「……お気をつけて」
「……待ってます……」
秋津洲と桜は不安に思いながらも、護衛のメンバーと一緒にエレベーターへと向かう。
何度も振り返りながら。
「大丈夫! 終わったらお土産話、沢山聞かせてあげるからね〜」
真理は笑顔で手を振る。
「では、発進準備に入るでござる」
明日葉はパネルを指で叩き、メインスイッチを入れて、操縦桿に手を伸ばす。