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星降る夜のクリスマス

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星降る夜のクリスマス
星降る夜のクリスマス 星降る夜のクリスマス

リアクション


●雪のお話

 ところで今夜、雪を降らせているのは誰だろう。
 何度も書いてきたように、この日は雲一つなく星が綺麗な夜なのである。まず、雪など無理な話だ。
「フハハハ! 無理が通れば道理引っ込むという!」
 イルミンスールの片隅、勝手に入り込んだ無人の教室で叫び声を上げているのは……誰だ。
フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!
 そう、まさしくその人、マッドサイエンティスト(?)ドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
 ご注意。実はこのページは数時間前の描写である。
 そのことを理解してから読み進めてもらいたい。

 妹の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)に連れられ、イルミンスールのクリスマスパーティーにやってきたのはいいのだが、空を見るなり彼は駄々っ子みたいにジタバタしはじめたという。
「クリスマスといえば、ホワイトクリスマス! だが、この綺麗な星空は、一体どうしたことだ! 雲ひとつないではないか!」
 天気予報が当たったことが許せない、とかハデスは言い出したのである。
「兄さん……なんてロマンチスト! 雪降る夢のようなクリスマスを私と過ごしたいというのね!」
 可愛らしいワンピース姿で、咲耶は目をらんらんと輝かせた。
「よ、よし! 今日は邪魔するパートナーはいませんっ。今日こそ、兄さんと二人っきりでクリスマスを過ごします!」
 切歯扼腕、彼女はこの日を待っていたのだ。
「最近、兄さんの周りには人がたくさんいるので、なかなか二人っきりになれないんですよね……なので今日のパーティーはチャンスです! ホワイトクリスマス……ヤドリギの下で兄さんと……って、や、やだっ、私ったら何考えてるのっ!」
 なんだかかなり妄想が入っているようだが、そんな盛り上がりかたをしている咲耶なんか丸っきり無視してハデスは唸った。
「くう、これでは、雪だるまを作ったり、雪合戦をしたりできないではないか!」
 ずるうっ、とバナナを踏んづけたように転ぶ咲耶であるが、ハデスは妹を振り返りもしない。
「ククク、というわけで、こんなこともあろうかと、天才科学者であるこの俺は発明品を用意してきたのだ! こいつを改造すれば雪景色など容易! 降らせてみしょうホトトギス!」
 一体誰に説明しているのか謎だが、天才科学者特有の説明口調で、ハデスはハデスの発明品を引っ張り出してきた。
 ……いや、『ハデスはハデスの発明品を引っ張り出してきた』は誤植ではない。正しくは、そのパートナーにしてポータラカ人ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)を彼は引っ張り出してきたのだ。
 この発明品、本来は自律型のお掃除ロボットなのだが、多彩なアタッチメントパーツを取り付けることにより、様々な形態をとることができるという。さてハデスはこれをどんな姿にするつもりか……。
「改造開始!」
 そう言って彼は、校舎に飛び込み教室を勝手に借りて黙々と作業を続けたというわけだ。
 しばらくして。
「ぱっぱかぱー! 完成! これぞ『人工降雪機<オーバー・ザ・ノーブルホワイト>』!
 発明品は降雪機能を取り付けられ、おまけに小型飛空艇をドッキングした飛行可能な姿に生まれ変わっていた。
「さあ、『人工降雪機』よ! その力で、この会場および世界樹イルミンスールを極寒の雪で覆ってしまうのだ! そして、暗黒雪合戦暗黒大会を開始するのだ!」
 暗黒時代(ただの雪合戦だが)の幕開けだ、とワクワクするハデスであるが、
「任務、了解デキマセン
 こんどはハデスがずるうっ、と滑る番だった。
「なんだその返事は! 貴様それでも悪の秘密結社オリュンポスの発明品か!」
 発明品は、ごく平然と返事する。
「イエ、マシンノ能力ノ限界ヲ超エテイマス。モット狭イ範囲ヲ指定シテクダサイ」
「ええい頼りない奴! ならばどの当たりまでなら可能だ!?」
「巨大くりすますつりーノ周辺クライナラバ……」
「ならそれでいい! ゆけい!」
「任務、了解シマシタ」
 開け放たれた窓から、発明品は飛び立った。その背にハデスを乗せて。
「しまった! 飛空艇に乗ったまま取り付け作業をしていたのだった……まあよい! 大空より雪景色を楽しむとしよう! フハハハハ!」
 そのときちょうど、教室のドアを開けて咲耶が戻ってきた。彼女はハデスが発明に没頭しているので、その間に外にヤドリギを取りに行っていたのだ」
「ちょっと時間はかかりましたが天然のヤドリギです! とっ、というわけで、兄さんっ!
ちょっとそこのヤドリギの下にでも行きませんかっ! い、いや、特に深い意味はないですよっ?!
 しかし咲耶のたくらみは、
「あ……あああ! 待って!」
 目の前で飛び去っていくハデスの背中を眺めるだけに終わったのである。
「兄さん、兄さーん!」
 どっかの赤い彗星の回想シーン風に手を伸ばして走りながら、咲耶の声はフェードアウトしていくのだった。

 以上が、クリスマスツリー周辺だけ雪が降っている理由である。
 ハデスとその発明品は大変上空を飛んでいるので、地上からその姿は目視できない。
「フハハハ! ヤドリギの下に寄り添う者どもの上に、我が力の結晶(※雪の結晶の意味)が等しく降り注ぐのだ!」
 と二度ほど断続的に雪を降らせ大喜びしていたハデスだが、突然、
「おーばーひーとガ発生シマシタ」
 と発明品が冷静に告げた瞬間、その悪だくみは終わった。
「なんだと!?」
 直後。
 ぽん、と発明品のエンジンが故障して火を吹き、季節外れの花火が上がったのだった。
 だが爆発は小さすぎて、世界樹イルミンスールの上に輝く星飾りにしか見えなかったとか。

 その後ハデスがどうなったかは杳として知れない。
 でもまあ多分、彼は健在だ。
 お正月は咲耶による看病イベントが発生……するかもしれない。