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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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第42章


 恋歌がようやく目を覚ましていた頃。


「ちっ……まったく厄介なことになったもんだぜ!!」
 武神 牙竜はボヤいた。
「まぁそう言うな……皆がうまくやってくれるだろう……俺達ができることは、ここを死守することだ」
 レン・オズワルドが返す。
 何しろ、四葉 幸輝が意外にも高い戦闘力を持っていたうえに、恋歌を助けに行ったはずの未来からの死者 フューチャーXとブレイズ・ブラスからの連絡はなし。
 そこに、過去の幸輝の共同研究者の亡霊『レンカ』まで現れたのだから、牙竜のボヤきも理解できよう。

「……ははは……意外ですね、悪くない気分ですよ!!」
 幸輝は笑った。
『ええ……ずっと夢見ていました……貴方とこうして一緒にいられること……』
 レンカは、うっとりと呟く。
 幸輝が独自に研究を進めていた魔術や対術だけでもそれなりの戦闘力だというのに、レンカの存在が牙竜やレンたちを苦境に追い込んでいた。

 いかに幸輝が魔術や対術に長けていようとも、牙竜やレンのようなコントラクター達が本気を出せば適うはずがない。
 しかし、幸輝には『幸運能力』がある。
 幸輝はその能力で戦闘力の差を埋めてしまえた。単純に幸運である、というだけで。
 それはもはや卑怯とすら言えるほどの『偶然』が重なって、幸輝を勝利へと導こうとしていた。

「……思えば……私はこうして、レンカと共に在ることを……求めてきたのかも、しれませんね」
 幸輝の『幸運能力』はレンカの存在によってより安定したものになっていた。
 レンカが恋歌からの憑依を解く際、恋歌の魂から剥ぎ取ってきた『能力』の一端。それが幸輝にさらなる力を貸していたのだ。
『そう……私は分かっていた……この能力は生きている人間の手には余る代物……けれど、こうして二人で互いにサポートすることで、安定した能力にすることができる』
「……そうだね……。
 これが終わったら、また研究を進めよう。会社はこの通りだが、いくらでも立て直せるさ。
 何しろ、今の私にはレンカが、いるのだから――」
『ええ、あの頃のように……』
「ああ。私たちの能力も進化できるかもしれない……『運命に介入する能力』……。
 思えば、あの男の言ったとおりだったのかも知れない……」
『……?』
「私は、君を奪った運命というものに……復讐したかったのかも知れないな……」
 幸輝はそう告げると、よりいっそう強化された炎を牙竜やレンたちに放つ。


「……ふざけんじゃねぇ!!」
 だが、牙竜はそれを気合で弾き返した。
「ほう……」
 幸輝が興醒めしたようにため息を漏らす。
 牙竜はそんな様子に構うことなく、レーザーブレードを構えなおした。

「そうやってまた、何の罪もない人々を犠牲にしようというのか?
 四葉 幸輝――アンタだってレンカを失ったときに知っている筈だろう……大切な人を失う悲しみ、悔しさ。
 それを――自分勝手な欲望のために、またこの世界に増やそうってのか!?」
 激昂する牙竜。だが、幸輝は意にも介さず言い放った。
「当然でしょう……運命が私からレンカを奪い去った……だから私はそれを奪い返したかった……。
 もしかしたら、今夜の出来事すら私の『能力』の一部かも知れないと思っていますよ。
 『幸運にも』、あの出来損ないの娘……恋歌が事件を起こしてくれたおかげで、私はレンカに再び出会うことができた……。
 もはやあの娘は用済みです……私の能力の制御は、私とレンカだけで行うことができるはずですから」

「てめぇっ!!」
 その言葉を最後まで言わせる牙竜ではない。ポイントシフトで一瞬にして距離を縮め、そこから疾風突きを繰り出した。
 しかし、幸輝はその攻撃をものともせずに避けてしまう。
「おっと、無駄ですよ」
 攻撃した牙竜の背中から、レンカが青白い火花を散らす。
「くぁっ!!」
 体勢を崩す牙竜。致命傷ではない。だが、先ほどからこの繰り返しで、牙竜やレンの攻撃はほとんど有効にヒットしていなかった。

 だが、それでも。

「――そこまで聞いて、黙っているワケにはいかないな――」
 ガウル・シアードが変化した金狼の背に跨ったレンの瞳には、まだ光が宿っている。
 魔銃ケルベロスを構え、幸輝の足元に弾丸をばら撒く。
 だが、幸輝は軽いフットワークでその弾丸を全て回避してしまう。
 まるで、どこに着弾するのかが事前に分かっているかのように。
「ふ、黙っていなくとも、貴方達にはどうすることもできないでしょう。
 恋歌はもう用済みです、もはやパラミタに来るためにパートナーが必要な段階でもなくなった。
 あとはアニーを始末してパートナーロストを起こし、恋歌も始末すれば終わりです」
 しかし、幸輝の冷笑を承服するものはこの場には一人もいない。
 ガウルは吼える。

「終わらせはしない……!!
 どんな『幸運』とて未来を変えようとする『意志』の力には敵わない……!!
 誰かを救いたいと願った意志の前には、そんな幸運などちっぽけな存在にすぎん!!」
 ぴくり、と幸輝の頬が引きつる。
「ほほう、そうですか……。
 ならば、意志の力でこれも跳ね返してみせるがいい!!」
 今までより数段大きな力が幸輝に集まるのを感じる。
 レンカの力を最大限に乗せた巨大な炎が、幸輝の頭上に完成しようとしていた。
 さすがに、あれがまともに炸裂したらタダではすまない。

 攻撃はかわせるかもしれない。だが、このビルの耐久性がどこまで持つか。
 瓦解した天井から、満月の光が周囲を照らす。くすぶる煙の中、幸輝の瞳がいよいよ異常な輝きを放っていた。

 その時。
 声が響いた。


「そこまでだ!!
 ――先輩、待たせたっすね!!!」


『!?』
 レンカと幸輝が声のした方に注意を払う。

 牙竜とレンには分かっていた。その声が誰か、ということも。
 そして、何をしに来たかということも。

「――ふ、颯爽と登場、とはいかないな」
 レンは呟いた。

「ふん、遅ぇぞ後輩……それで、ちゃんと連れてきたんだろうな!?」
 牙竜が声を張り上げる。

 その声に応えるように、その男――ブレイズ・ブラスは叫んだ。


「もちろん――連れて来たっすよ!!
 ――四葉 恋歌を――!!」


 そこには、目を覚ました四葉 恋歌の姿があった。