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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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「く……、あんな若い者たちが独創的な『間』を造り上げているというのに、このザマは何だッ!!」

 自らが作る『涅槃の間』へと戻ったセルシウスは、膨大に設計図やスケッチ等積まれた作業机の上で頭を抱えていた。

 セルシウスが担当する『涅槃の間』は、落下による崩壊を免れたアディティラーヤの中でも一等地、ちょうど最上階に位置している場所であり、そのため、最も優れた『間』となるハズであった。

 そこには今も続々と、各国や各文化を表す、芸術品や文化財が運ばれていた。

「(どうする……どうすれば、アスコルド様にニルヴァーナの世界を感じて貰えるのだ……)」

 そこにやって来る人影。

「うーっす。久しぶり、セっさん! ……アレ?」

 セルシウスを訪ねて来たのはシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)であった。

「……む?」

 シリウスの声にセルシウスが気付いて振り返る。

「なんとかカンヅメから脱出できたのか……って、また何か悩んでんのか?」

「シリウス、貴公か……いや、悩んでいるという程では……」

「あのなぁ……エリュシオンじゃ、眉間にしわ寄せて、腕組んだまま押し黙るって態度を『悩んでる』って言わないのか?」

「……」

 セルシウスは、シリウスに自身の悩み『涅槃の間』を打ち明け出す。

「へぇ、そりゃ大変だな」

 話を聞いたシリウスが腕組む。

「うむ……くぅ!? 胃が……」

 セルシウスは、苦悶に顔を歪めると、机の引き出しから白い錠剤を数粒取り出して口に放り込む。

「……セっさん、マジで死ぬなよ?」

 シリウスの言葉に、本気の気遣いが入る。

「ふっ……この涅槃の間を完成させずに死ぬことなど、アスコルド様がお許しになるものか」

 シリウスはパンッと柏手を打つ。

「うっし、だいたいの事情は分かった! じゃ、そっち手を貸すからオレの方にも協力してくれよ。ギブアンドテイクってことでどうだ?」

「待て、貴公の方とは何だ?」

「まぁまぁ、まずはセっさんの方だ。流石のオレも悩み抱えた病人にモノ頼む程非情にはなれないからな」

 シリウスを見たセルシウスは静かに頷く。

「契約成立だな……まずセっさんの方からだけど、『ニルヴァーナの世界を一部屋に凝縮した涅槃の間』なぁ……まず『ニルヴァーナの本質って何?』ってとこからだけど……正直、オレにも……いや誰も応えられねぇよな、文化も何もまだあったもんじゃねーし……」

「貴公の言う通りだな。砂漠に落とした一本の針を探すようなものだ……」

「でも、セっさんは、アスコルド大帝のために作らなきゃならねぇんだろ? 諦めたら駄目だ」

「うむ……」

「……あ、そうだ!」

 何か閃いたらしいシリウスが、おもむろに『魔法携帯【SIRIUSγ】』(銃型HC弐式)を叩く。

「こういう時は経験者に聞けだ!」

「経験者?」

「あ、オレのパートナーって相棒ともう一人いるんだけど……ソイツが昔アムリアナ女王の傍に仕えてたんだとさ」

「ほう、それは心強い!」

「(エリュシオン人嫌いな奴だけど……まぁ、セっさんなら大丈夫だろ)」

 ボソリと呟くシリウス。

「何か言ったか?」

「ん? あぁ、こっちの話だ。そいつ、インドア歴長いって言ってたし、絶対何か良いアイデア出してくれんじゃねぇかな……」

 暫し後、シリウスにより呼びだされてやって来たのは、剣の花嫁サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)であった。

 銀色のポニーテールに褐色の肌を持つサビクは、赤い瞳でじろじろと品定めするようにセルシウスを見つめる。

「ふぅん……キミがシリウスが言ってた『セっさん』か……」

「貴公がサビクか」

「(……確かに天然っぽいな)」

 サビクがボソリと呟く。

「何か言ったか?」

「別に……。事情は聞いたよ。まぁ……アイデアくらいなら出してもいいよ。キミが話を聞くなら……だけど」

「ふむ、是非聞こう」

「……」

 あっさりと話を聞くといったセルシウスを、サビクはジト目で見つめる。

「(本当に、あのエリュシオン人なの?)」

 サビクがエリュシオン人を嫌う理由は、細かく数えれば100個はくだらないそうだが、その内の一つは彼らが『人の話を聞かないこと』であった。

「コホンっ、まぁ、ボクが考えるには、今のニルヴァーナの本質は『人』ってことさ」

「人? 貴公も人を言うのか……しかし人とは一体……」

「話は最後まで聞く」

「……うむ」

「……まぁ、今まさに新しいニルヴァーナは作られつつある状況、それを作る『人』こそニルヴァーナの本質、そして大帝に必要なのもそんな『人』の想いなんじゃないのかい?」

「ふむ、一理あるな」

「そこで、直でなくてビデオやメールでもいい。大帝とニルヴァーナの人々が言葉を交わせる場所、何かを渡せる場所。そんな作りはどうだい?」

「……」

 サビクの提案をセルシウスは腕組みをして考える。確かにアスコルド大帝への直接なる謁見は、『おみやげに持ってきたアイスクリームを買うよりその場で作り始めた方が良い』と揶揄されるほど時間のかかるものである。確かにサビクの言うとおり、映像や文字を使えば、大帝と何かの意思疎通はできる気がする。

「しかし……貴公の言うとおりの間を造るには、電子機器等を設置する時間がかかるな。それまでアスコルド様のお身体が持つかどうか……」

「まぁ、ボクの案もまだアイデア段階だからね」

「ふむ……貴公の考えはわかった。『人の想い』を伝えられる場所、是非参考にさせて貰おう」

 二人の会話が終わったことを、部屋の中を見渡していたシリウスが気付く。

「うっし、で、オレの方の話をしていいか?」

「む?」

 シリウスがセルシウスの前に、ズシリと重そうな袋を差し出す。

「ここに今まで貯めてきた貯蓄が10万Gある。これでニルヴァーナに家建ててほしいんだ」

「家か……容易い要件だ」

 既に着工済みを含めて30以上の家々を受け持つセルシウスが笑う。少し、引きつった顔で。

「建てて欲しい家は、とにかくデカくて頑丈なヤツだ。孤児院とか学童保育とか学生寮とか……って言えばで伝わるか?」

「貴公は学園でも造る気か?」

「実はオレ、今度、創世学園で初等部の教師やることになってさ……けど、まだ色々危なっかしい場所だろ? 親がいなかったり、出かけてたりするガキどもも出てくると思うんだ。そんな奴らと一緒に暮らせる場所にしたいなって考えてるんだ」

「ほう、子供のための施設か! 貴公、見かけに反して慈善家だな!」

 セルシウスに感心されたシリウスは、少し照れくさそうに頬を掻く。

「まぁな。なんならセっさんも一緒に暮らすか? これからしばらく、こっち来る機会も増えるんだろ?」

「増えるといえば、増えるのかもしれんな。まだ、完成まで暫くかかるものを多く抱えているからな」

「だろ? セっさんなら、みんな歓迎するぜ」

「ありがたい。だが、エリュシオンに聞いてみないとわからないからな。返事はまたの機会にさせてくれ」

 サビクがポツリと呟く。

「(……やっぱり、そういうところがエリュシオン人だね)」

「何か言ったか?」

「別に」

 セルシウスとの交渉が成立したシリウスはサビクと共に去っていく。

「『人』と『人の想い』か……」

 サビクの言葉に、セルシウスは箱モノとしての建築だけに目を奪われていた己を悔い改める。

「テーマがわかれば創作など容易い! やるぞ! 我が絶対なるアスコルド様のためっ!!」

 熱意をみなぎらせるセルシウス。その時であった……。

「ボキィッッ!!」

 何かが折れた音がする。

「……」

 セルシウスがゆっくりと振り返ると、薄水色の浴衣ドレス姿で立ち尽くす若松 未散(わかまつ・みちる)がおり、未散と対になる赤い浴衣ドレス姿の茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が小さく「あ……」という声を出す。

「うおおお!? 世界樹ユグドラシルで作られたエリュシオンの国宝『咆哮狼(ホーコーロー)』のオブジェがぁぁ!!!」