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リアクション
第三章 円盤防衛・2
ブラッディ・ディバインの目的は何なのだろう、と、赤城 花音(あかぎ・かのん)は思う。
考えても、よく解らない。
パートナーのリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)も、解らないと言う。
ただ、「正義」とは、唯一のものではない、と、そう思うだけだ。
同じものを見ても、誰もが同じように思うわけではない。
だがそれは当り前のことで、だからこそ世界は鮮やかなのだ。
そして、自分と同じようには、ブラッディ・ディバインは思わないのだろう……だからこうして、戦っている……。
「プラヴァーがいる。
あれ、前に鹵獲されたやつだよね」
円盤に向かうイコンを確認し、花音が言うと、
「多分」とリュートも頷いた。
「同じプラヴァーなら何とかなるかな。向こう、タイプは何?」
「基本型のようです」
「あとは、向こうのパイロットかぁ」
当然だが、戦闘はイコンの性能だけで行うものではない。
パイロットの技術もまた、重要なのだ。
「接近戦は仕掛けて来ませんね……」
数で圧倒しているのだ。囲んで集中砲撃、がセオリーではあるだろう。
コア・ハーティオンと紫月唯斗の機体が、道を開く為に突撃して行く援護の為に、ストライク・エンジェルは二基のマジックカノンで前方のシュメッターリンクを狙い撃つ。
「まさか、宇宙で戦うことになるなんて……」
まだ現実が信じられずに、水城 綾(みずき・あや)はごくりと息を飲んだ。
「宇宙だろうが、鏖殺寺院に遅れをとるつもりはねえぜ!」
パートナーの守護天使、ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)は、Sword Breakerの操縦席にいることで、既に戦闘モードだ。
「お嬢、俺達は敵イコンの迎撃優先だ。コンテナは他に任せるぜ!」
「はいっ」
だが、綾は実戦の経験が殆どなく、ウォーレンも経験豊富とまでは言えない。
「くそ、命中率が悪いっ!」
アサルトライフルによる、後方からの味方の援護は要領が悪いのか、その多くを躱されてしまう。
本来、白兵戦を好むウォーレンは次第に突出していった。
ライオルド・ディオン(らいおるど・でぃおん)の頂武は、円盤を足場にして、味方への援護射撃を行っていた。
「マスター、円盤前方にシュメッターリンクが集まっているようでございます」
パートナーの悪魔、ハングドクロイツ・クレイモア(はんぐどくろいつ・くれいもあ)が計器を見る。
「こっちの進路を阻む気か!」
ライオルドはスナイパーライフルを構えた。
「おや」
イコン戦は不慣れですので、と、操縦や戦闘の殆どをライオルドに任せ、計器やセンサーを見ていたハングドクレイツがふと気付く。
「水城殿達が、いささか前に出過ぎのようでございますね」
確かあちらも、イコン操縦の技術は私と似たようなものであったと思いますが、と言ったハングドクレイツに、ライオルドがモニターを見ながら回線を開く。
「出過ぎるな、水城!」
「ウォーレン、落ち着いて!」
綾が、熱くなっているウォーレンを抑えようとするも、遅かった。
総計500機に及ぶ機晶姫達は、この戦域を無尽にはびこっている。
死角から機晶姫に撃ち抜かれ、機体が傾いだ。
「しまった!」
警戒アラームが鳴り響く。
「ダメージは!?」
「え? あっ、えーとえーとっ」
ウォーレンの言葉に、綾は慌てて計器を見る。
そこへ、がつんと衝撃が来て、2人はコンソールに突っ伏すように姿勢を崩した。
「ニ撃目来るぞ、避けろ!」
円盤上部から、とどめを狙う砲撃があり、花音機のマジックカノン、円盤上のライオルド機のスプレーショットでの弾幕が、狙いを逸らす。
下がった敵イコンに、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)のフェイルノートが前に出ながら、アサルトライフルで追撃した。
「水城機! 大丈夫か!」
「すまない、俺達の方は問題ない」
ライオルドに、ウォーレンが返答を返す。
「だ、ダメージ……50%。右腕が破損しています」
綾が計器を確認する。
「また整備科の連中に怒られるな」
ウォーレンは肩を竦めた。
「水城機は、アルカンシェルに戻った方がいいわ。
今ならまだ、距離もそれほど開いていないし」
円盤から、仲間からの指示が入る。
「俺が援護する」
勇平が通信に入ってくる。
「了解。すまない、離脱する!」
ライフルの弾もほぼ撃ち尽くしている。綾とウォーレンは後退した。
「直進では、ルートを読まれていい的よ!
コース・ハローをコース・アロハに変更、ハーティオン、ポイントQの敵を散らして!
唯人機! 円盤下から機晶姫が近付いてるわ!」
長曽禰少佐達と円盤内に乗り込む、コアのパートナー、マホロバ人の高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が、円盤内から見た状況をコアや仲間達に伝える。
「了解、ルート・アロハの前衛に出る!」
「了解、迎撃に向かう」
コアと唯人から返答が返った。
円盤内では、月基地作戦チームが、突破口を開く仲間達を信じて、到着の時を待っている。
ヴァルキリーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、円盤の護衛の為にイコンを駆るパートナー、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と剣の花嫁、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)のグラディウスを、モニターから固唾を飲んで見守っていた。
「美羽……」
動きが鈍い。
コハクの目にはそれが解った。
いつもの彼女のイコンの動きとは違う。
美羽のイコンは異界対応になっていないので、その背にブースターパックを装備している。
その為に性能が落ちているのだ。
そんなハンデなど、きっと彼女はものともしない。そんなことは解っているけれど。
「長曽禰少佐」
同じように戦況を見守っている長曽禰少佐に、コハクは声を掛けた。
「何だ?」
「ひとつ、訊いてもいいですか」
コハク達は、先のプラヴァー輸送作戦で、アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインにイコンを強奪されてしまった経緯がある。
その責任を取る為にも、という思いで、この作戦に参加している。
「少佐から見て、あの人はどういう人物なんですか?」
あの男と長曽禰少佐は既知の間柄という。
少佐は、彼に対してどんな感情を持っているのだろうか。
「そうだな……。天才だった」
長曽禰少佐は、思い出すような仕草をする。
「だが、才能に胡座をかかず、常に探求心と向上心を持っていた。
表には出さなかったが、陰では力を怠らない奴だったな」
長曽禰少佐も、彼のそういうところを買っていた。だが。
ふ、と少佐は短いため息を吐く。
「一体、何処で足を踏み外したんだろうな……」
「全くもう! ブースターパックに出力を3割も持ってかれちゃうし!
撃墜王狙ってたのに」
イコンの操縦席で、美羽の愚痴に、ベアトリーチェは、はいはい、と冷静に答えた。
「興奮して敵を見逃さないで下さいね、美羽。
大丈夫、少しくらい性能が落ちても、あなたなら充分に狙えます」
「解ってる! 敵が500機もいたら、弾も惜しんでられないよね!」
反応が早いのは、頭では切り替えは既に済んでいるからだ。
イコン狙いも機晶姫狙いも無い。片っ端から撃墜して行く。
「いくよ、マルチロックオン!」
肩に装備したミサイルポッドを、一気に全弾発射した。
同時にベアトリーチェが、素早くその軌道を追う。
「全弾命中、ダメージの少ない敵機にポイントを合わせます」
「了解っ!」
撃ち終わったバズーカを投げ捨て、ガトリングガンを連射しながら、美羽機は敵陣に突っ込む。
弾切れになった時に、すぐさま接近戦に移れるように。
ライオルドのイコンは、円盤上から常に進行方向前方に狙いを定めて、コアと唯人の支援にあたる。
一方で、戻って来た勇平と花音の機体も、連携しあって、襲撃するイコンを迎撃していた。
「1機でも多く、撃墜してやる! ここは通らせてもらうぜ!」
勇平のパートナーの剣の花嫁、ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)も、できるだけのサポートをする。
「こちらは万全ですわ。勇平君、ご存分に」
花音機のマジックカノンが途切れる。
弾切れを狙ったシュメッターリンクが機関銃を浴びせ撃つ。
その横合いから、勇平機がアサルトライフルを撃ち込んだ。
シュメッターリンクが、それに反応する。
「今です!」
高速機動で、花音のイコンがシュメッターリンクの隙をつく。
下方から、MVブレードが、敵イコンの両足を斬り上げる。
別のイコンがすかさず応戦して来るのを躱して、再び距離を置いたところへ、チャージを終えたマジックカノンを撃って牽制した。
「やった!」
それを見た勇平が、歓喜の声を上げる。
「よしっ、次は俺がやるぜ!」
「敵側の人達に、目にものを見せてあげましょう」
ウイシアも言った。
唯人の絶影は、ダイヤモンドの騎士達と共に、円盤の進行方向前衛で突破口を切り開く。
対するは、武装コンテナを装備した機晶姫と、シュメッターリンク15機で、撃墜すると、補うように、上部に位置するイコンが前方に回って来る。
「コア、道を切り開こう」
唯人が前方の敵へ飛び込んで行く。
コアのグレート・ドラゴハーティオンは、後方の敵だ。
機動力の高さには自信がある。
フェイントを交えた複雑な動きで、唯人機は敵陣に斬り込んで行った。
「全力で行け、唯人」
パートナーの剣の花嫁、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は、唯人の動きを機敏に読んで、ブースターの瞬発をコントロールする。
「アダマントの剣の磁力で、ミサイルのホーミングを攪乱させることはできるだろうか?」
思い付いた唯人に、エクスは
「その剣は、そこまでできるほどの凄まじい磁力をまとっているわけではなかろう」
と否定し、そうだな、と唯人機は氷獣双角刀を持った。
機晶姫の主な武器は、ビームライフルやミサイルランチャーだ。
ビームサーベルもあるようだが、基本的に、向こうから接近戦を仕掛けて来る気はないようである。
「それはそうだろう。だが!」
こちらは接近戦を仕掛ける気満々だ。
武器庫のようなコンテナを、確実に狙って斬り捨てて行く。
派手な爆発は、味方への、隙をつく為の援護にもなった。
「……ズィギルは……イコンには乗っていないのか……?」
戦闘の最中、ふと唯人は呟く。
邪魔してくるだろうと踏んでいた男の姿は、確認できない。
「エクス、クルキアータは何処だ?」
「オペレータは、アンサラー防衛についていると」
唯人は敵戦艦の方をちらりと見た。
もしくは、出撃してはいないのだろうか。
ハーティオン機は、鈿女の指示を受けつつも、狙いをプラヴァーに向けていた。
あの次世代機を落としてしまえば、護りはずっと楽になるからだ。
あとは円盤の後方の護りに徹し、味方が円盤の進む道を切り開く際に、後ろから追撃して来る敵の対処をすればいい。
プラヴァーは、二手に分かれ、銃剣付きのビームアサルトライフルで円盤を銃撃している。
ハーティオン機は、猛然と最も近いプラヴァーへ向かった。
銃剣付きビームアサルトを使うことも視野には入れているが、基本は空裂刀での接近戦である。
プラヴァーは距離を開けようとするが、ハーティオン機は、アサルトライフルで牽制、足止めをしつつ、機動力を上げて正面から突っ込んだ。
「我がグレート勇心剣の一撃を受けるがいい!」
銘を叫びながら、遂に追い付いたプラヴァーへ、渾身の一撃を叩き込む。
プラヴァーは躱しきれなかった。
ハーティオン機の狙いは避けられ、頭部が弾け飛ぶ。
だがそれで動きが鈍り、完全に捉えた。
「とどめ!」
プラヴァーを撃墜させたハーティオン機はそして、敵の追従を食い止める為に、円盤の後衛に回った。
一刻も早く月基地へ到着しなくてはならず、その全てを斬り伏せて進むには、数が多すぎる。
敵陣を突破して行けばその分、背後に敵が増えるのだ。
後ろの護りは絶対に必要だった。
「この身、鉄壁の壁となり、ここから先へは通さん! どうしても通りたくば砕き通ってみせよ!」
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