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戦いの理由

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戦いの理由

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「このタイプはなかなか乗れそうにないからねー」
 未沙も未羅と一緒にドラゴン型の方に乗り込んでいた。
「爆破しちゃうのもったいないの。持って帰れるといいの!」
 未羅も資料や機体を興味深そうに見回していく。
「乗り心地の面をもう少しどうにかした方がいいかな」
「長い時間乗ってたら、体痛くなるの……」
「稼働時間長めだし、そのあたりは改善しなきゃね。未那ちゃんどれくらい資料の閲覧許されるかな?」
 イコンには乗らない未那は、開発者達と共に資料を持って脱出予定だった。
「あまり期待は出来ないと思うけれど、実戦データを頭の中に記録するつもりで頑張ろう!」
「うん、頑張るの!」
 未羅はにぱっと笑みを見せた。
 もうすぐ発進だ。
 元気な2人も、少しだけ緊張を覚える。

「うん、操作は難しくなさそうだ……。そっちはどう? ええっと、ユリアナ・シャバノフ先輩」
 人型の試作機に乗った柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は、変形機に搭乗したユリアナに話しかけた。
 学校で会ったことはないが、噂は聞いている。とても優秀なパイロットだったと。
「こっちも大丈夫。変形はしてみないと分からないのだけれど……地上に出てから試すしかないわね」
 ユリアナはパネルを操作して、状態を確かめながら答えた。
「こっちのは変形するようには出来てないみたいだけれど、そろそろこういった機体も導入されるのかな?」
「検討されているとは思うけれど、変形をしている間が無防備なのか、どれだけ時間がかかるのか、そういったところも気がかりだわ」
「そうだな。なるべく多くのデータをとらないと」
「ええ」
 ユリアナは真剣に変形機の操作を学んでいるようだった。
 テスト終了後にまた色々聞いてみようと真司は思う。
「速度を上げようと変形しようとして、その間にやられちまったら意味ないですねぇ。いつでも代わりますよ、ユリアナ先輩」
 嫌味な声が響く。ニコライだ。ザウザリアスを差し置いて、人型試作機のメインパイロット席に座っている。
「だから五月蠅いのよ!」
 声を上げたのはユリアナではなく、杏だ。
「武装の確認は終わった? 武器の使い方が分からないなんて言わないでよね。私が指示を出すから、ちゃんと従いなさい!」
「あー、はいはい。今日は従ってやるよ」
 ニコライは面倒そうにそう答えた。
「はううう……杏さん……大丈夫でしょうか」
 杏のパートナーの早苗は、動揺しながらコックピット内を確認する。
 特に珍しい装置などはついていないようだ。
「そろそろ発進よ、準備はいい!?」
 杏は自分が隊長を務める小隊の隊員達に声をかける。
「ええ、行けるわ」
「いつでも大丈夫だよ」
「……準備、完了よ」
 ザウザリアス、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ユリアナがそう答える。
「各機、発進してください」
 オペレーターの声が機内に響く。
 地上に続くハッチが開いて、光が射し込んできた。
「出るわよ!」
 掛け声と共に、杏がまず飛び出した。

「チームプレイはままならんか? スタンドプレイという名のチームワークに期待するしかない、か」
 ニコライの様子に、輪廻はドラゴン型のイコンに乗りながら軽くため息をついた。
 しかしその後は真剣な顔で操縦パネルを操作していく。
「あ、あの……しじょーさん、性能テストもいいんですけど……その。皆様の雰囲気が」
 ただ、後ろに乗っているパートナーのアリス・ミゼル(ありす・みぜる)は気にしているようだった。
「それで仕事の内容に変化は?」
「ないです、けど」
 心配そうに、発進していく機体を見ながらアリスはそう答えた。
「やれることをやるだけだ……互いに信頼できないなら、言葉もない。言いたいことは……」
「背中で語れ、です?」
 輪廻は軽く首を縦に振る。
「ああ、それに、百合のトップは曲者だからな。こうなることもある程度理解した上で、何か考えているのだろう」
「なにか、って?」
「分からんことが多すぎる時は、囚われないほうがいいぞ……さて、いきなりだが無茶をする、舌を噛まんようにな」
「へっ!? わわわわっ!?」
 輪廻が機体を発進させる。
 負荷に驚きながら、アリスは必死に輪廻にしがみついたのだった。

「……以前に天御柱学院でお借りして乗ったイーグリット……あれに乗っていた時の『感覚』を思い出して……うん、何とかいけそうかも……?」
 人型試作機に搭乗した有栖は、操縦桿や操作パネル、レーダを確認しながらほっと息をついた。
 人型の方は、天学のイコンとそう変わりはない。エリュシオンが百合園に提供したイコンのことも有栖は知っているので、さほど操作に戸惑いはなかった。
「性能はどうでしょうね。楽しみですわ!」
 共に乗るミルフィも真剣な面持ちで操作をしていく。
「はい。では私達も行きましょう……っ!」
 有栖もミルフィと共に、機体を発進させる。

「ユリアナねぇ」
 モニターで飛んでいく特殊機を見ながら、エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)が呟く。
「温泉合宿の時とか、敵の龍騎士と契約しそうな感じだったんだろ? 大丈夫なのかぁ?」
「……大丈夫じゃないかもな」
 クレアはそっけなくそう答えて、最後に機体を発進させた。

○     ○     ○


 ここで戦闘になるわけにはいかない。
 プラントから飛び出した特殊機と試作機は目立たない程度の動作テストをしながら指示を待つ。
『OK、プラントに残っていた奴、全員退避完了だ。爆弾も大量にセットしてある。実戦訓練と考え、遠距離から派手に破壊してくれて構わない』
 ゼスタからクレアに通信が入る。
「了解。これよりプラントを破壊する。破壊地点についてはモニターに表示されている通りだ。破壊後即、要塞の支援に向かう。速度は人型機に合わせろ」
 クレアが隊員に指示をだし、合図後に一斉射撃。
 プラントは大爆発を起こして破壊された。
「行くわよ先輩。隊列守ってこちらに合わせなさい」
 杏が隊員達に指示を出す。
「せいぜい頑張んな、後輩」
 ニコライが皮肉気に返す。
「きちんと合わせるわ。安心して」
 すぐに、ザウザリアスがフォローし、杏に従って発進する。
 ユリアナは何も言わなかった。
「私は後ろからついていくね。援護任せて!」
 美羽は……ユリアナが気になっていることもあり、ユリアナの後につくことを望んだ。
「構わないわ。行くわよ」
 杏、そしてメンバー達は要塞の方に向かい、機体を発進させた。

「あの、要塞へ援護に向かった友人と、連絡をとってもいいでしょうか?」
 戦場近くに潜む戦車の中で、未憂ゼスタに問いかけた。
「番号わかるなら、どうぞ。ついでだから神楽崎にも電話かけて、向こうの状況聞いておいて」
 ゼスタは自分の携帯電話を未憂に渡した。
「ありがとうございます」
 未憂はすぐに電話をかけてみるが、相手が電話に出ることはなかった。
 しかし、未憂の頭の中に、テレパシーによる声が届く。白百合団員としてサポートに訪れているの声だ。
 出撃前の会議の話。現在の戦況について、未憂は簡単に説明を受けた。
 それから、神楽崎優子に電話をして、ヴァイシャリーの状況も……。
 こちらは、被害は最小限に抑えられた、とのことだ。
 優子の声から複雑そうな思いが感じられたのは……多分、気のせいではない。
「プラント、なんかもったいなかったね。ここで東西分裂時から研究されてたんだって? ぜんぜん知らなかった。すごいねえ。敵を欺くにはまず味方から、って言うもんねー」
 にこにこ、リンがゼスタに話しかける。
「そうだなー。俺もつい最近知ったばかり。欺かれた一人なんだぜ?」
 ふふっとリンは笑って、小首を傾げてこう言う。
「あたしは……んー。好きな子にだったら騙されてもいいかなあ。もし騙すなら、最後まで上手く騙してね」
「リンちゃんは可愛いな〜。悪い男に騙されんなよ。俺以外の」
「ふふ、ゼスタせんせーは悪い男なのかなー」
 言いながら、リンはゼスタの隣に座る人物に目を向けた。
 彼の隣にはまだあの女性がいる。ゼスタが彼女と言っていた女性。今はイチャついたりはしていないけど。
 リンの視線に女性はにこにこ笑顔を見せる。
 余裕の笑み、ではなくて……。
「あー!!」
 指をさしながら思わず大声を出して、リンは立ち上がった。
「いたっ」
 ゴンと、天井に頭をぶつけてしまう。
「やっと気づいた? こんにちは」
 そう微笑んでいる女性は……黒崎 天音(くろさき・あまね)だった。彼はれっきとした男だ。
 今日は油断を誘うためにも、女装をしてゼスタとパイロット達の護衛をしていた。
「こんにちはー。なんだ言ってくれればよかったのに……」
 リンはちょっと膨れ面。でもなんだか安堵もしていた。
「敵を欺くにはまず味方からってね」
 くすりと天音は笑みを浮かべた。
「ん?」
 くいくい服の袖を引っ張られて、天音は振り向いた。
「……趣味……?」
 袖を引っ張っていたのは、プリムだった。
「いや、そういうわけじゃないよ」
「……そういう、関係……?」
 プリムは、天音、それからゼスタをちらりと見る。
「どうだろうね?」
 くすくす、天音は笑みを浮かべ続ける。
「……」
 プリムはそれ以上は何も言わず、ちょっと2人から離れて未憂の方へと寄った。
 天音は悪戯気に微笑みながら、ゼスタに問いかける。
「ラズィーヤさんからメールが届いてるんだけど、興味ある?」
「……なんだ?」
 天音はラズィーヤに『薔薇のティーセット』と一緒に手紙を送ってあった。
 ラズィーヤをも通して、天音は今回同行している。
『現状あまりあちこちに潜入するのは感心しないが……』
 会話が一瞬止まる。天音の頭に、パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の声が響いていた。
 ブルーズは戦車には乗っていない。
 戦場から少し離れた位置で、イコンの調整を行っている。
『それに、あの女人にあまり借りを作るのはどうだろうな』
(貸しとは思ってないんじゃないかな? 僕のこともきちんと利用してると思うよ)
 届きはしないが、心の中で天音はブルーズの小言にそう答えた。
 その後も小言が頻繁に届いてくるが、電話やメールで返事を返したりはしなかった。
 天音が今、気にしているのは、ラズィーヤからのメールのみ。
 盗聴の危険性があるため、電話やメールでは何気ないやり取りくらいしか出来ていないが、深く語らなくても互いに通じることもあった。
 今彼女から届いたメールは、あまり余裕の感じられないそっけないメールだ。
「大荒野側に補給基地があるんだって。こっち方面に隊長クラスの龍騎士が集まっているって情報が入ってるみたいよ?」
「そっか……クレア・シュミットに伝えておく」
 ゼスタは通信機でクレアにその旨……未憂から聞いたこともあわせて、状況の報告と簡単な指示を出す。
「状況次第では、君も戦場に出るの?」
 天音がそう問いかけるとゼスタは「さあね」と流そうとした。
「そういえば……レイラン家ってどういう家なのかな?」
 天音はゼスタが背負う大剣にちらりと目向けた。
「昔から、領主家に仕えてる家。騎士の家系みたいなところ。戦い続けるのは面倒だし、俺は守ってくれる女を嫁にして、将来は楽して暮らす予定ー」
「そうなんだ。その体格や力を無くすのはもったいない気もするね」
「鍛錬は怠るつもりはないぜ」
「話が随分逸れているようですが?」
 呆れ気味な声が響く。
 補佐として従っているルークの声だ。
「うん、まあなかなかいい目をした奴らが集まったからな。俺らは自衛だけに集中すればいいだろ。……むしろ、生身で戦場に出ても、邪魔になるだけだからな」
 そう言った後、ゼスタは状況を確認するために、通信機で連絡をとっていく。
「さて、何が起きるか――楽しみだ」
 一旦、通信を終えて。くすりとゼスタは笑みを浮かべた。