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ザ・修行

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第13章 実験されて修行だぜっっっっっっっっ!!

「それでは、メンテを始める」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、淡々とした口調でいった。
「はーい」
「はーい」
 メンテの対象となる一瀬瑞樹(いちのせ・みずき)一瀬真鈴(いちのせ・まりん)は、作業台の上に仰向けに大の字になって寝そべって、拘束されている状態で返事をした。
 今回のメンテ、「どんな風にやるのか実際にみてみたい」という2人の希望で、2人の意識を落とさない状態で行われることになったのである。
 ダリルにとっては、機晶姫医師としての技量を向上させる、このメンテの作業こそ、修行に該当するのである。
「うーん、今回は、徹底的にやれそうだね」
 ダリルの助手を務めることになるルカルカ・ルー(るかるか・るー)がいった。
「やれそう、ではない。やるのだ。メンテの全作業については、既に工程表にまとめてあるはず。計画したことを、計画どおり実行しなければならない」
 ダリルは、淡々といった。
 ルカは、肩をすくめる。
 何だか、今日はダリルが主役になってしまうような気がした。
「わあ、ついに始まるんですね。ドキドキします」
 神崎輝(かんざき・ひかる)は、右手を胸にあて、自分の鼓動を確かに感じながらいった。
 ドックン、ドックン
 輝の心臓は、確かに脈うっていた。
 だが、瑞樹と真鈴の場合は、心臓などないので、ドキドキするにしても、どこがドキドキするのだろうと、輝は考えた。
「では、真鈴から始めよう」
 ダリルがいった。
 ごくり。
 真鈴は、唾を飲み込んだ。
 飲み込んだ、といっても、実際に唾が出ているわけではなく、体内で何かが起きたわけでもない。
 真鈴にとって、この「唾を飲み込む」という感覚は、ヴァーチャルなもので、脳内のプログラムがつくりだし、味わわせてくれている感覚なのだ。
 そういう風に、全身で感じているようにみえて、実際には脳内で起きているだけだったという感覚が自分たちには多いことを、真鈴は今日知ることになる。
 ざくっ
 がばっ
 ダリルは、無駄のない手つきで、真鈴の胸部を開けた。
「ああ、はあ」
 真鈴は、思わず吐息をついた。
「全パージシステム搭載のため、体内の命令系統にも若干手を加えることになる」
 ダリルは、淡々といった。
 確かに。
 真鈴は思った。
 確かに、そうだ。
 胸を開けられて、しみじみと自分の部品をみて思ったが、いま、胸がドキドキしているように感じているのに、脈打っているはずの心臓は、自分の中に存在しない。
 この、ドキドキ感も、ヴァーチャルなものだった。
 できる限り人間に近い感覚を味わわせようという意図で仕組まれた、精妙なプログラム。
「全パージシステムって、要するに一発脱衣ボタンのことでしょ?」
(えーっ)
 ルカの質問に、真鈴は目を丸くした。
「妙な言い方をするな。それに、表現が妥当ではない。着衣までは外れない仕様だ」
 ダリルは、真鈴に各種外付け武装をとりつけ、それに耐えうるよう出力も増やした。
 外だけではなく、真鈴の内にも手を加え、命令系統が適切に機能するように調節する。
 ダリルの手つきは素晴らしい、芸術的だと、真鈴は思った。
「あの、装甲やキャノンやミサイルポッドがどんどん追加されてるんだけど、都市でも制圧させるつもり?」
 ルカが、また淡々と返されるだろうかと思いながら、それでも尋ねたくなって、尋ねた。
「ポッドが変形・展開すると同時に安定板が開く。その後……」
 ダリルは、機能の説明を淡々と続けた。
 要するに、ルカの話は聞いていない。
「機能性のある兵器は美しい。真鈴、どうだ、あくまでメンテの延長にある処置だが、それでもずいぶん変わった気がするだろう」
 ダリルは、真鈴の胸を閉じてから、そういった。
「はい。いっぱい撃てますよね!! 怖いものがなくなったような気がします」
 真鈴は、ニッコリ笑って答えた。
 ゆっくりと、起き上がる。
 多数の外付け武装がついたので、歩きにくいかと思ったが、そうでもない。
 ダリルが、重量のバランスに注意を払い、真鈴の歩行に使用される出力で十分担えるように計算して処置したことがうかがえた。
 ガシャン、ガシャン
 真鈴は、ルカとともに外に出た。
 ルカは、真鈴の武装と全パージをテストモニターするよういわれていた。
「さて、それじゃ、標的は何?」
 ルカは、通信でダリルに尋ねた。
「標的は、ルカだ。ルカは、録画しつつ、弾切れまで回避のみを行え」
 ダリルは、淡々といった。
「ええっ!? 標的!?」
 ルカは、自分自身を指さしていった。
「モニター開始。なお、パージ後は、離脱した武装を回収するように」
 そういって、ダリルは通信を切った。
「ど、どういうこと」
 戸惑うルカに、真鈴はキャノン砲の砲口を向けた。
「それでは、指示に従いまして、テスト開始!! ファイヤー!!」
 真鈴は叫んで、弾幕をルカに注いだ。
「にゃ、にゃぎゃー!!」
 ルカは、大慌てで逃げ出した。
「あはははははは!! 気持ちいいです!!」
 ちゅどーん、ちゅどーん!!
 次々に巻き上る爆炎。
 逃げ惑うルカ。
 真鈴は、新しい武装を心底から楽しんだ。

「それでは、続いて瑞樹の内部点検を行う」
 ダリルは、瑞樹の胸を開いた。
「あ、はあ」
 瑞樹もまた、胸部を開けられたときに、熱い吐息が漏れるのを禁じえない。
 みられる、ということが、なぜだか、ゾクゾクする感じをもたらすのである。
 これも、脳内のプログラムによって起きた感覚なのだろうか?
 天井には鏡があり、瑞樹は、自分が点検・整備される姿をよくみることができる。
 もともと、瑞樹の希望により設置された鏡だった。
「ちょうどいい機会だ。みてみるがいい。お前の中はきれいだ。完全に機能的にできている」
 ダリルは、瑞樹の中の部品やコードを示して、いった。
「は、はい。きれい。ああ」
 瑞樹は、喘いだ。
 ダリルが、コードのひとつを引っ張ったのが、えもいわれる感触を引き起こしたのだ。
「こ、これって、ある意味、丸裸以上ですよね。身体の中まで、隅々までみられるなんて」
 瑞樹は、何だか恥ずかしくなってきて、いった。
「どうした? やはり抵抗があるなら、意識を落とすか」
「いえ、別に、大丈夫なんですけど。その、やっぱり自分でもみたいので」
 ダリルの提案に、瑞樹は苦笑して答えた。
「自分の身体に関心を持つのは、いいことだな」
 いいながら、ダリルは見事な手つきで瑞樹の胸の中をかきわけ、部品の交換を行っていった。
「はあ。はあ」
 瑞樹は、いよいよ喘いだ。
 ダリルの顔をみつめ、彼にいじられている自分を想像すると……。
 じわっ
 何かが、瑞樹の下からにじんできた。
「うん!?」
 ダリルは、興味深そうな目で、瑞樹の下からにじんできた、その液体をみつめた。
 ま、まさか!!
 瑞樹の顔が、真っ赤になった。
「あ、あの、すみません、もしかして、私」
 その先は、言葉にならなかった。
 認めたくない、最悪の現象が起きてしまったのではないか。
 瑞樹は、穴があったら入りたいとさえ思った。
「気にするな。ただのオイル漏れだ。失禁のようにみえるかもしれないが、そんなことが起きるはずはないだろう」
 ダリルは、淡々といった。
 それでも、瑞樹の恥ずかしさは抜けない。
「しかし、面白いな。オイル漏れを誘発するような何かが起きたようだ。このメカニズムを解明すれば、意図的にオイル漏れを起こして、敵をかく乱するようなこともできるかもしれない」
 ダリルは、真顔でいった。
 新しい発見に、夢中になったようだった。
「あ、あの、オイル漏れがデフォルトで起きるような身体には、しないで欲しいです」
 瑞樹は、必死で頼んだ。
 よりによって、「失禁少女」のような存在にされては困るのだ。
 みると、輝も、うんうんとうなずいている。
 ちなみに、輝は、瑞樹が失禁したと思い込んでいた。
「とりあえず、拭いてやろう」
 ダリルが、瑞樹から漏れたオイルを拭き、汚れた身体も拭いてくれた。
「あ、ああああ」
 瑞樹は、火が出るほど恥ずかしかった。
 赤ちゃんがオムツを取りかえるとき、その赤ちゃんに自我があったら、こんな風に感じるのかというくらいの、原初の恥ずかしさであった。
「それでは、念のため、排泄関係を点検する」
「え、ええ」
 今度こそ、瑞樹は驚いた。
「そ、それは、ちょっと、もう」
「うん? 耐えられないか? では、意識を落とそう」
 ダリルが、スイッチに手を伸ばしたとき。
「いえ、いいです、いいです! もう、こうなったら、どこまでも、私の中をみて下さい!! 私は、ダリルさんにみられている、そのことを耐えてみます!! これが私の修行なんだと思います!!」
 瑞樹は、ヤケになって叫んでいた。
 オイル漏れを、みられてしまったのだ。
 もう、何をみられてもいいはずだった。
 いつの間にか、ダリルに自分の全てをみられることに、不思議な高揚感を覚えてもいる瑞樹だったのである。
 こうして、メンテは順調に進んでいったのだ。

「ハアハア。デメテール、アルテミス! やっと再会できたな」 
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は、首狩り族と生徒たちの闘いに巻き込まれて以来、離ればなれになっていたデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)とに、ついに合流することができたのである。
 ここに、悪の秘密結社オリュンポスは再興の機を得たといえるだろう。
 それだけではない。
「ハデス様。実は、紫月様にお会いすることができたので、連れてまいりました」
 デメテールがいった。
「おお、ハデス。ひどい目にあったようですが、平気そうでよかったです。さっそく、今回の修行を始めましょう」
 デメテールたちが連れてきた、紫月唯斗(しづき・ゆいと)がいった。
「うむ。何だか、なかなか始めることができなかったが、ついにできる、な」
 ハデスはうなずいた。
 感無量であった。
 ちなみに、温泉でのぼせて、気を失ってからの記憶は、ない。
 気がつくと、デメテールたちに引き渡されて、介抱されていたのだ。
 あらゆる困難を乗り越えて、デメテールたちに修行をさせたいと、ハデスは考えていた。
「で、そちらの結社の者は?」
 ハデスは、唯斗に尋ねた。
「こちらにおります」
 唯斗は、紹介した。
「僕、紫月暁斗(しづき・あきと)だよ。よろしく」
 暁斗は、頭を下げた。
「私は、ザインハルト・アルセロウ(ざいんはると・あるせろう)。なかなか大変そうだが、やり甲斐もあるのかな」
 ザインハルトが、ハデスにいった。
プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)です。ふふふ、楽しそうですね。このミスリルバットで、堕落した者には気合を入れてさしあげましょう」
 プラチナムは、ミスリルバットを両手でもてあそびながらいった。
 何だか、プラチナムをみていると、まずハデスをバットで叩きたいといった風であった。
「むう。血の気が多そうだが、頼もしい限りだ。世界征服を行うのだから、それぐらいでないとな」
 ハデスは、バットを警戒しながらいった。
「さて、それでは、我が発明をご覧に入れよう!!」
 ハデスは、笛を3回吹いた。
 ピピー、ピピー、ピピー
 ゴゴゴゴゴゴ
 地鳴りとともに、大地が割れ、現れたのは。
「解説しよう!! 修行お助けマシーン、『ヒーロートレーナー試作3号機』だ!!」
 いくつものマシンハンドを生やした、ゲジゲジともカニともつかない、複雑怪奇なフォルムの機械を、ハデスは紹介した。
「それでは、修行開始!! まずは、アシッドミスト発射修行機能!!」
 ぶしゅううううう
 ヒーロートレーナー試作3号機から、アシッドミストが放たれた。
「きゃ、きゃああああ」
 アルテミスは悲鳴をあげた。
「アシッドミストに耐える修行だ。敵の拷問を受けたときの対策になる。安心するがよい。このミストは、修行用に服だけ溶かすよう調整されている」
 ハデスはいった。
 しゅうううう
 アルテミスの服が、煙をあげて溶け始めた。
「た、助けて下さい。こ、これではみえてしまいます!!」
 アルテミスは、涙目になって懇願した。
「いや。助けたら、修行ではなくなるでは……うん?」
 そういうハデスを押しのけて、暁斗がアルテミスに駆け寄っていった。
「拷問を受けている仲間を助けに行く修行ということで!! 大丈夫?」
 暁斗は、服を半分ほど溶かされているアルテミスの肩に、ぽんっと手を置いた。
 その瞬間。
 ぽろり
 肩を叩かれた衝撃で、アルテミスの身体にはりついていた最後の布きれが、ぼろっと崩れてとれてしまった!!
「きゃー!!」
「わー!!」
 アルテミスと暁斗、2人は同時に悲鳴をあげた。
 アルテミスはうずくまり、暁斗は慌てて目をそらす。
 だが、とき既に遅し、暁斗はアルテミスの全てをみてしまったのだ。
「バカモーン!! 何を喜んでおるか!!」
 ドゴーン!!
 プラチナムのミスリルバットが、暁斗のお尻に炸裂した。
「あ、あれれれれ」
 暁斗は、お尻をおさえて、どこかに駆けていった。
「ふむ。拷問を受けている仲間を助けに行ったら、ほとんど裸にされていて困ってしまった、というシチュエーションのための修行か。感心、感心」
 ハデスは、勝手に満足している。
「続けて、人工滝発生装置!! いつでもどこでも、滝に打たれることができるぞ!!」
 ハデスの操作で、試作3号機から伸びる巨大な筒から、だらだらと水がこぼれ始めた。
「ほら、デメテール、筒の下で、滝に打たれるのだ」
 ハデスは促した。
「えー、これが滝? シャワー以下なんだけど」
 ぶつぶついいながら、デメテールは筒の下に行き、水を頭からかぶった。
 みるみるうちに、デメテールの服が透けていく。
「デメテールさん。服の下のものが、思いきりみえてきましたよ」
 ザインハルトが指摘する。
「えー、やだー」
 デメテールは、人工滝から脱出しようとした。
 その肩を、ザインハルトがおさえた。
「ダメです。こういう指摘をされても耐えるのが修行ですから」
「ほ、本当?」
 デメテールは目を丸くしたが、仕方なく、人工滝に打たれ続ける。
 ずぶ濡れになった辺りで、デメテールは人工滝から解放された。
 ぐじゅっ、ぐじゅっ
 歩くと、全身に水がしみこんでいるので、水が垂れたり、布からしみだしたりする音がした。
「あの、下着を替えたいんですが。そこにまで入っちゃってて」
「ダメです。そういう感触にも耐えるのが、修行です」
 ザインハルトは、譲らなかった。
「えー、そんな」
 デメテールは、当惑して、腰の辺りを手でおさえ、ぐじゅぐじゅした下着の感触に戸惑いつつ、歩かされた。
「いいですね、その、何ともいえない顔。今日は、寝るときまでその下着で過ごして下さい」
 ザインハルトは、何だか妙に厳しくなってしまった。
「それでは、ハデスさん。ハデスさんにも、修行してもらいたいことがあります」
 ザインハルトの言葉に、ハデスは目を丸くした。
「い、いや、我は別に修行する必要はないのだが……どんなものだ?」
 ザインハルトが指を鳴らすと、試作3号機が動いて、バタンと、巨大な十字架をうちたてた。
「自分たちのボスが敵に捕まって処刑されそうになったところを救出するという修行です。さあ、まずは捕まって、攻撃に耐えて下さい」
 ザインハルトは、ハデスを十字架にはりつけにさせた。
「ちょ、ちょっと待て。別に、本当に拷問をやる必要はないだろう。あ、ああ!!」
 ハデスは、悲鳴をあげた。
 ボゴーン
 プラチナムが、ミスリルバットをハデスに叩きつけたのだ。
「さあ、拷問開始だね。耐える、耐える」
 ニコニコ笑いながら、プラチナムは次々にハデスを痛めつけた。
「おわああああ!! きゅ、救援の手は、いつ来るのだ!!」
 ハデスは、それこそもがいた。
「さあね。どんどん打つよ!! もしかしたら、救援は来ないかもしれないときの修行だね」
 プラチナムは、ニコニコ笑っていた。
 ぼごーん
「ひいっ! ハデス死すとも、オリュンポスは死なずっ」
 ハデスがそうダイイングメッセージを残して、死んだフリをしようとしたとき。

「あのー、お話したいことがあるんやけど?」
 上條優夏(かみじょう・ゆうか)が現れて、いった。
「な、何だ何だ、おい、我を解放するのだ」
 これ幸いと、ハデスは十字架からの解放を指示した。
「聞いてーな。実は、お告げがあってな、シャンバラ大荒野に冥王星が落下するんやて。信じるなら、早めに逃げた方がいいかもしれへん」
 優夏は、いった。
 そして、どうせまた信用されないだろうと、心の中で嘆息した。
 ところが。
「何だと! それは一大事だ!! 他の悪の組織の仕業に違いない!! 我々の先を越されるわけにはいかん!! 断じて、そのような計画は阻止するのだ!!」
 ハデスは、いきなり本気にして、大声でわめき始めた。
「よし、デメテールよ、調査するのだ」
「えー、パンツの中まで濡れてるし、無理ー」
 デメテールは、さすがに拒否した。
「ええい、では、我についてまいれ!! 至急真相を解明しよう!!」
 ハデスは、他の仲間を連れて、調査を開始した。