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リアクション
敵の流れが明確になった。恐らく、イレイザー・スポーンもインテグラルの指示を受けているのだろう。
コア・ハーティオンが大きな体で防ごうとするも、イレイザーに倒されて上に乗られてしまった。
「くっ、苦しい……」
「立てるかい?」
曖浜瑠樹が剣を巡らせて敵を払い、なんとかハーティオンに手を貸すも、そんな彼も背中をスポーンの尾で打たれ声を上げている。
清華、唯斗、理沙も押しのけ、イレイザー・スポーンが肥満に手をかけようとするも、
「そんな力押しで、未来を変えさせたりはしないッ!」
怒りを込めた一刀が、迫るトカゲの頭を割った。
「じいさん、あんたの夢、俺は手伝う!」
桐ヶ谷煉だ。二刀の剣を用い、孤を描いてその威力で敵を怯ませた。
「じいさん……?」
肥満が怪訝な顔をしたがそれは気にせず、
「インテグラルはどこだ。首魁はとっとと出てこい!」
挑戦するように煉は叫んだ。
このとき猛烈な力が、煉の胴を殴りつけた。『力』は物理的なものだった。だが、直接殴られたというよりは、その風圧で彼を撲ったのである。
「ウォン……」
石原肥満は黒いポロシャツをはためかせ、『力』の源を見た。
白いスーツ。黒いサングラス。ネクタイには、金の龍。口の端を歪めながら彼は来た。無人の野を征くように、ゆっくりと歩み来る。
このとき、エリシア・ボックとノーン・クリスタリアが駈け込んでいた。
「おい、おめぇらは……?」
「私たちのことなど二の次ですわ。実は、新宿の黒幕ウォンは……」
言いかけてエリシアは、近づいてくる男に気づいた。
「……あそこ、ですわね……失礼しました」
「ごめ〜ん」
二人はそそくさと立ち去った。
ラルク・アントゥルースもすぐに察した。あれが首領だ。感じるどす黒いものの濃さが半端ではない。
「出てきやがったかこの野郎!」
ラルクは「弾丸(たま)よこせっ!」と相棒ガイ・アントゥルースに叫んだ。
「弾丸(たま)……ああ」
得たりとガイは、煉に頭部を半壊させられジタバタしているイレイザー・スポーンを担ぎ上げてラルクに投げた。
「おおっ!」
ラルクはそれを、ジャイアントスイングの要領でブン回し、
「テメェらは強化されてるんだろ? だったら……それ相応の扱いをするだけだ」
と言うなりウォンに向かって投げたのだ。さすがにこれは紙一重で避けられない。ウォンは跳躍して回避した。それを見届けラルクは声を上げた。
「いいか。覚えておけ! 俺の名はラルク。強さの限界のその先……人間の臨界を超える為に修行する武道家だ!! 肥満は……この男は全ての世界を救いたいっていう大馬鹿野郎かもしれねぇ。だがな……その思いは尊きものだ」
オラッ、と叫ぶと身を躍らせ、
「その尊きものを踏みにじろうとするのならば!絶とうと言うのならば……俺は!! キサマ達のその行いを断じて許しはしねぇ!!!!」
ウォンの顔面を殴りつけたのである。
「あーあー……オヤジの奴マジギレ程ではねぇが切れてやがるな……仕方ねぇよな。お袋の夢を壊すようなもんだしな……あれは」
ガイは苦笑いしていた。
だがその苦笑いは、消えた。
ラルクの体が吹き飛んでいたからだ。頭上二メートルは飛んだか。
丸いサングラスを外したウォンが、片手を上げていた。
「やれやれ、乱暴ですね、あいかわらず……あなたの手下は」
「手下じゃねえ、仲間だ。おめえと一緒にするな……というか」
肥満は言ったのである。
「おめぇ、ウォンじゃねえだろう?」
「なにを……何を根拠にそんなことを」
「俺の知ってるウォンは、もっと小物だ。そんな劇的な登場はしねぇよ。それに、『手下』なんて言葉使いはしない。ヤツがいうなら、『手駒』だ」
ウォンは言い淀んだ。
――なるほど、さすがは。
そのやりとりを眺めながら朝霧垂は思った。
――石原肥満、直感的にあの男にインテグラルが憑いていると判ったようだな。