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ザ・修行

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第14章 玉砕して修行だぜっっっっっっっっ!!

「さあ、冥王星に呼びかけてみますわ」
 そういって、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は、ストーンサークルの真ん中に座り込むと、目を閉じて、精神を集中させた。
「大丈夫ですか?」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)が、心配げに、イコナを見守っている。
「一応、やってみようと思いますわ。これでも、一大決心をしてここにきたのですから」
 イコナは、ティーにそういって、うなずいてみせた。
 冥王星に呼びかけて、召還してみよう。
 それが、イコナのやろうと思った修行だった。
 まず、失敗するとは思うが、冥王星と交信することぐらい、できるかもしれない。
 どうしても、やってみたいと思ったことだったし、イコナはやるつもりだった。
「はああああああああ」
 イコナは、精神をどこまでもクリアに、濃密に保って、遥かな高みへと心を向けた。
(聞こえてきましたわ……これは、冥王星の声!?)
 だが、そうではなかった。
(な、なんですの、これは!! 意識が遠くなる……あっ)
 イコナは、何かに自分が乗っ取られるような感触を覚えた。
「イコナちゃん、イコナちゃん!! どうしたんですか?」
 ティーは、イコナの身に起きた異変に気づいた。
 ぐわっ
 イコナは、目を見開いた。
 だが、瞳の色が、ひどく虚ろだ。
「何か、悪霊の影響を受けたのでしょうか? 困りましたね。鉄心さんに連絡をとりましょうか?」
 ティーは、源鉄心(みなもと・てっしん)に呼びかけられないか検討してみたが、すぐには難しかった。
 そして。
「……来ます、来ますわ。冥王星が。このわたくしの力で!!」
 イコナは、虚ろな瞳のまま、異様に甲高い声でまくしたてると、天空を見上げ、大きく両手を掲げた。
「この、やり方!! いつものイコナちゃんのやり方ではありませんね」
 ティーは、イコナが何か、低次だが強い力を持った存在、そう、まさに悪霊の影響を受けたのだと確信した。
 イコナのような経験者でさえこうなるのだから、交信などは軽々しく行うべきではないのだ。
 この地上には、いくつもの、邪悪な英霊たちがうようよしており、それらと感応してしまうと、大変なことになるのである。
 今回イコナは、特にたちのわるいものの影響を受けたようだ。
「はああああああああ!!」
 イコナの呼びかけに応じて、空の高みで異変が生じた。
 もちろん、本来の彼女なら、決してできないことである。
「えっ? まさか、本当に冥王星が召還されるんですか? 嘘ですよね?」
 ティーは、戦慄した。
 いや、違う。
 召還される、などという、なまやさしいものではない。
 これは、まさか。
 冥王星が、落ちてくる!!

「ダメだ。『冥王星が落ちる』ということに関して、誰も、たいした情報を持っていない。予兆もない」
 風森巽(かぜもり・たつみ)は、荒野を走りまわって調査を行ったのが、徒労に終わった。
「すんませんな。俺が、そんなお告げを聞いたばっかりに」
 上條優夏(かみじょう・ゆうか)は、申し訳なさそうにいった。
「謝ることはない。人々の暮らしを脅かす危険があるなら、その芽は事前に摘んでおかなければならない」
 風森は、そういって、なおも調査を続けようとした。
「やあ。何をしておる?」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)が、威勢よく現れた。
「ハデス! まさか、お前が冥王星落下計画を!? いや、そんなわけないか」
 風森は、自分で自分の考えをバカバカしいと思った。
 そんな力があれば、とっくの昔にオリュンポスは世界征服を達成しているだろう。
「聞け。もうすぐ冥王星が落ちるらしい。我の発明品で、探ってみようではないか」
 そういって、ハデスは、万華鏡のようなものを組み立て始めた。
 失礼、望遠鏡をつくろうとしているらしい。
「さて、みてみよう!! おお、本当に落ちてくるぞ!!」
 ハデスは、驚愕の叫びをあげた。
 風森たちも、度肝を抜かれた。
「な、何だって!? って、そんなのみなくても、空を見上げれば、ほら!!」
 全員が、上空を仰いだ。
 そこには。
 ごごごごごごご
 地上に急速接近してくる、巨大な隕石のようなものの姿があったのである!!

「お、おわあ! い、いかん、対抗する兵器の開発が間に合わなかった!! ただちにオリュンポスのシェルターに避難する!!」
 そういって、ハデスは、泡をくって逃げ出していった。
 本当に、シェルターなどあるのだろうか?
「みんな、急げ!! 本当に冥王星が落ちてきたぞ。全速力で退避を、って、おい、しっかりしろ」
 修行場の生徒たちに呼びかけた風森は、愕然とした。
「えー、いやー、無理無理!!」
 何と、生徒たちのほとんどは、修行に疲れきって、逃げ出す気力もなかったのである!!
 特に、バトルで修行していた生徒たちの疲労が、顕著であった。
 そのとき。
 一人、元気な生徒の姿があった。
「いよー! はー!! あと一人、はあはあ。でも、それどころじゃないの?」
 えんえんと百人組み手を行っていた、武神牙竜(たけがみ・がりゅう)である。

→→→武神の百人組み手、現在99人達成!!
でも残る1人まできて、相手がいなくなったぞ!!


「くそっ、どうすれば! おや、あれは!!」
 風森は、気がついた。
 ストーンサークルの真ん中に立って、ひたすら上空を仰ぎ、両手を広げて何かを呟いているイコナの姿に。
 その側には、ティーがおろおろと歩きまわっていた。
「イコナちゃん、やめましょうよ、冥王星を落下させるなんて!」
 その声を聞いて、風森は悟った。
「ついにみつけたぞ。この子が元凶か! はあああああ!!! かーっっっっっっ!!!」
 風森は、手刀でイコナの首筋に喝を入れた。
 ティーもびっくりするほどの、すさまじい喝だった。
 すこーん
「……はっ! 私は、どうしていたのでしょう? 記憶がなくなっていましたわ」
 我に返ったイコナが、驚いたような口調でいった。
「悪霊に心を支配されていたようだな。でも、これで、冥王星は……あっ!」
 天空を仰いだ風森は、愕然とした。
 イコナが正気に返った後も、冥王星は地上への接近を続けていたのだ。
「申し訳ありません。おそらく、私から抜けた悪霊たちが、冥王星を引っ張り続けているのですわ。私は、きっかけをつくり、奴らは、それを利用しているのですわ」
 事態を理解したイコナは、意気消沈としていった。

「うわー!! 本当に落ちてくる!!」
「助けてー!!」
 修行場の生徒たちは、そのほとんどが、いまや地上に触れんばかりの距離となった冥王星を目にして、パニック状態になって逃げ惑った。
 もちろん、何があろうと不動だと、修行を続けている生徒もいたが、パニックにならない方が珍しい状況である。
 そんなとき。
「おい、お前ら、もっとしっかりしろ! 世界の危機を救えなくて、何の修行だ!! 逃げることしか考えないで、恥ずかしくないのか!!」
 おやっさんが現れて、生徒たちに怒鳴りつけたのである。
「えっ、わかったよ。でも、どうすれば、あんなものを」
 生徒たちは、冷静さを取り戻したものの、打開策など思いつくはずもなかった。
 ごごごごごご
 そうしている間にも、冥王星は接近してくる。
 もう、落ちるか?
 誰もがそう思った、そのとき。

「ぐつぐつぐつ。あー、熱いぜ、死ぬぜ、燃えるぜ、焼けるぜコラァ!!!」
 温泉のうえにわたした鉄板のうえでひたすら汗をかいて修行していた天空寺鬼羅(てんくうじ・きら)が、ついにひとつの頂点に達したのである。
「さあ、来るぜ、来るぜ、来るぜコラァ!!! オラ、オレの中からいま、出るんだよぉ、熱き魂がよぉ!! 熱いタマだよ!! 燃えて、焼けて、生まれるんだよぉ!!」
 鬼羅は、絶叫した。
 鬼羅の体内から、何かが外に出ようとしていた。
 素晴らしい力を持った、大いなる存在が。
 それは、生命だった。
「あっ、あっ、きたきた、きたー!!」
 鬼羅は身悶えた。
 自分の中の何かが、いま、弾けて飛び散ろうとしていた。
 鬼羅は、天空に目を向けた。
 迫り来る、冥王星。
「ずいぶんでかいじゃねえか。よし、あそこで産んでやるぜ!!」
 鬼羅は、覚悟を決めた。
「うひょおおおおおおお、イクイク、イッチャウーーーーーーーアフーーーーーーーーン」
 鬼羅は、全身全霊を込めて、大跳躍を行った。
 その身体が、冥王星に吸い込まれるように消えていく。
「さあ、きたぜ、謎の星!!」
 鬼羅の身体は、冥王星の表面を割り、その奥へ奥へと突っ込んでいった。
「おかしい。冥王星とは、あのように簡単に奥へと入れるものなのか?」
 事態を見守っていた風森は、眉をひそめた。
「ここが中心か!! よし、オレの修行の成果!! 産む、産む、産むーーーーーー!!!!」
 鬼羅は、冥王星の中心で、大絶叫した。
 同時に、自分の中の熱き魂を解放する。
 ちゅどどどどどどどどーん!!!!
 大爆発が巻き起こった。

「みろ! 冥王星にひびが!!」
 生徒たちは、絶叫した。
 あともうちょっとで墜落というところで、冥王星が振動を始め、表面にひびが入ったのだ。
「あっ!!! 割れた!!!!」
 生徒たちの眼前で、空いっぱいを覆っていた冥王星は、バラバラに砕け散っていった。
「問題解決か。いや!!」
 風森は、再び戦慄した。
 砕けた冥王星のかけらが、地上に大量に降り注いできたのだ!!
 多くは大気圏で燃え尽きるだろうが、大きな塊は、そのまま落ちてくると思われた。
 どうすればいい?
「わかったぞ。はあああああああ」
 気合とともに、風森はソークー1に変身した。
「ソークー1! どないするんや?」
 上條優夏(かみじょう・ゆうか)が、尋ねた。
「いまこそ悟ったぞ。あれは、冥王星ではなかった。ただの、大きな隕石だ!!」
 風森はいった。
「何やて!? ということは」
「そう。やれるんだ。俺たちで!!!」
 風森の言葉に、うなずいた者がいた。
「わー、そうだったんだ。やれるんだね!!」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は、大はしゃぎだ。
「やるって、地獄車か?」
 優夏は尋ねた。
「いや。さすがにそれは無理だ。稲妻のみ行おう。いくぞ!!」
 風森と美羽は駆け出した。
「サンダー!!!」
 風森が指を突き出して叫ぶと、暗雲が垂れ込め、雷鳴がとどろいた。
「いくぞ。とおっ!!」
 風森は、ありったけの力をこめて跳躍した。
「とおっ!!!」
 美羽も跳躍した。
 他の生徒たちも、次々に跳躍した。

 跳躍した風森は、降り注ぐ隕石のかけらに激突していった。
「くらえ、稲妻キーーーーーーック!!!」
 どごーん!!
 落雷が隕石のかけらを襲うと同時に、風森のキックが、かけらに炸裂した。
 どかーん!!
 隕石のかけらは粉々に砕けて、散っていった。
「いくよ、ハリケーンキーーーーーーック!!!」
 美羽のキックも、かけらを砕いた。
 どかーん!!!
 どかーん!!!
 他の生徒たちも次々にキックを決め、隕石のかけらを、ことごとく破壊してしまったのである。

「あれは……、みんなの勝利ですね!!」
 地上から非不未予異無亡病近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、生徒たちの活躍を目の当たりにして、喝采を叫んだ。
「でも、悪霊たちはどうなったんでしょう?」
 近遠がそういったとき。
「心配はいらぬ。風森、というのか。あやつらのあまりの気迫に驚いて、悪霊たちは退散してしまったわい。悪霊がつくもつかないも、気のもちようなのじゃ」
 {SFL0045527#【分御魂】 天之御中主大神}がいった。
「そうなんですね。すごい!!」
 近遠は、見事、地上の人々を救った風森たちを、崇敬せずにはいられなかった。

 そして。
 奇跡は、それだけではなかった。
 空の彼方から、光に包まれて降りてくるものがあった。
 これは……神か?
 いや、違う。
 天空寺鬼羅(てんくうじ・きら)だった!!
 冥王星、というか隕石に突っ込んで死亡したと思われていた鬼羅が、奇跡的な帰還を果たしたのである。
「がーはっはっは!! 勝利、勝利!! もうオレを止められる者はいねえぜ!! だけど、オレが生んだ、熱き魂はどうなったんだろうな?」
 鬼羅は、首を傾げた。
 まさか、そのまま星になってしまったのだろうか?

「教えて下さい。鬼羅さんは、どうして帰ってこられたんでしょう?」
 近遠は、英霊たちに尋ねた。
「神の奇跡、といってもわからぬか。鬼羅は、冥王星が爆発したときに、一度死んだのじゃ。じゃが、鬼羅が修行の結果生み出した熱き魂が、すぐに鬼羅の肉体に宿り、見事に復活させたのじゃな」
 【分御魂】 天之御中主大神がいった。
「ええっ、それでは、鬼羅さんは、生まれ変わったようなものですね。そんなこと、本当にありうるんですか?」
「むろん、通常はありえぬ。神が手助けしたのじゃろう」
 【分御魂】 天之御中主大神の言葉に、近遠は首を傾げた。
「その、神とは、何ですか?」
 だが、その問いに、答えが返ってくることはなかった。
「教えて下さい。優夏さんに、冥王星が落ちると教えた存在は、何だったんですか? 最初は低次元の存在かと思ったけど、違うような気がするんです。何らかの高次の存在と交信できたように思うのですが?」
 近遠は、重ねて尋ねたが、【分御魂】 天之御中主大神たちは、温かな目で近遠を見守るのみだった。
「そなたは、自分自身の交信で、何を感じることができたか、それを思い出すんじゃ。おおいなる気づき。それこそが、御魂の向上の第一歩なのじゃ」
 やっと、【分御魂】 天之御中主大神たちは、それだけをいったのである。
「ボクが、交信で感じたこと。それは」
 近遠は、思い出した。
 闇に抗う光をみよ。
 それが、近遠が交信した存在からのメッセージだった。
 そして、その光を、近遠は確かにみたのである。
 それは、今回は、風森たち、勇気ある生徒たちだったのである。
 闇あるところ、必ず光がある。
 まず、その光に気づくこと。
 その「気づき」こそ、近遠が交信した存在が、期待したものだったのだ。
「わかりました。それでは、今日からまた、ボクはボクの修行を、少しずつ続けていきましょう。そうすることで、また、あの存在とも交信できるのでしょうね」
 そういって、近遠は、喜びにわく生徒たちに背を向け、とぼとぼと歩き出していったのである。
 明日に向かって。

「鬼羅、バンザーイ!!」
「鬼羅、バンザーイ!!」
 生徒たちはみな、鬼羅の帰還を喜び、その業績を讃えた。
 鬼羅は、隕石の破片を刻んでつくった自分の石像を置くと、「これがオレの産んだ魂だ」と語ることにした。
 以来、その像のある修行場は、シャンバラ大荒野屈指の怪奇スポットのひとつとして、後々まで語り継がれていくことになるのだった。

 最後に。
 イコナは、鬼羅に謝ろうと思って対面したという。
 だが、鬼羅は、笑って「これからもがんばれよ」というのみだった。
 そして。
 去ろうとするイコナに、鬼羅はこう尋ねた。
「これから、どうするんだ?」
 すると、イコナはこう即答したのである。
「修行します」
 と……。

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 久しぶりでしたが、このリアクション、何とか提出することができてホッとしてます。

 次の予定は未定ですが、近日中にはお会いできるようにしたいです。
 最近はスピリチュアルなことにも興味があるので、そういうシナリオもどんどん発表してみたいですね。

 なお、温泉のところに出てきた「桃源郷」は、修行が終わると同時に、その不思議な効能を失ってしまいました。
 同時に、泉に入って姿が変わった生徒たちも、元の姿に戻っています。 

 それでは、参加頂いたみなさん、ありがとうございました。