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リアクション
「……ともかく、これでちゃんと身体も洗えたし、ゆっくり湯船に浸かろう」
楓に渡して貰った石鹸で身体を洗った佑也は、刀真の傍に浸かる。
「言ってくれれば、石鹸くらい貸したのに」
「樹月くんに悪いかなって思って……あー、やっぱり広いお風呂はいいね。疲れが全部飛んでいくよ」
「風呂は命の洗濯だ」
「ホントにそうだねぇ。身体だけじゃなくて、心まで洗われる感じだよ」
「ああいう事さえしなければな」
ユーシスに抱えられて行くシャウラを見つめる佑也。
「……そっちじゃない」
「え?」
「月夜達の方だ」
何か居心地の悪そうな顔を見せる刀真。
「白花がいるから、って安心してたけど、月夜達にはもう少し銭湯のマナーを守って欲しいな」
「おっと! ちょっとすいませんね」
タオルを腰に巻いた男、ガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)が湯船に浸かる。
「はー。いい湯ですねー」
ガイに話しかけられた佑也は「ええ」と頷く。
「風呂ってのは隠し事が出来ない。それ故に素晴らしい、なんて俺は思うわけですよ」
「確かに……」
浴場にガッシリとした体型の男が現れる。
「おおお…こいつはすげぇ…!」
風呂場を見て、満足気に頷いたのは、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)であった。
「いやいやこいつはすっげぇな。ってか天国じゃねぇか!」
元来の風呂好きのラルクは、慣れた動きで、嬉しそうなにかかり湯を身体にかけ、タオルを頭に載せて湯船に浸かる。余談であるが、入水時は先客に波がかからないよう、そっと入るのがマナーである。ラルクは勿論心得ているが。
「ふー! 極楽極楽……やっぱ温泉は普通の風呂とはやっぱちげぇよなー。このがっつりくる熱さがたまんねぇ! そう思うだろ? ガイ?」
「ああ。最初は恥ずかしかったけど、入ってしまえばこっちのもんだしな」
どう見てもラルクと、彼より歳上のガイとの関係が少し気になる佑也。世の中には、ノンケが迂闊に入っては行けないサウナや温泉があると聞くが、その類いなのだろうか、とすら考える。
「だろう? 今日誘った俺に感謝しろよ……ん?」
ラルクの視線が湯船の中のガイの腰辺りに向けられる。
「おい! 風呂ん中にタオルをつけたまま入るんじゃねぇ!」
「え?」
「脱げ脱げー!」
ラルクがガイのタオルを剥ぎ取りにかかる。
「何やってんだ!? おい! くそ! 脱がされてたまるか!!」
必死に抵抗するガイ。
「(何か抵抗してやがるが……)俺に力で勝とうなんざ数年はえぇぇ!!」
腕力に絶対的な自信があるラルクが、ついにガイのタオルを取る
「よっしゃ!タオルをぬがせ……」
どぅるるんっ!
「!!!!!(で、でか!?)」
ガイの巨大の砲台が顕になり、ラルクはしばしそれを凝視してしまう。
「……だから、取りたくないって言ったんです。幼少の頃から友人達にもからかわれたんで」
「幼少?」
「まだ10代の頃ですよ」
ガイの隠されたコンプレックスを見てしまったラルクは、ポリポリと頭を掻く。
「(ついついガイの砲台をみちまったが……俺もそれなりに大きさには自信があったが……これは俺と同等かそれ以上じゃね!?)」
ガイが何故ラルクと並ぶ砲台を持つのかには理由があるが、それはラルクの与り知らぬところである。
ラルクはガイに今しがた剥がしたばかりのタオルを投げてやる。
「す、すまねぇな……うん。俺は何もみてねぇからな!」
「ラルク……」
怒りの眼差しを向けるガイを置いて、「(と、とりあえずマグマ風呂に入れば追ってこないだろうし……)」と、ラルクは早足で風呂場を去っていく。
「ちっ、逃げ足の速い奴め!」
舌打ちしたガイは、湯船に浮かぶタオルを引き寄せ、今度は頭の上に載せる。
「まぁ、こっちはこっちで風呂を楽しみやしょうか」
ガイは、どうせもう見られたしタオルはなしでいいし、よく考えてみたら男湯だし、じっと見てくる奴もいないだろうしな、と考え、いつか聴いた事にあるような歌を小さく口ずさむ。彼はラルクとは後で合流すればいいとも思っていた。
ラルクとガイのやり取りを見ていた刀真は、両者の決着とともに湯船からあがる。
「あがるの?」
「ここはさっさと上がってコーヒー牛乳を飲もう。風呂上がりのコーヒー牛乳は俺のジャスティスだからな」
「じゃ、僕も付きあおうかな。ガイさん、またね」
「ああ、すいませんね。つまらぬ騒動をお見せし……」
ガイの視点が、歩いて湯船を移動する二人の下腹部に向けられる。
シャキィィーンッ!!
ゴゴゴゴッ!!
「!!!!!」
片や、しなやかさと居合い刀のような鋭さを備えた柔の武器。
もう片方は、立ち向かう者を一刀両断しそうな剛の武器。
自分とは異なる武器を持つ男達を見送ったガイは、パラミタの広さを実感するのであった。