リアクション
○ ○ ○ テストパイロットと護衛達は研究員からの簡単な説明を受けながら、イコンへと急ぐ。 不審な人物も、不審な動きをする者も今のところ存在していない。 「赤い色のあのイコンが、特殊イコンですね……!」 パートナーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)と共に、テストパイロットとして訪れた神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が、特殊イコンを目にして息を飲んだ。 「シャープな作りですね。……発進後はここ爆破してしまうそうですが、データはどのように取るんですか?」 護衛として訪れたテルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)がゼスタに問う。 「俺が持つコンピュータに転送されるようになってる」 「そうですか。協力出来ることがありましたら、やりますよ?」 「地球のコンピュータ操作はあんまり得意じゃないんで、手伝ってくれたら助かるぜ」 「了解しました。あぁ、でも一応護衛……ですので、そちらを優先しなければなりませんけれどね」 言って、テルミはパートナーのディアー ツバキ(でぃあー・つばき)を見る。 「そうですね。お守りしませんと」 ツバキは魔鎧だ。いざという時には、鎧となりテルミと護衛対象を守る予定だった。 「ん、手が空いてる時だけで構わない。順調にいけば実戦中護衛班は、俺を護るくらいしかやることないだろうし」 ゼスタはそう答えた。 「形は、イーグリットタイプね。性能はどうかしら? 早く見てみたいー」 「資料どこなの?」 「出来る限りの資料読んでおきたいですぅ」 朝野 未沙(あさの・みさ)とパートナーの朝野 未羅(あさの・みら)、朝野 未那(あさの・みな)は、特殊イコン自体に興味があって志願した。 整備方法や機能、構造を乗る前に調べたいと思っていた。 「機密開発だから、教えられることは少ないぞ〜」 ゼスタは明るい声でそう言いながら、皆を率いていく。 「ああそうか、先輩、外見で選ばれたんですね。このイコン、ユリアナ先輩と同じくガリガリだし」 テストパイロットとして訪れたニコライがユリアナに絡む。 「使い捨てだったり? ユリアナ先輩ごと捨て駒っぽいですねぇ」 「ちょっとアンタ、五月蝿いわよ!」 嫌味を言っているニコライに、そう言い放ったのは葛葉 杏(くずのは・あん)だ。 「まったく、自分に実力がないからって自分より実力のない人に絡むのは止めてもらいたいわね。みっともない」 「あわわわ」 パートナーの橘 早苗(たちばな・さなえ)は、杏の言葉にあわあわしながらも、何も言えない。 ちょっと離れて見守るしかなかった。 「んだと……っ、いや、あんたの言うことも一理あるか」 怒りかけたニコライだが、ユリアナが自分より実力がないと示唆する杏の言い回しが気に入ったらしく、にやにや笑みを浮かべ、ユリアナを見る。 「時間が惜しいです。ゼスタさん、早くテストを行いましょう」 ユリアナは完全に無視だった。 「ふう、女同士の戦いが勃発するかと思いました」 早苗はほっと胸をなでおろす。 目の悪い早苗にはニコライも女性に見えたけれど、小柄ながらも彼は一応男性だ。 「あのさ、俺は実力はあるんだ。パートナーがいないから、契約者にはかなわないだけでさっ」 ニコライはまだ何かを言っているが、杏ももう相手にはしなかった。小物にしか思えなくて。 「ところでさ、これ持ち込みOKだったけど、全員分用意できない?」 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、背に装着している宮殿用飛行翼を指差す。 「特にドラゴン型の方。風防があるにしても露出型コックピットだと、通常のイコンに比べて仰向けに落下した場合、パイロットのダメージが大きいし」 「確かに、全員分用意したいところだが、今回は無理だな。脱出用のパラシュートは搭載してるんで、パイロットは乗り込んだら装着するようにな」 ゼスタはそう返答する。 「ボク達はこれがあるから、大丈夫そうだね」 クリストファーのパートナーのクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)も、宮殿用飛行翼を装備済だった。 2人はドラゴン型への搭乗を希望する。 「さて……」 イコンの側まで着いたところで、ルークが皆の前に立った。 「教導団・参謀課のルーク・カーマインです。先に説明がありましたように、このテストは実戦を兼ねるようです。本作戦は軍事行動となりますので、私の方からも作戦の説明をさせていただきたく思います」 ルークはこのプラントへ出発前に、ゼスタから作戦の概要を聞いてあった。 既にゼスタが皆に説明したことも含めて、ルークは流れを話していく。 「今回の目的は新型のイコンのテスト運用ですが、そのまま七龍騎士に攻め込まれている味方要塞への援軍として行動して頂きます。 今回皆さんに貸し与えられる特殊機とその試作イコンの性能であれば龍騎士を相手にしても十二分に戦えると信じています。 しかし皆さんに注意をして頂かなければならないことがあります」 真剣な表情で、皆を見回し、ルークは言葉を続けていく。 「それは七龍騎士との戦闘は避けて頂かなければならないということです。 先ほど、私は私的見解として龍騎士とも引けをとらないと述べましたが、先日のイナテミス防衛戦のように「精霊の加護」もない戦場で七龍騎士と対峙するのは愚の骨頂です。 直接戦闘を望まれる方もいらっしゃるかとは思いますが、今回は龍騎士以下従龍騎士を中心に戦いを行って下さい」 これは、この戦いが「戦争」である以上、理にも適っていることだと。 相手は確かに強い。 しかし軍事行動である以上は「個」ではカバーし切れない面が多々ある。 相手の指揮官がどれほど優秀であっても、この戦線を維持するだけの「兵力」が無ければ要塞を攻め落としても意味はない。 相手に軍を引かせる。 その為にも敵大将には目を向けず、相手兵力を奪うことに専念願う。 軍人として、ルークは皆を諭していく。 「また敵にこのイコンを奪われるわけにもいきません。各機体はお互いの位置把握を怠らず、連携して敵に当たるように願います。皆さんは「チーム」です。そのことをお忘れなく」 「うん、分かってるぜ……。実戦になるとは思ってはなかったけどな。天学で受けたイコンの授業ではなぁ」 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が授業を思い出しながら、皆に説明していく。 必ず、小隊を組むこと。 1対1で戦わないこと。 1機が仕掛ける時には、誰かが必ず背後を守ること。 「このあたりは、忘れちゃいけないことだと思うぜ」 「まあそうね」 杏が説明を引き継ぐ。 「小隊は3〜4人くらいを提案するわ。新型といっても1機で突っ込んだらあなた達の技量じゃ負けるわよ」 杏にはイコンでの実戦経験が浅そうな卒業生や他校生とは違い、イコンでの戦闘を何度も経験しているという自信があった、 それでも自分でさえ、一人では7龍騎士に敵わないということはよく分かっている。 「解ってるぜ!! 手強い相手はオレら天御柱の学生が相手してやるぜ!! ってかオレは強い奴と戦いてぇ!!」 そう吠えたのは、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)だ。 「わかってなさそうな……」 ルークは頭を抱えそうになる。 「もちろん味方と連携して戦うって、ま、心配すんな!!」 べしべしっと、鬼羅はルークの肩を叩いた。 「しっかし変形型かぁ……オレはイーグリットとかの人型しか乗ったことねーがすげーんだなぁ! くっくっくっ! 合体変形は漢のロマンだねぇ!」 鬼羅はユリアナに目を向けて、近づくと彼女の肩もぺしぺしっと叩いた。 「変形型のパイロット! よろしく頼むぜ!」 「よろしく。元気のいい人ね」 ユリアナはわずかに笑みを見せた。 「私の行動方針は『性能を試す事』『データを持ち帰る事』『データを漏らさない事』。以上を軸として行動したいと思うわ」 教導団の御魂 紗姫(みたま・さき)は、作戦というほどでもないが、自分の行動方針を述べていく。 「イコンで戦闘する際には、データを取りつつ、支援行動を中心に、無理はしない。行動不能に陥ったり、撤収する場合は、出来る限り多くが帰還できるように支援射撃が出来ればと思ってる」 「うん、さすがに教導団の人達はしっかりしているけれど、大丈夫。僕達天御柱学院生も、戦争やイコンの怖さちゃんと理解しているから」 十七夜 リオ(かなき・りお)がそう言い、ルークは吐息をつきながらも頷いた。 |
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