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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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 セルシウスが次に訪れたのは、一見すると普通の2LDK程の赤レンガ造りの平屋建ての家であった。こちらは着工が早かったため、既に完成していたのだ。

 出迎えたパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)に案内されたセルシウスは中に入っていく……が。

「ごめんなさい。ちょっとあなたには見せられないものがあるんです」

「エ?」

 同行していたディンスにパビェーダは申し訳なさそうな顔をする。

「む……」

 様子を見ていたセルシウスがある事を思い出し、

「ディンス殿。すまぬがこちらの見学は私一人で行うという約束であったのだ」

「そうなんデスカ……わかりマシタ! では街を見てきマス!」

 ディンスはパビェーダに名刺を渡すと、街へと消えて行く。

 匠やセルシウスに了解が取れれば同じタイプの商品を売り出したいし、ダメでも新商品の参考にしたいと思っていたディンスにとっては、十分な収穫があったようだ。

「……これで良いのだな?」

 パビェーダはセルシウスに微笑むと、ドアの奥へと消える。

「(……かつて地球のピラミッドとやらを作った設計士は、秘密保持のため完成後殺害されたと聞くが……)」

 セルシウスは少し不安に思いながらも、パビェーダの家へと消えて行く。

 案内された家の中は、パビェーダがニルヴァーナに来た時にパートナーと二人で過ごすための家であり、二人で過ごすのに必要十分な大きさを誇っていた。

 12畳のベッドルームには二人で眠れる大きさのダブルベッド、さらにウォーキングクローゼット付。また、もう一つあるベッドルームはゲストルームとして使用することができる。16畳程のリビングも、二人では少し広すぎるくらいだ。そして、それとは別にカウンターキッチンのある10畳のダイニング。もちろんバスとトイレ等もこだわり、基本的な内装はヴィクトリアン様式にまとめてある。

「引越しも終わったようだな……ん、人の声? 友人か?」

 家の中をひと通り見たセルシウスがパビェーダに言うと、

「あなたには一足早く完成させて貰ったから、今日は見学会なのよ」

 パビェーダと共にダイニングルームへと向かうと、そこにはお茶を飲む空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)夏來 香菜(なつき・かな)の姿があった。

 案内されたセルシウスが香菜達と暫し話をしていると、茅野 菫(ちの・すみれ)が現れる。

「ようこそ我が家の一部へ!」

「あれ、ここ、パビェーダ名義の家じゃなかったっけ?」

 たいむちゃんが言うと、菫は口の端を少し上げる。

「厳密に言えば折半なの」

「折半?」

「……」

 設計士として事実を知るセルシウスは黙って菫の話を聞いている。

「元々の家としての部分はパビェーダの名義、そして……まぁ、聞くより見る方が早いわ」

 菫はそう言うと、一同をリビングへ誘い、一枚の威厳がありそうな軍服姿の男の肖像画の前に立ち止まる。

「これから見せるのが、もう一つのあたし達の家の姿だけど……あんた達?」

 背をむけたまま菫が確認する。

「今から見ること、知ることは……全て他言無用だからね?」

「……もし、話せば?」

 恐る恐る香菜が尋ねる。

「……あたしの口からは言えないね」

「……」

「どうしますか?」

 パビェーダが一同に尋ねる。

「……わかりました」

「……私も」

 香菜とたいむちゃんはそれぞれ同意する。

「セルシウスさんは?」

「私は設計士だ。顧客のプライバシーは守るつもりだ。それがどんな事でもな」

「結構」

 菫は肖像画の男の目に触れた指を左右に動かす。

「ゴゴゴゴゴッ!」

 リビングの床が不気味な音と共に開いていく。

「隠し階段!!」

 たいむちゃんが弾んだ声を出す。

「さぁ、あたしの秘密基地へどうぞ?」

 菫は隠し階段を降りていく。

 ×  ×  ×

「凄い! 地下室だわ!!」

 階段を降りた香菜が驚愕の声を出す。

「うむ……設計通りだな」

「ええ、その節は少し無理を言ったかと思ったんだけれど、本当にあたしの要望を聞いてくれるなんてね」

「……私は設計士だからな」

 菫がセルシウスに作ってもらった地下室は、40畳の大広間と12畳の部屋が1つ、あとは8畳の部屋が3つほどと言った構成であった。その内装はパビェーダの強い要望により、こちらも上と同じくヴィクトリアン様式が取り入れられている。

「広い部屋……大きな机に、椅子が一杯、それにボード……。ここは会議室かしら?」

 香菜が大広間を覗きこんで唸る。

「わぁ! 何か偉い人が座りそうな椅子! それに……これ作戦書?」

 12畳の部屋を見学していたたいむちゃんが、マホガニーの机の上に書類を見つけ、手に取ろうとするが、パビェーダがそれをすかさず奪い返す。

「これは、お見せできないんです」

「えー? 見学会じゃないの? 見せてよ!」

「……見せてもいいですけど、私達の仲間になって貰わない以上、二度と地上の光を見れませんよ?」

「あ……私、見るのやめるよ……」

 セルシウスは菫と共に、8畳の部屋を見ていた。

「ここは……多目的室か?」

「雑魚寝用の部屋、といったところね」

「……貴公らの属する組織の?」

 菫はニコリと頷く。

「どうも、設計の段階からおかしいと感じていたが、これではレジスタンスの秘密基地ではないか! ……貴公はここで何をするつもりなのだ?」

「目的はまだ言えないわ……最も、あんたがあたし達の仲間になるなら話は別だけど」

「……」

「さて、大広間へ行きましょう。あんたに作って貰った仕掛け、今日が初可動の日なの」

「アレか……」

 後ろめたさを感じつつも、セルシウスもその『仕掛け』には随分苦労したので、どう動くかが見てみたいという好奇心が疼く。

 菫は大広間に一行を集めると、難しそうな本が並ぶ本棚から一冊の本を引き抜き、奥に隠されたスイッチに手をのばす。

「ゴゴゴンッ!!」

 大広間の壁が動き、隠されていた下り階段が現れる。

「また、階段……」

「さ、行きましょう」

 香菜を促した菫が先頭に立ち階段を降りていく。

「……」

「…………」

「………………」

「……ねぇ、長くない?」

 暗闇の中、階段を歩き続けるたいむちゃんが疲れた声を出す。

「はぁはぁ……どれ位歩いたのかしら? 真っ暗だからわからないわ」

 香菜も息をつく。

「もう少し……」

ゴンッ!!

「あ、イタタタ……頭ぶつけたじゃない!」

 これは香菜の声。

「着いたわよ」

 菫が言うと、何やら鍵を差し込み、回す音がする。

 一行の頭上から光が差し込んでくる。

「わ! 眩しい……って!? ええぇぇぇー!?」

 たいむちゃんが目を開いた先には、眼下に広がる家々。

「地下世界?」

 香菜が風に髪をなびかせ、辺りを見回す。

「違うわ。ここはニルヴァーナよ。アレを見て」

 外に出た菫が指さした先には、先ほど入ったパビェーダと菫の赤レンガの家が見える。

「あれ? 私たち、確かあそこから入って……」

「うまく行ったようだな」

 セルシウスが菫に言うと、菫は満足そうな顔を見せる。

「本当! 誰も気が付かなかった」

「どういう事?」

「香菜、あの階段、下りだと思った?」

「え、うん……」

「それにしては随分長いこと歩いたし、疲れたって思ったんじゃない?」

「……まさか!?」

「そう、あの階段は、実はだまし絵になっていて、降りていると見せかけて登る仕様なのよ」

 菫は『脱出用の階段』としてセルシウスに先ほどの通路を作って貰っていたのだ。今現在、彼女たちが立つ場所は、パビェーダに案内された家から3軒隣の家の屋根なのである。

「大変であったぞ。この家の住人にバレぬよう、階段を作るのはな」

 上手く香菜達を騙せたからか、どことなく誇らしげなセルシウス。

「ニルヴァーナに秘密基地を確保しておきたいって思ってね」

 菫はそう言うと、香菜達に振り向き、

「さて……。あたしの家の目玉と言える隠し部屋まで見学させてあげだけれど……始めにも言ったけど、ここで見たことは他言無用だからね?」

 菫は軽くウインクしながらそう言うと、「できればに結社に入らない?」と真っ黒に組織の模様が印刷されたパンフレットのようなモノを渡し出すのであった。尚、その案内を読んだ二人が組織に入ったかどうかは定かではない……。



「ううむ、よもや秘密基地を作らされていたとは……やはりシャンバラの者は侮れん」

「ええ。あそこで何をするつもりなのかしら……」

 菫の家を出たセルシウスは香菜と共に道を歩いていた。奇遇にも二人共目的地は同じなのだ。セルシウスは設計士として完成した物件の見学に。香菜は家主から招待されたお客として。

「今度もああいった類いの家なのかしら……」

「馬鹿な事を言うな! あんな特殊な建築……」

 言葉に詰まるセルシウス。

「……他にもあるのね?」

「いや、まだそうと決まったわけではない!」

 頭を振るセルシウスを、香菜が疑いの目で見つめる。