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 第27章 友達のお守り

 歩くような速さで、白い雲が流れている。箒に乗った生徒や小型飛空艇に乗る生徒、自前の羽に乗る生徒。カーテンの開いた窓の向こうでは、パラミタならではの日常が展開されている。今日もイルミンスールは穏やかな天気に恵まれ、肌寒いという点を除けば絶好の飛行日和、外出日和だ。
 そんな中、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は自室でパソコンを前にしていた。マウスを操作して、メールボックスの整理をしていく。
「あ、そうか。今日は……」
 1通のメールを見つけ、その手が止まる。差出人は本郷 涼子。クレアの兄のような存在である、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の妹だ。本文には、イルミンスールに遊びに行く事と、その予定日が書いてある。
「涼子さんが遊びに来る日だ」

 イルミンスール魔法学校の校門で涼子を待つ。メールや手紙で交流しているしお互いの写真も送りあっている。だが、直接会うのは初めてだった。写真で見た限りだと、髪と目の色が黒、というだけで後はクレアにそっくりな少女である。
(どんな人なんだろう。おにいちゃんの話だと私を大人っぽくした感じって言ってたけど)
 涼子は、クレアと歳も同じのはずだ。
「私だって、おにいちゃんと出会った時に比べれば少しは大人になったんだけどなぁ……あ、来た来た」
 校門周りは非常に見通しが良い。道の先から涼子が歩いてくるのが見え、クレアは手を振った。
「初めまして、涼子さん。クレア・ワイズマンです。クレアって呼んで下さい」
「本郷涼子です。今日はよろしくね、クレアさん」
 涼子も改めて、クレアに挨拶する。知ってはいたけれど本当に自分とそっくりで、彼女は少し驚いた。前から、兄の暮らしている場所を見てみたいと思っていた。そして、お小遣いを貯めて、やっと小型結界装置を手に入れた。
 1人でパラミタを歩くのは不安だったが、クレアが一緒なら、安心だった。

(さて、どこを案内しようかな)
 校門から移動する前に、クレアは自分が来た世界樹の方面と、涼子が来た街の方面を見比べる。門から中に入るか、門から出るか。イルミンスールの中だけでも見所はあるし、ザンスカールの街にもいいところがたくさんある。
「そうだ、せっかくだからあのお店に行こう」
 ふと思いつき、ザンスカールの街へと歩き出す。
「今、イルミンスールの女の子たちに人気のある雑貨屋さんがあるんだよ。そこに行ってみよう」
 魔法のアイテムを売っているお店、杖を売るお店、ローブや服を売るお店にハーブや食料品を扱うお店、街には様々な専門店が軒を連ねている。
「うわぁ……すごいなぁ……」
 涼子は感嘆の声を上げる。空京に降り立った時から感じていたけれど、ここはまるで、ファンタジー小説の中みたいだ。イルミンスール周辺は、特にそれに近い気がする。とにかく見るもの全てが新鮮で、わくわくした。
 雑貨屋に入ると、店内は翼を模したアクセサリーで溢れていた。白やピンクなどの、なめらかな素材で出来たものから、シルバーアクセサリーまで、その種類は豊富だった。
「実はこのお店、ただの雑貨屋さんじゃないんだよ。これみんな、ヴァルキリーの翼のデザインがされてるアクセサリーなの」
 店内を歩きながら、クレアは店の特徴を嬉しそうに説明する。
「でもね、それだけじゃないんだ。ここでアクセサリーを買った娘の多くがその後恋愛を実らせてるから、恋に効く雑貨屋さんってことで人気があるんだよ」
 やがて、彼女は1つのコーナーの前で立ち止まった。そこには淡いオレンジ色のアクセサリーが揃っていた。
「ただ、今日買うのは恋愛のお守りじゃなくてこっちの友情のお守り。今日の記念と、私たちの友情がいつまでも続くように」
「私たちの友情……」
 涼子もクレアに続き、そのオレンジ色の翼を手に取った。金具の部分をつまみ、目の前に掲げてみる。
「そうね。いつまでも」
 そうして、彼女達は双子の姉妹のように笑いあった。

「本当に来てよかったなぁ」
 店を出て、2人で街を散策して、涼子はしみじみと、今日1日を噛み締める。なんだか、とても心が澄んで、気持ちがいい。この時間が純粋に、楽しいと思える。
「これが、私やおにいちゃんが今住んでる場所だよ。もちろん、他にもまだ色んなところがあるけど、そこはお弁当を持っていったほうが楽しいし、今度、おにいちゃんや{SNL9998914#ミリア}さん達と一緒に行こう」
「うん、また、遊びに来るわ」
 クレアの誘いに、涼子は迷わずそう答える。未知の世界への不安は、もうどこかに吹き飛んでいた。