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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【1】暴君暴吏……2


「随分と隊の空気が澱んでいるようだな……」
 先見隊から隊に合流したレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)中尉は目を細めた。
 不穏な空気がそこにある。ところどころ聞こえる不満の声は次第に大きくなる一方だ。
「あら、グリーンフィール中尉」
 沙 鈴(しゃ・りん)中尉は彼の姿を見つけると声をかけた。
 傍らには同じく曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)中尉の姿がある。三人は敬礼を交わす。
「妙なことになっているが何があった?」
 鈴と瑠樹は顔を見合わせ、実は……と事情を説明する。
「教導団でしたら大尉のような方も珍しくありませんが、やはり他校の方に対してあの発言は適切ではなかったかと」
「やれやれ、士気を維持するのも隊長の役目だと思うが……」
「まぁねぇ」
 瑠樹はボサボサの頭を掻いた。
「とは言え、放っておくわけにもいかないよねぇ。こんな僻地で隊が瓦解したら、生きて本国に帰れなくなるかも……」
 それに……と心の中で付け加える。
 オレとしちゃ大尉の無茶より、ガンバってる皆を労ってやりたいし。
「他校任務の経験があればおわかりでしょうが、従軍経験のない学生の行動は統率のないように感じてしまうものです」
「ああ、そう言う経験はあるな」
「探索隊に参加してる国軍の方にはそう感じる人が多いらしくて……。ただ今後も、混成部隊での共同作戦は発生しますし、これも必要な経験だと思うのです。機会があればお二人からも、他の士官にそう伝えてもらえませんか」
「まぁオレは構わないよ」
「同じく。これ以上隊の亀裂を広げるのは得策ではないしな」
「ありがとうございます。この状況を解決するには双方の、特に教導団員の歩み寄りが不可欠ですから」
「だねぇ。まぁそれだけじゃなく、オレたちもオレたちねりに動かないとならないけどね……」
 そう言うと瑠樹は不満をもらす隊員たちに近付いていった。
「なんなんだよ、あの大尉。偉そうにしやがって」
「誰のせいでこうなったんだって話だよな」
「大体これって各校共同の探索隊だろ。国軍だからってデカイ顔すんじゃねーよ」
「おい、国軍サマがいらっしゃったぜ」
 ジロリと無数の目に睨まれる。気圧されたものの、ここで怯んでる場合ではない。
 普段のユルい空気を一蹴し真剣に話しかける。
「皆の言いたいことはわかってるつもりだ。オレも大尉の発言は理不尽だと感じている」
「なに……?」
「あなた達がどれほど隊に協力してくれているのか、オレは見てきたし、よくわかってるつもりだ」
「そうです。私も皆さんが頑張ってるのを知ってます」
 ネコ型ゆる族のマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)も瑠樹と一緒に呼び掛ける。
 出来ることなら大尉の発言の件も謝りたかった。けれどそれをすることは出来ない。
 彼に代わり鈴が言う。
「ただあの件について、今ここで同じ軍人として謝罪することは出来ません。上官に代わりそれを行う権限はわたくし達にはないのです。もう少しだけ時間を頂けないでしょうか。大尉のほうから何かお言葉があるかもしれません」
 ここで謝ってしまっても、結局大尉があのままなら何も意味がない。
 それどころか、むしろ買う必要のない怒りを買ってしまう恐れがある。
 それはメルヴィアからも、そして目の前にいる仲間たちからも。
「なるほど……」
 レーゼマンも彼らの考えを汲み取り、ここで謝ることは控えた。
「しかし、諸君らの意見を無下にすることはしない。我々の態度に落ち度あるなら言ってくれ」
 彼は続ける。
「諸君らも知ってのとおり、ブライドオブシリーズのひとつ『ブライドオブヴァラーウォンド』を入手するのが本隊の目的だ。そのために諸君の力は必要不可欠。納得のいかぬことも多いだろうが、我らにその力を貸してもらいたい」
「オレからもひとつお願いしたい」
 瑠樹も声を上げた。
「ここは強敵も多数いる辺境だ。腕に覚えのある人間でも命の危険に陥らないとは限らない。だから、あなた達自身の為に、あなた達が生きて帰る為、目的を達成する為に隊に留まってほしいんだ。頼む……」
「私からもお願いします」
 マティエも隊員たちに頼む。隊員たちはざわざわとお互いの顔を見合わせ始めた。
「まぁ軍人の中にも話がわかる奴がいるのはわかったけどよ……」
「でも、あの女から一言ないとなぁ。いや、別にあんたらを責める気はないんだけどさぁ」
 少しだけ、固くなった隊員たちの心が柔らかくなった気がした。
「だったら直接本人に言えばいいじゃないか」
 ふと放たれたその言葉に一同は振り返った。
 声の主はロイヤルガードの葛葉 翔(くずのは・しょう)。どうやらひととおり話を聞いていたらしい。
 トレードマークのカラーグラスを光らせ視線を向ける。
「あんた達が訊きにくいってんなら、俺が訊いてきてやるよ」
「で、でも、あの暴力大尉だぞ! まともに話なんか出来るのかよ!?」
「これでも俺はロイヤルガードだぜ。流石に邪険にされることはないだろ」
 前回、しとどに鞭の洗礼を浴びたロイヤルガードがいた気がしたが気のせいだったようだ。
 翔は「俺に任せとけ」と親指をおっ立て、メルヴィアのところに向かった。
 部下と作戦会議中の大尉に声をかける。
「大尉、話があるのだが……ぎゃ!!」
 その瞬間、すかさず鞭で打たれた。
貴様、私に許可なく話しかけるとは何の真似だ
んな無茶な!!
 気を取り直し、翔は話をする。
「一部の隊員があなたの言動で不安を感じている。隊員の前で隊員たちの事を消耗品とか言ったのか?」
「む?」
「それが隊員ではなく薬や包帯を指しているなら構わないが、違うのならこの探索隊はあまり良くないことになるぞ」
 そう言うと、メルヴィアは眉間にしわを作った。
「なにを眠たいことを言っている。軍では兵士も薬同様の消耗品に決まっているだろうが」
「な、なにぃ?」
「貴様、駒になる覚悟もなくここに来たのか?」
「……軍人としてはそれが正しいのかもしれない。だが、この探索隊には軍人以外も参加しているんだぞ
「む……」
「そういった人間にも多少は配慮してくれ。隊長なんだろ?」
 ロイヤルガードとして、同じ責任ある立場の人間として、それだけは伝える。
 彼女の肩を軽く叩き、葛葉翔はクールに去るぜ。と、行こうとしたその時、ビシィと激しく背中を打たれた。
「い、痛え!!」
 メルヴィアは鞭を手にうずくまる彼を見下ろす。
「この私に意見するなど、ナニサマのつもりだ、三等兵」
「え、ええー……俺、絶対間違ったこと言ってないぞ」
「正しいとか、間違っているとか、そう言う問題じゃない。図々しくもこの私に意見しようと言う根性が気に食わん」
「ま、待て! 落ち着け!」
 何がどうなったかはあえて語るまいが、それからしばらくして……翔は隊員たちのところに戻ってきた。
「……あ、帰ってきたぞ」
「なんかアイツ、ちょっと疲れてないか?」
 息を切らせ戻ってきた翔は、歯を輝かせ親指をおっ立てた。
「あ、安心してくれ。ビシっと注意してやった」
「その首筋のみみず腫は……?」
「な、なんでもないっ!」
 一同はそれ以上追及はせずただ察した。瑠樹も鈴もレーゼマンもどことなく生暖かい目で彼を見つめた。
 ビシっとされたのがどちらなのか言葉ではなく心で伝わったのである……。


 鈴、瑠樹、レーゼマンたち教導団員の融和方針 +15
 翔の男気(?) +5
 連帯回復【20%】