天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

リアクション公開中!

【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

リアクション



第二章 アルカンシェル防衛・1

 要塞アルカンシェルの、先端。の、その前。
 そこに、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)と、パートナーのゆる族、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の乗る、ジャイアントピヨが、でんと構えている。
 その巨大な丸いふわふわは、イコンではない。
「いよいよだ……。
 初の宇宙戦。しかしピヨ、お前なら大丈夫だ!」

 ここに至るまでの道のりは大変だった。
 その巨大な黄色いもふもふは、宇宙空間で、クルクルと回転したりフラフラと上下左右に蛇行したり、前に進もうとして背後にウルトラCを決めたりした。
 「踊ってるわけじゃねえぞ〜〜〜」
 というアキラの叫びを、何人かの者が耳にしている。
 だがしかし、ついにこの時は訪れたのだ。

「すごい数ネ」
 アリスが静かに言う。
「ああ、そうだな。
 でも、あいつらを越えたその向こうに、月への道がある……」
 例えどれほどの困難が待ち受けようとも、どれだけの敵が立ち塞がろうとも!
 このドキドキ、ワクワクは誰にも止めることはできない。そこにロマンがある限り……。

「行くぜ! アリス! ピヨ! いざ星屑の海へ!」
「ん!」
「ピィ!」
 アキラは、すう、と息を吸い込んだ。

「よっしゃ行くぜぇぇぇぇぇ!
 可愛さ有り余ってもふもふ百万倍! まるまるボディに溢れる漢気! ブースターパックがちょっぴりおしゃれ! パラミタ巨大生物可愛い部門代表・ジャイアントピヨ!
 てめえら、その勇姿、しかとその目に刻みつけろいやあああ!!」
 そして、ピヨの嘶きと共に、勢い良く飛び出して行く。


「ダメ、です!」
 しかしアキラの、『円盤を襲う敵を引き付ける囮となる』という作戦は、パートナーの剣の花嫁、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)の猛反対を受け、諦めざるを得なかった。
「だって、もしも怪我したらどうするんです!
 私、一緒に行けないんですよ!?
 あんまり離れてしまったら……戻ってこれないじゃないですか……!」
 目は潤んで今にも泣き出しそうだが、その手には、ハリセン型の光条兵器が握り締められている。
 たじ、とアキラは一歩退いた。
「でも、月基地での作戦が……」
「アルカンシェルよりピヨの方が大事です!」
 問題発言。
 アキラはババッと思わず周囲を見渡すが、皆微笑ましく彼等を見物している。ほっ。
「いや、そりゃオレだってさ……」
「私、このイコン格納庫で、待ってますから。
 もしも何かあったら、ここに帰ってきてくれれば、すぐに治しますから……!」


 ――てなことがあった為、何かあった時にすぐに戻れるアルカンシェル周辺で防衛任務である。
 ちなみに、動員された500人の観客は皆、殆ど感情を持たない機晶姫であった為、外見とか関係なかったのだが、それはともかくとして彼等は、囮としては大変に役に立ったという。



「葛葉杏、レイヴン、出るわよ!」
 円盤とその護衛イコン、前線、アルカンシェル防衛の順に出撃し、天御柱学院に所属する葛葉 杏(くずのは・あん)レイヴンTYPE―Cは、比較的早くにアルカンシェルから飛び出した。
「プラヴァーは何処だって!?」
「今、オペレーターから連絡入りました。
 プラヴァーは円盤を襲撃しています。クルキアータは後衛」
 パートナーの強化人間、橘 早苗(たちばな・さなえ)が通信を受け、杏に答える。
「第2世代機が前に出るまでもないってこと?
 円盤を追うわよ! 天学生の実力、見せてあげるわ!」
「一機、向かってきます! イコンです!」
 はっと早苗の声が固くなった。
「シュバルツ・フリーゲです!」
「止めるわよ!」
 シュバルツ・フリーゲは、杏のレイヴンを素通りしようとした。
 アルカンシェルへ向かうのだ。
「もう一機来ます!」
 気を取られかけた杏は、早苗の声にはっとした。
 杏機に銃撃しながら、一機は留まり、もう一機はそのまま通り過ぎて行く。
「行かせない! まずはこれでも喰らいなさい!」
 シュバルツ・フリーゲは、杏のミサイルを全て躱す。
 だが、杏のレイヴンは既に、サイコビームキャノンを構えていた。
「迂闊に避けると痛い目見るわよ!」
 避ける方向を予測して、撃つ方角をずらす。
 放たれたキャノン砲は、シュバルツ・フリーゲの腰に命中し、片足を吹き飛ばした。
「躱したっ!?」
 完全に仕留めていない。
 大技を撃つのは時間がかかる為、杏は素早くアサルトライフルに持ち替えて牽制したが、後退したシュバルツ・フリーゲは、そのまま撤退する。
「逃がさないわ!」
「杏さん、右! 回避しますっ」
 だが、早苗が死角からの機晶姫の攻撃に気付き、ランチャーミサイルを回避した。
 回避しながら、シュバルツ・フリーゲに向かって撃つ。
「とどめよ!」
 今度は、確実に命中し、シュバルツ・フリーゲは大破する。
「まず一機! 次の獲物はどこ!」
 敵の数は多い。すぐに切り替えなくては。
「はいっ」
 攻撃を仕掛けてきた機晶姫の姿は既に無い。アルカンシェルへ向かったのだ。
 追うよりも、他の敵を狙った方が速い。早苗は素早く索敵した。



「やれやれ、随分と盛大なお出迎えだな」
 パートナーの剣の花嫁、高嶋 梓(たかしま・あずさ)と共に、紫電改HMCで出撃した湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は、敵の多さに半ば呆れてそう言った。
「敵機晶姫が集まりつつあります」
 レーダーを見た梓も、その反応の多さに息を飲む。
 500機、というのを実際に見ると、圧巻だ。
「レーザーバルカンで弾幕射撃を行う」
「了解。右側から展開して来る部隊が、最も早く接近します」
 索敵する梓に、亮一は苦笑した。
「全く、外れる気がしないぜ」
「敵の射程内に入ります。発砲して来ました」
 始まった。
 亮一もレーザーバルカンを構える。
「悪いが、アルカンシェルに落ちられると、流石に困るんでね」
 雨のような攻撃を躱しながら、こちらもひたすらに砲撃して行く。



「エリュシオンの龍騎士達は、イコンではないのだな」
「そうみたいだ……」
 魔女の悠久ノ カナタ(とわの・かなた)の言葉に、緋桜 ケイ(ひおう・けい)は頷いた。
 エリュシオンのイコン部隊、第七龍騎士団は今回、イコンではなく、ブラックワイバーンに騎乗していた。
 エリュシオンのイコンはデフォルトで異界属性がなく、ブラックワイバーンならばナラカでも活動できるからだろう。
 ただ、ダイヤモンドの騎士は、皇帝から下賜されたと言われる、金剛龍に乗っている。
 第七龍騎士団団長のレスト・フレグアムのみが、イコンに乗っていた。
「大丈夫なのかな……。
 レストはパートナーを失ってるはずだ……」
 回線を開こうとするケイに、彼方は
「共闘するのならば、他の生徒の方が易かろう。
 敵には第2世代のイコンもおる。こちらも、第2世代イコンと組む方が望ましかろう」
と言った。
「でも俺は、彼等と一緒に戦いたい」
 ケイの言葉に、彼方は、好きにするがいいよと笑う。
 ケイはレストへ通信を繋ぎ、共闘の申し入れをした。
「援護する。こちらは後方支援型の、アルマイン・マギウスだ」
 少しの沈黙の後で、返答が返る。
『心遣い、痛み入る。
 だが付け焼き刃の陣形を作るよりも、状況に応じ、臨機応変に戦った方が有益と思う』
「わかってる。任せろ」
 ケイは言った。
「ま、でも、作戦みたいのはあってもいいよな。
 知ってるかもしれないが、敵のイコンは、元々異界仕様じゃない。
 シュバルツ・フリーゲはデータがねえけど、その他は、こっちと同様、ブースターパックを装備してるはずだ」
『あの、背中のでかいのだな』
 イコンを異界で活動可能にする推進装置、ブースターパックは、イコンの身長の半分以上もの大きさのものを背中に取り付けている。
「そうだ。
 あれを破壊すれば、機動力を大きく奪えるはずだ」
『了解した。健闘を祈る』
 通信が切れた。
「ケイ、敵機晶姫が多数、接近しておる。
 イコンは、右手前方……機晶姫の後ろに。クルキアータではないな」
「イコン狙いで行く! 後ろを取るぜ!」
 ケイのアルマイン・マギウスは、レストのイコンの支援をしつつ、敵イコンを狙って行く。
「くっ……! 速いっ……!」
 イコン操縦の経験の殆どない彼方は、ケイの補佐の手が全く追い付かなかった。
 それに気付いたケイは、移動をやめ、固定位置からの射撃に集中することにする。
「索敵は頼む!」
「了解した。すまぬ」
 それでも、充分に敵と渡り合えるだけの強さはある。
 ケイがブースターパックを撃ち抜いた焔虎は、予想通り、全くといっていい程動きを止め、もはやとどめの必要もなかった。



 如月 和馬(きさらぎ・かずま)が今回の作戦に参加したのは、正義感の類からではない。
 アルカンシェルがいくら足止めを食ったところで、特に問題はないだろうと考えている。
 ただ、恐竜騎士団の一員として、今後の為に、エリュシオンの龍騎士団長、レストに繋ぎをとっておければ、と考えた。
 具体的に先の予測を立てているわけではない。
 ただ、何かあった時の為に、顔と名前を憶えさせておければ、可能であれば恩も売っておければ尚良し、だ。
「第七龍騎士団長、レスト・フレグアム。
 オレは恐竜騎士団中隊長、如月和馬だ。どうだ、オレの話に乗らないか?」
『恐竜騎士団……? 何の用だ』
 返信の声で、眉を顰める表情が解るようだ。
「向こうも、旗艦が無くなれば帰る術を失うんじゃないか、って話さ。
 あの戦艦を狙うのが、てっとり早いんじゃないかと思うんだが」
『……なるほど、作戦としてはいいと思うが』
「だろう。一緒にアンサラー攻略に行かないか?」
『……いや』
 レストは断った。
『それは私の仕事ではない。
 我等第七龍騎士団の使命は、円盤の帰還まで、我々の旗艦であるアルカンシェルを防衛することだからだ』
「頭が固いな。
 攻撃は最大の防御っつうだろうが」
 仕方がない。和馬は単独、敵戦艦へと向かう。
「手柄は一人占めさせて貰うぜ!」
『武運を祈る。立てられるといいな、とな』
「ちぇっ、言ってろ! オレの名前を憶えておけよ!」
 異界対応イカロスに乗り、和馬はアンサラーへ向かった。



「一発に全ての出力を回すの?
 これを撃ったら他に何もできなくなるわよ」
 アルカンシェルの前方上部に位置するツェーブラの操縦席で、サブパイロットのハーフフェアリー、リリア・アクイーア(りりあ・あくいーあ)が言った。
 そうよ、と七瀬 雫(ななせ・しずく)は頷く。
「私達、全くイコン戦闘に慣れてないんだから、これくらいしなきゃ敵わないでしょ。
 ブースターパックも付けてるから、尚更だよ」
 実戦経験が殆ど無い上、ブースターパックは、どうにも動きが重くなり、本来の動きができない。
 不慣れでも、雫達は、後方配置で前線に出ていないから、まだ何とかなっているのだが。
「解ったわ」
 火器管制を担当するリリアは、機体出力に回す以外を全て、プラズマキャノンの出力に回す。
 雫はオープン回線で通信を入れた。
「七瀬機、撃つよっ!
 皆、ちゃんと避けてね!」
 砲口は、敵艦、アンサラーがあるはずの方角へと向ける。
 可能なら、味方機の、敵艦への道を作れればと。
「発射!」
 全エネルギーを込めた一撃が放射される。
 リリアが素早く計器を確認した。
「味方機は全て回避……あ、でも敵機晶姫も回避してるみたい……?
 爆発は3つ確認、でも小さいわ」
「真ん中に当たらなかったかな。
 本体が無事なら、コンテナ捨てて、こっちに張り付いて来るよね」
 しまった、と雫が眉を寄せる。
「距離があるから、辿り付けないかも。
 それより、一旦撤退を。補給しないと!」
「そうね。格納庫に連絡!」
「了解!」
 攻撃の手を失ってしまった雫機は、アルカンシェル格納庫に補給に戻る。



 かつての戦闘で破壊されたアルカンシェルの上部に、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)ジェファルコンカスタムは位置した。
 この辺はまだ、間に合わせの修理しかされていない。
「どっかのアホのせいで、随分と見晴らしがいいこと……」
 モモはカメラをズームしながら周囲を見渡す。
「月面は……結構遠いわね」
「と言うか、普通、月の前に広がってる、この大量の敵に反応しないかにゃ〜」
 パートナーのゆる族、ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)が乾いた笑いを漏らす。
「月も遠くで見てる分には綺麗なんだけどにゃ……」
 何コレ。と思わず存在しない誰かに突っ込みたくなる敵の多さ。
 モニターに写るその量に、ギルティは辟易していた。
「近くで見ると、こんなに敵だらけなんだね……。
 全くっミー達の夢を壊すなんてギルティ!」
「何よ、あんたの夢って」
「たいむちゃんに、後で月でついたお餅ちょうだいって頼んだのにゃ」
「ここからバスターライフル撃っても、月面には届かないわよね……」
「聞けにゃ!」
「こう、月面の砂をぶわっとやって、視界を塞いで、円盤部隊の援護をしてあげたかったんだけど」
 まあ、いいわ、と、モモ機はレーザーバルカンを構えた。
「殲滅戦じゃないのよね。
 というか、これで敵殲滅しろって言われたら笑うしかないけど!」
 モモ機は、遠距離攻撃に特化した、今回の為にあるような機体だ。
 ふふ、と口元に笑みが浮かぶ。
 ビーム撃ち放題。ふふふ!
「アルカンシェルの臨時主砲として、撃ちまくらせて貰うわ!」



 斎賀 昌毅(さいが・まさき)は、アルカンシェルの上を陣取るモモ機を見て、
「ベストポジションを取られちまったか」
と苦笑した。
「仕方ねえ。別の場所を見付けるか」
 アルカンシェル防衛の為に、狙撃しやすい場所を見付けて機体を固定させる。
「アルカンシェルを失っちまったら、オレ達イコン部隊は帰れなくなっちまう。
 コイツを宇宙を漂うデブリにしちまうのは可愛そうだぜ」
 昌毅は、愛機フレスヴェルグの操縦桿を、ぽんと叩いた。
「それにしても……
 やっべ、テンションあがってきた。
 ロボ乗りとして、宇宙戦はひとつの夢だからな」
 うずうずとバスターライフルを構える。

「うう……早く帰りたいです……」
 一方で、パートナーの強化人間、マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)は、他の人達のように、宇宙空間を、いい所には思えなかった。
 暗くて、冷たい。怖い。
「大丈夫! すぐに片付く。
 射程内に敵イコンはいるか?」
「いません。機晶姫が……あっ」
「取り付きそうか!」
 頭上からは、モモ機のレーザーバルカンがひっきりなしに降り注ぎ、機晶姫達に浴びせ撃ち、他の皆も懸命に対処しているが、何しろ数が多い。
「ちっ! 墜ちろ、蚊トンボ!」
 昌毅は、武装コンテナの機晶姫達を狙い撃って行く。
「要塞側面に回り込んで来る機晶姫がいます! 撃ってきましたっ」
「くそっ」
 昌毅は、ビームアサルトライフルに持ち替えた。
「接近戦に変更するっ」
 狙撃の方が効率がいいとは思うが、じっとしていられない。
「ブースターパックを装備しているので、いつもより性能が落ちています。
 注意してくださいっ」
「解ってる、行くぜっ!」