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戦いの理由

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戦いの理由

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「シャンバラはユリアナ・シャバノフが、敵隊長と契約を結んでいる物と判断した」
 クレアは試作機隊に命令を下す。
「反逆者ユリアナ・シャバノフを撃て! 第七龍騎士団団長、レスト・フレグアムの攻撃を制し、撃破する」
 それはパートナーロストによるダメージを狙っての作戦。最終手段だった。
「待ってくれ。そんな方法あるかよっ!」
 和希は味方の銃からユリアナを庇い続ける。
「むう……確かに、非情というもの」
 卑怯な手や無用な殺生は好まないガイウスも、和希の意思に従い動こうとしなかった。
「ユリアナ……っ」
 負傷している彼女をイコンの手で護りながら、隆光は離脱をしようとする。罰を受ける覚悟はあった。
「お前では、無理だ。ユリアナ・シャバノフを、こちらへ」
 戦場に可変型機晶バイクで駆け付けた者がいた。
「教導団に追われ、ユリアナともども始末されるぞ」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)だった。
 少し考えればわかる。
 彼女を教導団に連れ戻っても――彼女のした軍事違反行為は極刑に値する。
 そして、エリュシオンに利用されないよう、遺体すらも闇に葬られるだろう。
「だが……俺は……っ!」
 隆光は守りたかった。友達になると決めた娘を、何としても。
「隆光、私はお前を裏切り者にさせはしない」
 しかし、隆光のパートナーの童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)は、イコンの手を開き、ユリアナを地上に落とす。
 レンの腕の中に落ちた彼女は。
 彼の回復を拒絶し、地上に飛び降りた。
私の大切な人はただ一人。あとの人間なんてゴミ同然、皆、皆、全て、殺してあげるわ!!
 焼けただれた肌、ちぎれた服。乱れた髪――浮浪者のような姿で、ユリアナは声を振り絞った。
 そして、人の力を超える強力な魔法を放つ。
 見えもしない真空の刃が、イコンの関節部を、レンを、和希を……生身の人々を切り裂いていく。
「皆、ごめんね……」
 美羽は謝罪した後、ミサイルのスイッチを押した。
 彼女を止めなければ、皆の命も失われてしまうから。
 ミサイルはユリアナと彼女を護ろうとするイコンや人々の傍に落ち、爆風が起きる。
 ユリアナの軽い体が吹っ飛び、岩に激突して倒れる。
「ユリアナ……」
 いつ、命が消えてもおかしくはない状態の彼女に近づいたのは、呼雪だった。
「はあ、はあ……っ。みんな、皆、皆滅ぼすわ。何もかも無くなってしまえばいいのよ!!
 ユリアナは起き上がり、手を皆の方に向け、呪文を唱えだす。
 呼雪はそんな彼女の前に立ち、彼女を腕の中に包み込んで攻撃を阻んだ。
「こうなると、思っていた」
 短く穏やかに言って。
 呼雪はパイロットスーツに備え付けられていた短剣を彼女の背に回し――。
 その鋭い刃を、深く突き立てた。
「一足先に、ナラカで待っていてくれ」
 切っ先は彼女の左胸から飛び出し、呼雪の右胸をも傷つける。
「……あ、りが……」
 彼女の最後の言葉は、お礼、だった。
 とぎれとぎれの言葉は、呼雪の耳にだけ届く。
「一斉射撃! 撃て!!」
 直後、クレアが団長への攻撃を命じる。
 周囲のシャンバラ側イコンから、レスト・フレグアムに一斉攻撃が浴びせられる。
「さすがに、まずいか」
 ルヴィルは攻撃の手を止めて、ドラゴンを駆り仲間の元へ急いだ。

 龍騎士であり、神であるレストは、パートナーロストで致命傷を受けはしない。
 発動しかけた魔法を防御の為に使い凌ごうとするが、試作機による総攻撃に耐えられるほどの肉体は持ち合わせていなかった。
 そんな彼の元に、黒髪の男が降り立ち、レストを抱えてミサイルの速さより速く、離脱する。
「自分が引きつけるから、お前の元に行けと言われた。これを返すようにと」
 男――ヴェントはレストに2冊の魔道書を渡す。
 渡し終えた時にはもう、彼の姿は消滅していた。
 地上に転がり落ちたレストは、激痛に耐えながら2冊の魔道書を1冊に戻す。
 元々、これはレストの特殊能力で2冊に分けたものだった。
 立ち上がり、本を閉じたまま、レストは手の中の魔道書を見つめ続ける。
「……っ……」
 水滴が一粒、魔道書の上に落ちた。

 彼女の心を感じ取り。
 彼女に影響を及ぼした者として。
 早川呼雪はユリアナ・シャバノフに止めを刺した。
 動かない彼女の体を自分からそっと剥がす。
 苦痛に満ちた顔ではなく、どこか安らかで満ち足りた顔をしているように見える……。
「軍には渡さない……」
 傷ついた体を治療することもせずに、レンが呼雪の腕からユリアナを奪う。
「呼雪……」
 ヘルが近づいてくる。
「まだ終わってない、よ」
 ヘルもまた、ユリアナの攻撃で負傷していた。勿論呼雪も。
 呼雪は何も言わなかった。歯を食いしばり無表情でいた。
 これが戦争なんだと、自分に言い聞かせながら。
 彼女の最後の言葉は、繰り返し頭の中に響いている。
 “あなたが教えてくれたから、私は約束を果たせた。役立つ人に、なれた……。最高の演技が、できた”

「……」
 レンはユリアナを乗せて、バイクを走らせる。
 回復魔法を施しても、彼女はもう、目を開かない。彼女の貫かれた心臓が動くことはなかった。

「こんな状態になるまで、よく頑張ったというべきか……」
「動かせそうもない、ね」
 クリストファークリスティーは、特殊機に近づいてみるが、既に操縦が出来る状態ではなかった。
 機体を持ち帰るのも困難だ。
 クリストファーは複雑そうな目で、ユリアナがいた場所……。呼雪の方に目を向けた。
 クリスティーも、複雑な思いを抱えながら、クリストファーの隣で指令を待つ。
「飛行が出来ない新型機は爆破。ドラゴン型パイロットで可能なものは最終任務を実行せよ!」
 クレアがそう命じ。
 ドラゴン型テストパイロットの多くが、龍騎士が集まる隊に機体を特攻させた。

○     ○     ○


 第二龍騎士団が新型イコンを狙っているという知らせは、レイルを護衛して訪れた白百合団のティリア・イリアーノを介し、早い段階で要塞に届いていた。
 要塞防衛戦に加勢する可能性についても、漏れている可能性も。
「第七龍騎士団を追い払った後なら、そっち方面に防衛線を築くことも考えられるが、今の状況じゃ、どうにもなんねぇな」
 都築少佐は要塞に残っている仲間と相談の上、迅速に撤退を見据えた行動に移った。
「皆、奮闘してるのに抑えきれないであります……でも!」
 雑用を担当していた二等兵の丈二も、パートナーのヒルダと一緒に砲撃隊員の交代として、砲撃に参加していた。
 イコンを相手にするほどの、能力はない。
 狙われたらひとたまりもないことから、彼は主に照明弾の打ち上げを担当していた。
 要塞近くの岩や塹壕に潜み、近づくワイバーンの鼻先に照明弾を打ち上げて目くらまし。
 ワイバーンが動揺してできた隙に、砲撃手の砲撃により撃退する。
 地上に降りた単身の従龍騎士であれば、一般兵でも隊を組んで戦えば、倒せない強さではない。
 しかし戦況は援軍が来て少しは改善したものの、押されていることに変わりはなかった。
 加勢に来ると連絡のあった、試作機に望みを託してはいたが……。

 第二龍騎士団が要塞に到着したのは、試作機部隊が加勢に現れた直後だった。
 アイアスは第七龍騎士団と合流はせずに、直接背後から要塞を攻め落としに来る。
 この段階で、レイル・ヴァイシャリーは護衛のメンバーと共に、既に退避していた。
「都築少佐、早くこちらへ!」
 知らせを受けていた増援隊のルカルカは、前線から兵を引き要塞に残っていた最後のメンバーの救出に訪れた。
「通さないであります!」
 都築少佐の側に戻っていた丈二は、見越して備えてあった機関銃で敵の接近を防ぐ。
 しかし、直撃をしたように見えても、龍騎士にはほとんどダメージを与えられなかった。
 服が破ける程度だ。
 ドン!
 大きな音が響き、壁がぶち破られる。
 龍騎士の攻撃により空いた穴から、第二龍騎士団が放った機械獣が要塞内に入り込み、暴れていく。
「撤退命令を出した。お前も早く来い!」
 戦車に乗り込みながら、都築少佐が丈二とヒルダを呼ぶ。
「了解であります」
「ええ!」
 丈二とヒルダはバーストダッシュで戦車へと飛ぶ。
 背後からは龍騎士の凄まじい攻撃が飛んでくる。
 盾で防げるレベルではなく、なんとか戦車に入り込んだ2人だが、戦車が大きく凹み、銃器がはじけ飛んだ。
 辛うじてエンジンは無事であり、最後の戦車が要塞から飛び出した。
 直後。
 要塞が中心から爆発を起こした。
「神は死ななくても兵は死ぬ……。最後の最後の手段だと思っていたけれど」
 ルカルカはレイで戦車を庇いながら、戦地を後にする。
 爆破により敵大半の圧壊を狙うという案を、都築少佐は採用して爆破装置を仕掛けておいたのだった。