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リアクション
「このヤロウ!」
ラルクはウォンの襟首をつかんで立たせようとする。だが彼は足をだらんとさせたまま、放心したように口を開けていた。驕慢な笑みが似合っていたその唇からは、今は糸のような唾液が、たらたらと垂れるばかりだ。
「とどめを刺してやらあ!」
振り上げたラルクの拳が止まった。これを、一人の男がつかんでいたのである。満身創痍のジャジラッドだった。
「やめておけ、ウォンはここで死ぬ運命ではない。衰えたりとはいえ影響力の大きい人間であることに変わりはない。その拳をぶつければ、歴史が変わる」
ジャジラッドの体は両腕を中心に黒く焼け焦げている。目は血走り、額からは血が流れ、立っていることが奇蹟のような状態み見えた。しかし彼の腕の力は、まるで衰えていないのだった。
「……わかってるよ」
ジャジラッドの腕を振り払って、ラルクはウォンを地面に寝かせた。
「やってみたかっただけさ」
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気がつけば、夏の太陽はもう昇り始めていた。
黎明のなか、ウォンが肩を落として去っていく。誰も手を貸そうとしないので、今にも倒れそうだ。
それに従うヤクザたちもどこか弱げだ。一行の中には辿楼院殺女の姿もあった。
「ああして見ると切ないなぁ……敗残の兵というやつか」
国頭武尊は我知らず呟いていた。もう追う必要はない。彼らは脅威ではない。
「それじゃ」
彼は振り向くと、肥満に言ったのである。
「もし将来、国頭を名乗る奴があんたの前に現れ、困ったことになっていたら助けてやってくれ」
「そりゃどういう意味だ?」
「まあ……将来出会うそいつがオレの親戚かもしれないしなぁ……」
「そういう意味じゃない。そいつはまるで、別れの挨拶じゃねえか?」
ああ、と武尊は思った――石原肥満は、オレたちが別の時代から来たということを知らないんだった。
「実は……」
ロザリンド・セリナが言うも、肥満は手を振った。
「まあ、大体想像はついてたがな」
彼の顔には笑みがあった。
「まずはみんなが集まるまでまとうや。メシにするか?」
すると遠野歌菜が手を上げたのである。
「はーい、じゃあ私、炊き出しやるよ。手元に揃う材料でどれだけ美味しく出来るか……腕が鳴ります♪ 孤児の皆にも手伝ってもらおう」
やがて起き出してきた孤児たち(エツコ含む)と歌菜が、料理しながら歌う歌が聞こえてきたのである。
美味しい魔法を掛けましょう
愛を込めて 貴方を優しく満たしちゃお!
決して食材は豊富ではなかった。量だって、一人あたり碗半分がせいぜいだ。
だがそれはそれは、楽しい食事となったのだった。