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リアクション
第3章 黄金都市の囚われ人 5
「だからね、わたし、いつもお母さんのお手伝いしてるの」
ユフィが言うと、董 蓮華(ただす・れんげ)がその頭を優しく撫でてあげた。
「そっか、ユフィは偉いのね」
蓮華は慈悲に満ちた笑みで、ユフィに微笑みかける。幼い少女は、そんな黒髪の下にあるたおやかな顔を見上げて笑った。
二人がいるのは、ユフィの家の居間だった。町に残していくユフィを一人にするわけにいかないと、数名の契約者たちが傍に残ったのである。蓮華はその一人で、居間の傍らには、相棒であるスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の姿もあった。
「小さいころからお母さんの手伝いをするのは良い事だ。情操教育ってやつだな」
「夢をなくすようなこと言わないでよ」
蓮華はむっとして言って、ころっと笑うとユフィの顔をのぞき込んだ。
「ユフィはお母さんを手伝いたいから手伝ってるのよねー」
「うんっ」
跳ねるようにうなずいて、ユフィが答える。
ホークはそんな二人を見て肩をすくめた。蓮華がユフィと一緒に残ることを選択したのは、過去の出来事を思い出していたからだった。蓮華はある事件で、家族を失いそうになったことがあるのだ。きっと、その時の自分とユフィを重ね合わせているのだろう。
ホークはそのことに気づいていた。だが、それを指摘するような野暮なことをするつもりはなく、二人の様子をからかうように眺めていた。
そのとき、ふいに、玄関から少女の声がした。
「ただいまー」
帰宅を告げて、荷物を抱えたリフィ・アルクラド(りふぃ・あるくらど)が居間に入ってきた。蓮華たちがそれに答えるや、リフィはどこかから買ってきた、袋に入った食材をテーブルに置いた。
「ありがとう、リフィさん。これで、肉包が作れそうね」
蓮華が礼を言って、食材の入った袋を手に取った。
「それじゃあ、楽しみにしててね」
二人にそう告げて、蓮華は逆側に振り向き、
「ホークも手伝って――」
言おうとしたが、ホークの姿は忽然となくなっていた。
「…………逃げたわね」
ある意味で予期していたことは見事だった。蓮華は仕方なく諦めて、一人で台所へと引っ込んでいった。
その間、リフィはユフィの相手をしてあげていた。
リフィがこの家に残ったのは、蓮華と同じような理由だった。一人でいた孤独な時期が、リフィにもあったのだ。その時の寂しさや哀しさは、リフィにはよく分かる。だから、せめてその悲哀を和らげることが出来ればとリフィは思っていた。
それに、名前が似ていることも理由の一つだった。くだらないと言ってしまえばそれまでだが、運命的なものを感じてしまったのだ。この少女のために何かしたいと、リフィは切に願うようになっていた。
しばらくリフィとユフィが時間を潰していると、やがて、蓮華が湯気の湧き立つ木製の入れ物を持って、戻ってきた。
「じゃじゃーんっ!」
蓋を空けると、より膨れあがった湯気の中に、肉包が並んでいた。
その頃には、いつの間にかホークも戻ってきていた。四人は一斉に「いただきまーす」と声をかけて、ほくほくと、熱い肉包を頬張った。
「美味しいっ」
嬉しそうに笑いながら、ユフィが言う。
「ありがとう。ユフィのほっぺも美味しそうよ」
蓮華はその頬をぷにぷにと突きながら、ふふっと微笑んだ。
幸せそうなユフィを、リフィは優しい目つきで見守る。そのとき、ふと、頭に浮かんだことがあった。それは、〈黄金の都〉に行った仲間たちの事である。
ユフィの両親はちゃんと見つかるだろうか。それに、仲間達は無事だろうか。リフィは窓の外を眺め、苛酷な冒険へ出かけた友たちの事を思った。
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