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リアクション
眩しい朝が来る頃、ふと誰もが、別れの時を感じた。
朝餉の湯気はまだ残っているが、一人、また一人と箸を置いて立ち上がったのだ。
「じゃあ……行くのか」
石原肥満はどことなく寂しげな目をしていた。彼だけではない。鷹山、山葉副署長、渋谷署の警官たち、土方伊月、天地・R・蔵人、清華や拳闘倶楽部の仲間、カシミール・クラスニク、茅野虎蔵……いつの間にか皆、集まって立っている。少し離れたところには、観世院公彦の姿もあった。
意図してそんな立ち位置をとったわけではなかった。それなのに、彼らはいつの間にか、向かい合う二つの集団になっていた。
1946年現在を生きる集団と、
2022年の未来から来た集団に。
短い言葉で、何人かは肥満や、ここでできた友に別れを告げた。
「おっと、忘れるところだった」
このとき弁天屋菊が、肥満の手に何か握らせた。
「お前も行くんだな」
「ま、そういうことさ。こいつが形見だよ」
江島の弁財天のお守りだった。
「お前の野望が進んだか行き詰った時に中にあるものを見てくれ」
それだけ告げて菊は背を向けた。菊を慕って愚連隊の何人かはオンオンと泣いていた。彼女は結構人気があったらしい。
菊はお守りの中に、東京にある聖なる森の地図を仕込んでいた。その一点、高根沢理子が契約した場所には記もつけたという。これを肥満が開けたかどうかは、わからない。
ティナ・ファインタックが及川翠の手を握って言った。
「また未来で逢いましょう」
「未来……ね?」
スノゥの説明もあって、翠はある程度ティナのことを理解しているのだが、どうもまだわからないことだらけだ。(ちなみに先にネタ晴らしをしておくと、2022年へ帰宅早々、翠はティナと、数時間……いや、数十年か? ぶりの再会をすることになる)
そのほかにも、短い期間ではあったが生死を共にした者たちが、別れを惜しむ時間はいつまでも続いた。
けれどもう、行かなければならない。
「では出発ですぅ」
エリザベートの鶴の一声で、彼らは石原肥満と、1946年に別れを告げた。
「それでは一曲〜」
アキュート・クリッパーのポケットからひょっこりと顔を出したのはペト・ペトだ。彼女はなんだか小さなギターを取り出して、かく勇ましく歌ったのである。
いつか出逢う 笑顔の
遠く近い 仲間に
戦いを避ければ 辿り着けはしない
別れを避ければ 出逢いは訪れない
悲しい出来事に 心捕われても
指折り数えたら 笑顔がいっぱい
仲間と一緒の 笑顔がいっぱい
きっと 巡り合える
「さあみんなも、歌って歌って〜! わんつー・さん・し、で歌うんですよ〜」
ペト・ペトはそんなことを言って皆を笑わせた。
「いいですか〜! わんつー・さん・し! ……ノリ悪いですよ〜。はい、もう一回!」
わんつー・さん・し!