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リアクション
永谷の提案で、梅琳とカオル達、歩兵部隊は回り込んで第七騎士団の補給線の確認を行った。
騎士団から見て、前線より後方のキマク側に補給基地があった。
基地よりやや前線側に団長と側近と思われる龍騎士がいるようだ。
「かなり危険な作戦だと思うけど……やる?」
梅琳が永谷に問う。
「確かに、ここにダメージを与えれば、少しは有利になるかもしれないけど……」
カオルはあまり乗り気ではなかった。梅琳に危険なことをさせたくはないから。
そんな気持ちを察したのか、梅琳は軽く笑みを浮かべて「私は大丈夫よ」とカオルに小さな声で言った。
「そうだな。うん、メイリンは大丈夫だ」
オレが護るから、と心の中でカオルは続ける。
カルキノスから、連絡は常に届いている。
増援部隊は善戦しているが、かなり状況は厳しいらしい。
「決して無理はしない。気付かれる前に退く。それを守って行おう」
永谷が真剣な目で言う。
梅琳は「わかった」と頷いた後、響いてくる音に気付く。
「ん? ……勝機が出てきた。かしら?」
後方に目を向けて、梅琳はそう言った。
「ヒャッハー! 若葉分校の周りで騒いでんじゃねぇぞォ!」
バイクの音を響かせて、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)と、エリュシオンに不満を持つパラ実生が押し寄せてきたのだ。
教導団である自分達との共闘は難しいかもしれないが、互いを利用し合う形で、協力はできるだろう。
「よし、今だ」
殺気看破、超感覚で状況を探り、カオルが合図をする。
「了解」
永谷は光学迷彩で姿を見えにくくして、補給基地へと入り込む。
エリュシオン側は、竜司達パラ実生に気を取られていた。
「火が上がったぞ。消せ!」
従龍騎士と思われる男が声を上げる。
永谷が火術で倉庫に火をつけたのだ。
「火矢か? 魔法か!?」
騎士達はパラ実生の仕業と考えたらしく、永谷の存在に気付くことはなかった。
永谷は即その場から離れて、別の物資や乗り物を狙い、火を放ち、混乱を呼んでいく。
『龍騎士接近。離れろ!』
通信機からカオルの声が響いてくる。
「協力サンキュ」
永谷は暴れているパラ実生の方へと走り込み、リカバリをかけて彼らを癒し、そのまま味方の元へと一旦戻っていく。
「あの団長を見てみろよ。背後ばっか警戒してよォ、オレらにビビってんだぜ」
竜司は、パラ実生を煽って攻撃を促していく。
エリュシオンに不満を持っているパラ実生は少なくはなく。また第七龍騎士団の新団長に興味を持つパラ実生も竜司と共に、やってきていた。
彼らとしては要塞がどーとかは関係がない。
気に入らない奴らをぶちのめす事。あわよくば第七龍騎士団を乗っ取り、自分が団長に就任することさえも、目論む者もいた。
「お土産だぜー、ヒャッハー!」
パラ実生の一人が、マシンガンを乱射する。
狙うは補給基地ではなく、レストを取り巻いている龍騎士だった。
「持ち場から離れるな」
ドラゴンに乗り、向かってきた龍騎士―― 補給基地にいる騎士にそう指示を出した後、
副団長のルヴィル・グリーズが龍騎士2名をひきつれて向かってきた。
「大物が来たようだぜェ! 心してかかれよ。ま、命あっての物種ってことは忘れンなよ!」
さすがに七龍騎士である団長や、副団長には直接手を出すつもりはなかったのだが、来てしまったものは仕方がない。
団長のレストはこちらを注視しているようだが、向かってはこない。
「ドラゴン、手に入れたらすげェ高く売れるぜェ!」
竜司がそう声を上げると、パラ実生から歓声が上がっていく。
「ヒャッハー! 鱗だけでも売れるんだぜ!」
「爪も結構な値がつくんだよなー!」
パラ実生達は、マシンガンやバズーカでドラゴンを攻撃していく。
「おらよ!」
竜司自身も、ドラゴンを狙いその身を蝕む妄執で恐ろしい幻影を見せていく。
「とっとと、落ちちまえよー!」
更に、アルティマ・トゥーレで翼を狙った。
魔法で防御力を上げていたルヴィルのドラゴンを除く2匹のドラゴンは、集団の集中攻撃を受けて、地上に落ちていく。
「っと、てめぇらヤベエぞ。回避だ!」
竜司はルヴィルがこちらに向かい槍を向けていることに気づき大声を上げて離脱を試みる。
次の瞬間に、槍から発せられたエネルギーが大地に溶け込み、大地が隆起した。
バイクから転がり落ち、多くのパラ実生が大地に転がる。
「補給路を破壊するな」
冷静な声が響いた。……レストの声だ。
「ちょっと、脅しただけですよ。彼らは別の騎士団の管轄下にある蛮族ですからねぇ、殲滅しても良いものか……ッ」
槍を振るい、波動をほとばしらせ、ルヴィルはパラ実生達を吹き飛ばす。
「レスト・フレグアム!!」
突如、一機のイコンから大きな声が発せられる。
回り込み、団長のレストに近づいてきたのは、アルマイン・マギウスだった。
「俺は、ロイヤルガードの緋桜ケイだ!」
「ロイヤルガードか」
反応を示したのはルヴィルだった。
「パラ実生と補給基地の方を。こちらは大丈夫だ」
戻ろうとしたルヴィルを制し、レストはアルマイン・マギウスに乗る、緋桜 ケイ(ひおう・けい)の方に体を向けた。
「レスト・フレグアム! あんたに一騎打ちを申し込む!」
「シャンバラの代表としてか?」
「違う。だが、ロイヤルガードの俺を倒すことは、あんた達にとっても意味のあることじゃないか!?」
「受けてあげればいいじゃないですか。討ち取ればシャンバラ側の士気に影響を出せるでしょうし」
即答をしないレストに、パラ実生を相手にしながらルヴィルがそう言う。
「……いいだろう」
静かにレストは言い、ドラゴンに騎乗しようとした。……が。
何を思ったのか、ケイがコックピットを開けて、大地に飛び降りた。
「互いに、生身で一騎打ちだ……ッ!」
相手が神であることは分かっている。
敵わない相手であることも分かっている。
だけれど、イコンに乗っていない相手とイコンで戦うことはしたくなかった。
侮っているわけではなく、男の意地として。
「屍は拾ってやろう」
そんな事を言い、ケイのパートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)はイコンを下がらせる。
ケイの敗北は必至。
カナタにもそれは分かっていた。
負ければその場で殺されるか、捕虜にされるだろう――。
ドラゴンに騎乗した龍騎士が1人、監視するかのようにアルマインに近づいた。
どうやらカナタも逃げることは出来ないようだ。
「勝負だ……っ」
精霊の知識やシルフィーリングで、魔法への守りは固めてある。
ケイの武器は、両手に持ったティアマトの鱗。魔法は訳あって使えない。
走り込むケイを風の壁が阻む。踏み込むことも出来ない強い風。
系は横に跳び、別の角度からレストに接近しようとする。
「俺は、シャンバラを守りたい……誰にも傷ついて欲しくないから戦っている」
だがやはり、近づくことが出来ない。
壁に弾かれて、ケイは後方に吹っ飛んだ。
次の瞬間に、真空の刃に襲われる。
刃はケイの首を掠め、血が飛び散った。
全く歯が立たない。全て解っていたことだ……。
「お前に、何が守れる。1ロイヤルガードにしか過ぎないお前に、守れるものなどない」
「そんなことはない……っ。仲間がいる。パートナーや、シャンバラの皆や」
ケイは顔をしかめながら、立ち上がる。
流れる血を拭うこともせず、武器を手にケイはレストの元へと走る。
「……あんたは、どうして戦ってるんだ?」
目の前の彼は――レスト・フレグアムは、以前見た時と同じような印象だった。
表情は厳しいものの、彼から感じる雰囲気はどこか優しい。
演技で厳しく装っているような、そんな印象を受ける。
あの時も、今も。
「ヘクトルのように、帝国への忠義以外にも『戦う理由』があるんじゃないか?」
斬り込みながら、ケイは問う。
今度は、風の壁に阻まれはしなかった。
しかし、レストに届く前に、落ちてきた雷に打たれて、ケイは崩れ落ちた。
「私が戦う理由は、『戦いの理由』を知るためだ」
ゆっくり、ケイに近づきレストは言った。
「この戦いの理由を、一般人は勿論、我等龍騎士……そして七龍騎士となった今も、知りはしない。帝国と大帝への揺るぎなき忠誠心は持っている。この戦いは、帝国にとって紛れもなく正義だ。我等龍騎士はそれだけ知っていればいい。だが……私は知りたい。だから、知れる立場になるために、もっと力が必要だ」
「ぐ……っ」
身を起こしたケイを見下ろしながら、レストはケイに手を向けた。
殺される――。
体はまともに動かない。刃は彼には届かない。
死を覚悟すべき、なのに。
不思議と、恐怖は感じなかった。
殺されて当然なのに、殺されるような気がしなかった。
「待て」
カナタが通信機から流れてくる声明を外部へと流す。
『団長レストのパートナーを内通者として忍び込ませていたのは既に分かっている』
それは、ソアのパートナー雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の声だ。
レストの眉がピクリと揺れる。
『パートナーの身柄をこちらで預かっている以上、この戦いを続ければお互いに犠牲者を増やすのみだ。兵を引け』
監視の龍騎士が気を取られた隙に、カナタはイコンを走らせてケイを両手でつかみあげる。
……レストは手を出さなかった。
「そんな事実はないが。もしそうだとしても、退く理由にはならない」
言って、レストは強い風を起こした。
アルマインさえも、吹き飛ばすほどの強風だった。
カナタは重傷のケイを両手で守りながら、羽を広げて風に乗り――戦場から少し離れた場所に着地した。