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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【1】暴君暴吏……3


「……ほんと大丈夫なのか、この探索隊?」
「うーん、でも大尉は指揮官として任命されて来てる人だし、任務達成に必要なことは理解できている……と、思うわ」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は隊員たちに混じって話を聞いてる。
「けどよぉ、ちょっと横暴すぎるんじゃないか……。ま、教導の連中は大人しく言うこと聞いてるみたいだが」
「それだけ教導団の人には信頼されてるってことじゃないの?」
「うーん……」
「こういう時だからこそ、私たちも大尉を信頼しなきゃ」
「気がすすまねぇなぁ」
 隊員たちの不満に頷きながらも、メルヴィアにフォローを入れている。
 ……きっとメルヴィア大尉は悪い人じゃないと思う。
 人の気持ちを汲み取るのと自分の気持ちを伝えるのが苦手なだけなのよ、きっと。
 そう思うと、なんだか他人事じゃ思えなくなってきたわね……。
「……何なれた顔してるのよ、劣等種」
 自然とため息がこぼれたイーリャに、相棒のジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)は目を細めた。
「まさかあたしがあのヒス女と同じって言いたいわけ?」
「え? 似てるわよね??」
「……殺すわよ」
 それからジヴァは一段高いところに立つと、腕組みしながら隊員たちをぐるりと見回した。
「メルヴィアもメルヴィアだけどあんた達もあんた達ね!」
「ああ!?」
「ゲスい声ばかりあげて、結局協力できないどころか回りを煽ってばっかで……劣等種どもが!
「なんだとこのチビ! 誰が劣等種だ、コラァ!!」
 血の気の多い隊員がジヴァの胸ぐらを掴んだ。
「あんたらの愚痴は、このイーリャがメルヴィアに伝えに行ってやるわよ!」
「え……、わ、私!?」
「だから文句ばっか言ってないで手を動かせ! デマ飛ばしたり、手を上げようってならあたしが相手になってやる!」
「うるせぇ! 生意気なこと言ってんじゃねぇ!!」
あんたが状況をややこしくしてどうするのよ〜〜!
 イーリャはあわてて間に入ろうとする。
 言ってることは間違ってないけど言い方が……、やっぱりメルヴィア大尉に似てるわ……。
「皆さん、落ち着いて下さい! どうしたんです!」
 騒動を聞きつけてやってきたのは鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)中尉だった。
 松本 可奈(まつもと・かな)と共にジヴァと荒ぶる隊員たちを引き離すと、イーリャから事情を尋ねた。
「……と言うわけなの」
「事情はよくわかりました。俺が言うのもなんですが、皆さん、気が昂ってるので挑発する発言はちょっと……」
「む……、なんであたしが怒られるのよ。あたしは何も間違ってないし」
 ジヴァは頬を膨らませそっぽを向いた。
 やれやれと肩をすくめる真一郎……すると、今度は怒りの矛先がこっちに向いた。
「と言うか、おまえらがなんとかしろよ! おまえんとこの奴だろ!」
「そうだそうだ!」
「なーんでオレたちがあんなイライラ女の命令なんか聞かなくちゃなんないんだよ!」
「そうだそうだ!」
 不平不満を一身に浴びながら可奈はふるふると肩を震わせた。
 あーもう、なんか言い返したいけど……、私が首突っ込むとますますわけわかんなくなるからなぁ……。
 真一郎をチラリ見る。彼は特に反論もせず、ただ冷静に状況に身を置いていた。
「……ふむ」
 前々から感じていましたが、教導団と他校生の混成部隊は弊害が付きまといますね。
 混成部隊は指揮伝達にトラブルがありますし、目的意識が統一されない状態では行動を共に出来る訳がありません。
 まぁメルヴィア大尉の言動には疑問も感じますが……。
 下士官は上司の命令には絶対服従、そして出した命令に対する責任は全て上が持つ。
 この原則を正しく守られているのかどうか……。
「ちょっと真一郎……」
「ん……ああ、そうですね」
 真一郎は語気を荒げる隊員たちに言い放つ。
「皆さんの意見は俺が責任をもって大尉に伝えます。この場は矛を納めては頂けませんでしょうか」
「うーん、そう言うなら……」
「おいおい、納得してんじゃねぇよ! 教導団の連中なんか信用出来るか!」
「けどさぁ、この人なら冷静だし信用してもいいんじゃないか。教導団の人間全員が大尉みたいなわけじゃないだろ?」
「いやいや……よく考えてみろ。あの能無しバカ女が部下の意見なんてまともに取り合うわけないだろ!」
 今度は意見が割れて揉め始めた。
能無しバカ女とは私のことか? 三等兵?
「!?」
 研がれたナイフの如き鋭い声に隊員たちは静まり返った。
「う……、た、大尉……」
 鬼眼を全開にするメルヴィアの視線に晒され、先ほどまで威勢のよかった隊員達も目を逸らして黙り込んだ。
「なんだ、言いたいことがあるんじゃないのか? とっととその薄汚い口から意見を垂れてみろ」
そ、その……、ちょっと厳しすぎるんじゃないっすかねぇ……
「声が小さい。うじ虫の鳴き声でも真似ているのか」
うう……
「ふん、逆らう度胸もないくせにいい気になるな、三等兵。他に私に言いたいことのある奴はいるか?」
バカ〜
「ないなら、大人しく……ん?」
バカ〜
「だ、誰がバカだ……っ!?」
 メルヴィアが凄まじい形相で睨み付けると、隊員たちはぷるぷると顔をすごい勢いで振った。
 とその時、はーはっはっはっはっと高笑いが響いた。隊員はモーゼが如く左右に避け、彼らのために道を空けた。
「待たせたな、諸君。我が軍が援軍に来たからにはもう安心だ」
 彼の名は神子山 大元帥(みこやま・だいげんすい)
 傍らにいるのは「バカ〜」とだけ鳴くバカな生き物大将 大将(おおしょう・たいしょう)
 私設軍隊『神子山軍』(総戦力2名……己含む)を引き連れ、ニルヴァーナ探索隊に堂々合流である。
「話は大体聞かせてもらったぞ。なんでも消耗品の件で揉めているとか。うん、確かに消耗品は重要だ。食料や必需品が不足していては長期戦には不利だからな。メルヴィア女史の言うことには一理あると思うぞ」
「や、そう言う意味じゃないと思うんだけど……」
 と言う声は馬耳東風、はっはっはと隊員の肩を叩く。
「我々もここに来る途中、この陸軍大将のミスで物資を置いてきてしまったのだ」
「バカ〜」
「しかし、それでも我々は物資の現地調達に成功している。流石、優秀な我が軍だ。ほら見るがいい。ちょっと大きいが、今顔に着けているアイマスクだってその一つだし、今、大将のかぶっている、尻ふき用の布も現地調達した物だ」
「……!?」
 その言葉に眉を寄せる探索隊一同。
 何故なら、大元帥のアイマスクとやらは世間一般では『ブラジャー』と呼んでいるものだからだ。
 そして大将の尻ふき用の布も彼らの業界外では『パンティー』と呼んでるものである。
 しかも上下セットらしく可愛いイチゴ柄だ。

「貴様、それをどこで手に入れた……?」
 ふと、メルヴィアは震える声で尋ねた。
「ああ、向こうに転がったトランクから回収したのだ。たぶん崩落に巻き込まれたものだろうな」
「ほう……!!」
 ゴゴゴゴ……と空気まで震える激しい怒りに、隊員達はメルヴィアから後ずさる。
 彼らがもう少し賢ければ気付いただろう。トランクの取っ手に『メルヴィア・聆珈』の名が刻印されていることに。
「おお、そう言えば挨拶がまだだったな。私は神子山私設軍、元帥の神子……ぶっ!!」
 メルヴィアの鞭が激しくその顔面を打った。
「き、貴様! 上官に向かって何をする!」
「誰が上官だ、この三等兵!!」
 どうやらこの大元帥、階級が自軍基準で、教導団の階級制度を理解していない様子。
「たかだか大尉が大元帥を鞭でビシバシするなど、軍法会議にて極刑は免れぬ……って、ひゃあっ!!」
「バカ〜」
「こら、大将! ぼさっとしてないで何とかしろ!」
 しかしバカすぎて大将は何もしてくれなかった。
「うぬぬぬ……出会い頭に上官に向かって、暴行を働くとは肝の据わった奴よ……」
「は?」
「気に入った! メルヴィア女史! 貴女を我が軍の『名誉大尉』に任命しようぞ!」
 その瞬間、彼女は大元帥の頭をグリグリと踏み付けた。
「むぐぐぐ……!」
「おい、貴様ら!」
「!?」
 不意にメルヴィアの眼光が他の隊員たちに向いた。
「私に意見するのは貴様らの自由だが、私の時間を無駄にさせるバカはこうなるから覚えておけ!」
 隊員達は無言でこくこく頷いた……。