リアクション
「このタイプはなかなか乗れそうにないからねー」 ○ ○ ○ ここで戦闘になるわけにはいかない。 プラントから飛び出した特殊機と試作機は目立たない程度の動作テストをしながら指示を待つ。 『OK、プラントに残っていた奴、全員退避完了だ。爆弾も大量にセットしてある。実戦訓練と考え、遠距離から派手に破壊してくれて構わない』 ゼスタからクレアに通信が入る。 「了解。これよりプラントを破壊する。破壊地点についてはモニターに表示されている通りだ。破壊後即、要塞の支援に向かう。速度は人型機に合わせろ」 クレアが隊員に指示をだし、合図後に一斉射撃。 プラントは大爆発を起こして破壊された。 「行くわよ先輩。隊列守ってこちらに合わせなさい」 杏が隊員達に指示を出す。 「せいぜい頑張んな、後輩」 ニコライが皮肉気に返す。 「きちんと合わせるわ。安心して」 すぐに、ザウザリアスがフォローし、杏に従って発進する。 ユリアナは何も言わなかった。 「私は後ろからついていくね。援護任せて!」 美羽は……ユリアナが気になっていることもあり、ユリアナの後につくことを望んだ。 「構わないわ。行くわよ」 杏、そしてメンバー達は要塞の方に向かい、機体を発進させた。 「あの、要塞へ援護に向かった友人と、連絡をとってもいいでしょうか?」 戦場近くに潜む戦車の中で、未憂はゼスタに問いかけた。 「番号わかるなら、どうぞ。ついでだから神楽崎にも電話かけて、向こうの状況聞いておいて」 ゼスタは自分の携帯電話を未憂に渡した。 「ありがとうございます」 未憂はすぐに電話をかけてみるが、相手が電話に出ることはなかった。 しかし、未憂の頭の中に、テレパシーによる声が届く。白百合団員としてサポートに訪れている円の声だ。 出撃前の会議の話。現在の戦況について、未憂は簡単に説明を受けた。 それから、神楽崎優子に電話をして、ヴァイシャリーの状況も……。 こちらは、被害は最小限に抑えられた、とのことだ。 優子の声から複雑そうな思いが感じられたのは……多分、気のせいではない。 「プラント、なんかもったいなかったね。ここで東西分裂時から研究されてたんだって? ぜんぜん知らなかった。すごいねえ。敵を欺くにはまず味方から、って言うもんねー」 にこにこ、リンがゼスタに話しかける。 「そうだなー。俺もつい最近知ったばかり。欺かれた一人なんだぜ?」 ふふっとリンは笑って、小首を傾げてこう言う。 「あたしは……んー。好きな子にだったら騙されてもいいかなあ。もし騙すなら、最後まで上手く騙してね」 「リンちゃんは可愛いな〜。悪い男に騙されんなよ。俺以外の」 「ふふ、ゼスタせんせーは悪い男なのかなー」 言いながら、リンはゼスタの隣に座る人物に目を向けた。 彼の隣にはまだあの女性がいる。ゼスタが彼女と言っていた女性。今はイチャついたりはしていないけど。 リンの視線に女性はにこにこ笑顔を見せる。 余裕の笑み、ではなくて……。 「あー!!」 指をさしながら思わず大声を出して、リンは立ち上がった。 「いたっ」 ゴンと、天井に頭をぶつけてしまう。 「やっと気づいた? こんにちは」 そう微笑んでいる女性は……黒崎 天音(くろさき・あまね)だった。彼はれっきとした男だ。 今日は油断を誘うためにも、女装をしてゼスタとパイロット達の護衛をしていた。 「こんにちはー。なんだ言ってくれればよかったのに……」 リンはちょっと膨れ面。でもなんだか安堵もしていた。 「敵を欺くにはまず味方からってね」 くすりと天音は笑みを浮かべた。 「ん?」 くいくい服の袖を引っ張られて、天音は振り向いた。 「……趣味……?」 袖を引っ張っていたのは、プリムだった。 「いや、そういうわけじゃないよ」 「……そういう、関係……?」 プリムは、天音、それからゼスタをちらりと見る。 「どうだろうね?」 くすくす、天音は笑みを浮かべ続ける。 「……」 プリムはそれ以上は何も言わず、ちょっと2人から離れて未憂の方へと寄った。 天音は悪戯気に微笑みながら、ゼスタに問いかける。 「ラズィーヤさんからメールが届いてるんだけど、興味ある?」 「……なんだ?」 天音はラズィーヤに『薔薇のティーセット』と一緒に手紙を送ってあった。 ラズィーヤをも通して、天音は今回同行している。 『現状あまりあちこちに潜入するのは感心しないが……』 会話が一瞬止まる。天音の頭に、パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の声が響いていた。 ブルーズは戦車には乗っていない。 戦場から少し離れた位置で、イコンの調整を行っている。 『それに、あの女人にあまり借りを作るのはどうだろうな』 (貸しとは思ってないんじゃないかな? 僕のこともきちんと利用してると思うよ) 届きはしないが、心の中で天音はブルーズの小言にそう答えた。 その後も小言が頻繁に届いてくるが、電話やメールで返事を返したりはしなかった。 天音が今、気にしているのは、ラズィーヤからのメールのみ。 盗聴の危険性があるため、電話やメールでは何気ないやり取りくらいしか出来ていないが、深く語らなくても互いに通じることもあった。 今彼女から届いたメールは、あまり余裕の感じられないそっけないメールだ。 「大荒野側に補給基地があるんだって。こっち方面に隊長クラスの龍騎士が集まっているって情報が入ってるみたいよ?」 「そっか……クレア・シュミットに伝えておく」 ゼスタは通信機でクレアにその旨……未憂から聞いたこともあわせて、状況の報告と簡単な指示を出す。 「状況次第では、君も戦場に出るの?」 天音がそう問いかけるとゼスタは「さあね」と流そうとした。 「そういえば……レイラン家ってどういう家なのかな?」 天音はゼスタが背負う大剣にちらりと目向けた。 「昔から、領主家に仕えてる家。騎士の家系みたいなところ。戦い続けるのは面倒だし、俺は守ってくれる女を嫁にして、将来は楽して暮らす予定ー」 「そうなんだ。その体格や力を無くすのはもったいない気もするね」 「鍛錬は怠るつもりはないぜ」 「話が随分逸れているようですが?」 呆れ気味な声が響く。 補佐として従っているルークの声だ。 「うん、まあなかなかいい目をした奴らが集まったからな。俺らは自衛だけに集中すればいいだろ。……むしろ、生身で戦場に出ても、邪魔になるだけだからな」 そう言った後、ゼスタは状況を確認するために、通信機で連絡をとっていく。 「さて、何が起きるか――楽しみだ」 一旦、通信を終えて。くすりとゼスタは笑みを浮かべた。 |
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