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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

リアクション

 ここで話は少し変わる。

 レキと祥子が丁度、黒い金属の敵に遭遇していた頃、宮殿アディティラーヤ近くにセルシウスに建てて貰った自宅で、先ほどまでの遺跡探索の疲れを、街を見下ろすバスタブに浸って癒していたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)であった。

「うん、満足満足! やっぱり遺跡探索の後はお風呂よねー。埃だらけ、汗だらけからの解放は生き返るわー」

 広々としたバスルームで「はぁー」と幸せそうに呟くセレンフィリティに、同じくバスタブに浸かるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が苦笑する。

「埃だらけはセレンのせいだけど……でも、シャンバラでは教導団の兵舎暮らしに比べたら、嫌になるくらい立派な家を建てて貰ったわよね」

「そりゃね……だってニルヴァーナにいる時ぐらいは立派な家に住みたいじゃない!」

 セレンフィリティがセルシウスに出した要望はシンプルかつ教導団の軍人とは思えぬ要望であった。すなわち、『庭にはプールと、広々としたバスルームがついて、綺麗で恋人と二人でくつろげるような家』である。更に『そこからいい眺めを得られたら最高!』との追加注文もあった。

 セルシウスが設計した家は、少し小高い丘からアディティラーヤを一望できる、リゾート地のペンションを模した白い洋風の家であった。

 最初に完成した家を見たセレンフィリティは、『フリフリの白いドレスにピンク色のリボン付きの帽子を被り、熊のぬいぐるみを持った女の子が、白い犬を追いかけて出てきそうな家』と思ったらしいが、そこはセレアナの「住めば都って言うでしょ」の一言で納得していた。

「でもさ……遺跡で出会ったアレだけど」

 チャプッと水面を撫でたセレンフィリティが呟く。

「テツトパス?」

 セレアナが聞く。

「ううん、テツトパスもどきの事。一体何だったのかしらね……」



 その数時間前。

 セレンフィリティとセレアナは、遺跡の中を跳梁跋扈しているモンスター狩りに出かけていた。

「さーて、モンスターやっつけたら、セルシウスに建ててもらった家でのんびり過ごすわよ!」

 銃型HC弐式を持参し、遺跡内部の構造を詳細に記録しながらサーモグラフィ機能でモンスターの探知を行うセレンフィリティを見て、セレアナが小声で呟く。

「折角の休暇だから、家で過ごすだけだと思ってたけど……セレンらしいわね」

「何か言った?」

「セレンは今日も素敵ね、って呟いただけよ」

「そう? ありがと!」

 軽くセレアナにウインクして、歩きながら再び銃型HC弐式を見やるセレンフィリティ。

「セレアナ、曲がり角があるから注意してね」

 『殺気看破』を使ってモンスターや機晶ロボットなどの待ち伏せがないかどうかを充分に警戒するセレンフィリティ。

 彼女は探索に当たって特に注意すべき点は、『部屋に入る際』や『曲がり角』、それに『通路が交差するポイント』、『遺跡が崩落するなどして行く手が塞がれているような状態の場所』などだと読んでいた。

「(ビンゴ! この反応、テツトパスね!)」

 セレンフィリティがモンスターの気配に気づいて、セレアナに目配せする。

 セレアナは、セレンフィリティの合図に『女王の加護』で自分とセレンフィリティの守りを固めつつ、『パワーブレス』で同じく攻撃力を上昇させる。

「(先手必勝! 一斉に仕掛けるわよ)」

「(了解。私が『光術』で目くらましをかけるわ)」

 セレンフィリティが二丁拳銃『シュヴァルツ』と『ヴァイス』を構えて頷く。

「光よ!!」

 セレアナの光術が周囲を眩しく照らす。

 通路に踊り出たセレンフィリティが『スナイプ』と『エイミング』で命中精度を著しく高め、『アルティマ・トゥーレ』を纏わせた弾丸を連射する。

 着弾した弾丸が、即座に敵を氷結させる。その隙に、セレアナが『ライトブリンガー』で攻撃し、敵に態勢を立て直す隙を与えない。

「(八本足! あれがテツトパスね!!)」

 氷結させた箇所を、通常の弾丸で再度攻撃し、これを粉砕するセレンフィリティ。

 八本足のうちの二本が粉々に吹き飛び、敵は体勢を大きく崩す。

「え? ちょ……!?」

 セレンフィリティと目が合った黒い物体は、その口部から火炎放射を放つ。

「危ないわね! 私にパーマは似合わないのよ!」

 お返しとばかりに『アルティマ・トゥーレ』を纏わせた弾丸を連射するセレンフィリティ。

「セレン、援護して!」

 フロンティアソードを構えたセレアナが地を蹴って突撃する。

「OK!」

 跳びかかるセレアナに目を向けた敵に、再びセレンフィリティの弾丸が襲う。

 粉々になった敵のボディが宙を舞う中、セレアナがフロンティアソードを敵のボディに突き刺して、宙返りの後着地する。

「今よ、セレアナ!」

 体を貫いたフロンティアソードで、地面に固定されてもがく敵に、

「天のいかづち!!」

 フロンティアソード目掛けて最大出力で放出された雷が敵を直撃し、激しく感電した敵は、そのまま事切れてしまう。

「ふぅ……終わったかしら?」

 動かなくなった敵にゆっくりとセレンフィリティが近寄る。

「セレン? これがテツトパスなの? タコっぽくないわよ?」

「でも、あたしが吹き飛ばしたのを含めて足は8本あるけど……」

 しゃがんで、じぃーっと焼け焦げた敵を観察していたセレンフィリティが何かを見つける。

「あ……商品タグだ」

「タコに?」

 激しく焦げているため、一部しか読めそうにないが、『博識』を持つセレンフィリティが読解を試みる。

「えーと……『これは、恋人……用機……ロボ……取り扱……注……』て書いてあるわね」

「『恋人へのプレゼント用機晶ロボット。取り扱い注意』じゃない?」

「古代でも、こんな危ないもの送られて喜ぶ人いないと思うけど……あ! きっと『恋人を鍛える用機晶ロボット。取り扱い注意』じゃない?」

「それも喜ぶ人はいないわね……何にしろ、これはテツトパスじゃなかったみたいね。この足、タコのそれと違って関節があるもの」

「なーんだ、ガッカリ」

 パンパンと汚れた手を払ったセレンフィリティが立ち上がる。

「ま、何にしろモンスター狩りのターゲットとしては面白い相手だったけどね」

「そうね……どうする。まだ時間はあるからもう少し深く潜ってみる?」

「うーん……あたしは堪能したから、もういいかなぁて気分。セレアナは?」

「汗かいたし、お風呂に入りたい気分ね」

「じゃあ帰ろうか?」

 セレンフィリティが脱出のためのショートカット通路を見つけ、機晶爆弾を投げたのはその数分後のことであった。





 遺跡で出会ったあの機晶ロボットの事をセレアナが少し考えた後、セレンフィリティに尋ねる。

「強敵だったけど、テツトパスじゃ無かったのよね……明日、もう一度遺跡に賞金首狙いで潜ってみる?」

「冗談! 明日はシャンバラに戻って教導団のお・し・ご・と。羽を伸ばすためにこっちに来てるんだし」

「羽を伸ばすって……それなら普通は遺跡探索なんてしないと思うわよ?」

「……伸ばさないと、伸ばし方を忘れる羽もあるってことよ!」

 パシャッと音を立ててセレンフィリティがバスタブから立ち上がる。

「さて、お風呂上がりに冷えたフルーツ牛乳でも飲みますか」

 セレンフィリティに続いて、セレアナも慌ててバスルームから出ていく。「セレン? 二人だけだからって、裸でキッチンまで行くのはナシね。窓全開だから……」と注意するのはセレアナの役なのであった。