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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【2】百折不撓……1


 臨時作戦本部に通信設備が設置された。
 通信担当は無論、前回、インカム型無線機を全隊に配布した武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)たちである。
 牙竜は設備の調整をしながら、後ろであれこれ指示を出すメルヴィアを気にしている。
 水面下で動いている隊員の存在は察知しているものの、隊の連帯が完全に取り戻せたようには思えない。
 一度、大尉のプライドをコナゴナにするぐらいの荒療治が必要なのかもしれないな……。
 牙竜はふと作業の手を休めた。
「……なぁ大尉、どうも我が隊の大尉はぬいぐるみと話す習慣があると言う噂を聞いたのだが……」
「な、なに……!?」
 彼女は目を大きく開けてパチクリさせた。
 その様子に噂の確信を持つと、牙竜は振り返り、厳しい表情で問い詰める。
「そんな指揮官が探索隊に被害を出した、眉唾のような話だ。軍人なら歯牙にもかけないだろうが、他校生はどう思うだろうか。ロイヤルガードならシャンバラ政府に報告。一般生徒でもマスコミにリークする可能性がある。指揮官の責任能力を疑われるだろう。引き抜いた金団長には内外からの批判、教導団の面子は丸つぶれ……想像を超える悪評が立つ」
「……!?」
「さて、他校生への配慮はどうする。面子大いに結構、誇りなくして任務は達成できないが、権限を振り回すだけの安っぽい誇りならば、ぬいぐるみに話しかけ現実逃避する責任能力のない軍人と正式に報告させてもらう」
 メルヴィアは目を伏せた。
「どうした悔しいか? 見下してた相手に見下されるは……だったら、ガッツを見せ……ぶおっ!?」
 次の瞬間、メルヴィアの拳が牙竜の顔面に刺さった。
 完全なる不意打ちはクリーンヒット。盛大に地面に倒れた牙竜はそのまま顔を押さえて悶絶する。
「な、なにを……!?」
「ひとつ良いことを教えてやろう、三等兵」
 鬼眼を爛々と光らせ、メルヴィアは彼の胸ぐらを掴む。
私の嫌いなことのひとつは、部下に舐められることだ……!
 牙竜は助けを求めるように作業中のパートナーに眼を向けた……しかし、彼女たちは一斉に目を逸らした。
 え、えええー……!?
「それともうひとつ朗報だ」
「……?」
私がぬいぐるみと話しているとか言っていたな。戦場とはかくも厳しいものだ、そんなわけのわからぬことを言うほどに心を病む者も少なくない。前にもそんなことを吹聴する部下がいたが、彼は今、空大病院の精神病棟にいる。貴様も精神に支障をきたした傷病者として隔離されるのは不本意だろう。あまりことを大きくしないことだ……
 そう言うと牙竜を放す。
「ま、待て。ひとつだけ言わせてくれ」
「……なんだ?」
「兵は消耗品なのは間違いない。重要なのは運用方法……心がけ一つで兵を有益か無益に消耗にするかが決まる」
「…………」
「兵を兵隊さんのぬいぐるみと思えばいい。ぬいぐるみ達が自分のために頑張っていると思えば、言動も少しは……」
「やかましいっ!」
「うわっ!」
 ドスッと牙竜のみぞおちを蹴り上げた。
「……馬鹿にするな。私とて何も考えていないわけではない」
「?」
「おい、通信機の調整は終わったのか?」
「ああ、既に崩落に巻き込まれた隊員の安否確認は完了している。崩落の影響で途絶えていた伝達網も復旧済みだ」
 武神 雅(たけがみ・みやび)は言った。
 更に所在が近い者同士で同じ無線チャンネル使うよう伝えてある。
 付近の人間を把握しやすくなれば、同士討ちの危険性は幾分下がるだろう。
 まぁ、この配慮は大尉に報告するとしばかれそうなので、こんなことも出来るようになったよ風に報告したが。
「ご覧下さい、大尉」
 と、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)はメモリープロジェクターで戦略マップを机に投影。
「パラミタ地図検索と教導団の地図から、付近の地図を生成いたしました」
「ふむ」
「雅様。安否確認のとれた隊員、及び配置に付いている隊員の位置情報をお知らせください」
「了解した」
 マップ上に、隊員たちの位置が駒の形で映し出される。
 両腕を伸ばすように左右から都市のある一点に向かって、隊員たちが移動を開始している。
 その紅く示された一点こそ、目標の九龍。周囲にある黒い駒は彼が使役しているキョンシーたちだ。
「ご采配を」
「メルヴィア大尉、全隊に何か通達があればこちらをお使いください」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)はそう言って、無線インカムを彼女に手渡した。
「これよりブラッディ・ディバイン掃討作戦を開始する! 我が隊が二度も同じ敵に敗北するなどあってはならん!!」


 牙竜の言葉 +2
 無線の復旧 +3
 連帯回復【40%】