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これが私の新春ライフ!

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●新年会の華もよう

 秋月 葵(あきづき・あおい)は昨年、ロイヤルガードとして忙しく公務に明け暮れた。今年もきっと、忙しい日々が待っていることだろう。しかし元日の今日ばかりは、何の予定もないオフなのだった。
「たまにはゆっくりするのも良いかなぁ〜」
 ということで、ゆっくりと目覚めて寮から出ると、葵はエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)の家にお邪魔したのだ。
「明けましておめでとう〜♪」
「あけましておめでとうごさいます」
 まずは連れだって近場の神社まで出かけ、簡単ながら初詣を済ませる。ふたりとも鮮やかな色の振り袖姿だ。葵はアクアブルー、エレンディラは若草色の地で、並んで歩く様は花が咲いたようではないか。葵の髪にあるは、リボンと兎の髪飾りだ。また、その頭の上にはゆるスターの『マカロン』がいて、忙しなく左右を見ているのだった。
「それでは、私の家で食事にしましょうか」
 葵を連れ、エレンディラはいそいそと彼女を座敷に案内した。
「つまらないものですが……」
 謙遜しながらエレンディラが漆塗りの重箱を開けると、美味しそうなお節料理が顔を見せた。
「つまらないなんてとんでもない。すごいよ〜♪」
 葵は目を輝かせた。山海の珍味が沢山、所狭しと並べられている。煮物は少なめで、チーズやハム、サーモンといった明るい色合いの食べ物が半分程度を占めていた。葵の好物がたくさん詰められているのは、彼女の来訪に合わせるためだった。
「これ全部一人で作ったの!?」
「はい、日本のお節を頑張って作ってみました。といっても判らないところだらけで間違っているかもしれませんが……」
 照れながらエレンディラは述べると、「すぐにお雑煮も出来ますから、座っていてくださいね」と席を立った。そこに、
「あけましておめでとうございます。お招きいただき感謝します」
 来客有り、それは周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)、やはりエレンディラに招待されてきたのだ。彼女(そう、『彼女』だ)は部屋に案内され、恭しく一礼した。そのあたりのエレガントさは、美周郎と呼ばれた貴公子の頃から何ら変わりない。
「こうやって新年を楽しむの良いものですね」
 周瑜も着席し、三人揃って食事と相成った。
「お正月ですから公瑾お姉様には、お酒をお出ししますね。葵ちゃんは飲んじゃダメですよ」
 エレンディラは周瑜に杯を手渡し、純米酒をとくとくと注いだ。
「これはありがたい。普段は学院内の寮暮らしで飲めませんからね」
 さっと受け、優雅に口にする周瑜の姿は、まさに一枚の絵のようであった。
「あたしの杯も受けて〜。公瑾ちゃん、注いであげるね〜♪」
 干した杯に、ふたたび葵が清酒を与う。これを口に運びながらふと、周瑜はかつての自分を思い出していた。
(「あの頃もこうやって正月を祝ってましたね……」)
 こことはまるで違う時代の、まるで違う世界における話ではあるが、周瑜にとって正月はやはり宴の記憶と直結していた。妻の小喬に杯を満たされ、義兄弟の伯符(孫策)と競うようにこれを傾け、笑いあったものだ。
 命の水を二杯、きこしめして興が乗ったか、
「では新年を祝って一曲奏でよう」
 持参した弦楽器を持ちあげ、周瑜は言祝ぎの音楽を奏で始めた。しばし、葵もエレンディラも聞き惚れていたが、
「せっかくなので華を添えるね。お目汚し失礼〜♪」
 音楽につられるように葵が立ち、舞いはじめたのだった。葵のステップは日舞ゆえ、周瑜はさりげなく、音楽を純邦楽へと組み替えた。
 楽しい音楽と美味なる食事、そして、かけがえのない仲間たち。年明けの一日にこれ以上ふさわしいものがあろうか。

 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)も新年会の準備に忙しい。彼らの新年会は夕方からの開始を予定している。昼餉をお節で簡単に済ませると、さっそく涼介は材料を冷蔵庫から取り出した。
「佳い鴨肉が手に入ったのは僥倖だったよ。せっかくだからこれで鴨鍋にしようと思うんだ」
 それは昨年末、普段からよく買い物をする近所の商店の女将さんが「特別に」と譲ってくれた上物の鴨肉だった。肉柔らかく旨味もたっぷり、そうそうは出ない最良の肉だという。見事な手際でこの肉を、涼介はてきぱきと捌いていった。
「いいですね。それでははじめましょう」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)はエプロンを巻いた。大鍋は二つ、野菜や葛きりも用意しはじめた。
「じゃ、ボクも兄ぃのお手伝い。食器を準備するよ〜」
 ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)は、お祝い用の食器を倉庫に取りに向かった。
「え〜と、今日出さなきゃいけないのはおなべ用のコンロと器とおせち料理を取り分けるお皿だね」
 本当はアリアクルスイドも料理を手伝いたいのだけど、涼介とクレアが作るというのであれば、自分の出る幕はないと思ったのだ。
(「本当は兄ぃのお手伝いをと思ったけどクレア姉ぇがやってるからね。僕も料理には自信があるけど、兄ぃ達には勝てないもの」)
 といってもアリアには向上心があった。食器の準備をしながらちょろちょろと、涼介・クレアの手さばきを見て、その技術を学ぶのだ。
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)にも準備したいことがあった。別室にて、
「せっかくのお正月なのですから、おめかしをしたいですわね」
 とスキル『変身』で様々な振袖を用意し、ああでもないこうでもないと選んでいた。自分の着る分だけではない。エイボンは、クレアとアリア用の着物イメージにも頭を悩ませていた。といっても、エイボンのこの準備は涼介には内緒だ。サプライズ的にお披露目して驚かせてあげたい。
 内緒といえば、クレアも食事の準備の合間に、携帯電話でメールを作成している。文面は以下の通り。
「明けましておめでとうございます。クレアです。突然だけど、今日の夕方から時間あるかな? おにいちゃんがおいしい料理を作って、新年会をしようっていってるんだ。
 もしお時間がある場合は遊びに来てくださいね」

 さっと作成して手早く送信した。
「あれ、誰かにメール?」
 気づいて涼介が問うた。
「今日の新年会にゲストを呼ぼうと思ってね〜」
「それはいいね。誰に出したの?」
 くすくすとクレアは笑った。しかしクレアは、メールを送った相手について訊かれても、
「ふふん、内緒だよ。それよりもさ、早く準備しちゃおうよ」
 とのみ答えて作業に戻ってしまった。