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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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第49章


 四葉 恋歌は18歳。
 ぼろぼろドレスのエイティーン。


「あの……本当に、これでいいの?」
 倒壊したビルの中にあった、すっかり壊れた自動販売機。
 小銭を入れると、まだ冷えている炭酸飲料が落ちてきた。

「もちろんや、仕事の報酬を要求して、依頼人がそれを払う。当然の図式やろ?」

 七枷 陣はそれを受け取って、満面の笑みを浮かべる。
 その衣服は度重なる火花や電撃で焦げ、あちこち破けていた。
 手当てはしたものの、服も装備もボロボロで、そこかしこに血の痕が見える。

 その報酬が缶ジュース一本。

「あの……」
 恋歌は口を開いた。自分の言動を思い返すと、足が震える。
「んー?」
 気のない声で、陣は答える。
「陣さん……本当に……その……ごめ」


 ぷしゃっ、と音がして。


 恋歌の言葉を遮った。
「どぅわあっ!! 泡が泡が!! 恋歌ちゃん振ったやろ、渡す前に缶振ったやろぉ!!」
 大袈裟に驚く陣。
 見事に泡だらけになった右手、今さらズボンの汚れを気にする陣に、恋歌は笑った。
「もう、陣さん何やってるの……?
 振るワケないじゃん。自販機、横になってるから、振動で泡出るんだよ……」
「いやいや、これは振ったね、絶対振ったね!!」
 しつこく食い下がる陣に、恋歌はもう笑うしかない。
「振ってませんー、勝手に噴き出したんですー……もう……」

 涙目になって笑う恋歌。
 ふと、陣と目が合って。

「もう、大丈夫やな」
「……うん」

 陣は、吹き出たジュースを気にもせず、その冷えた缶の中身を一気に飲み干した。
「かーっ、この為に生きてるぅーっ!!」
 またも大袈裟に叫ぶ陣。その様子を見て恋歌はまた笑った。


 いや違う、と恋歌は思った。


 決して、大袈裟なんかじゃない。
 この人は、この為に――この瞬間を迎えるためにあんなに必死になったんだ、と。

「やり直そうな……今度こそ、上手くやったるんや……お迎えも、来とることやし、な」

 陣はひらりと瓦礫の山から降りた。
 恋歌が視線を移すと、朝日に照らされた街を、何人もの人がいるのが見える。

 その中に、師王 アスカはいた。
「良かった……恋歌ちゃんが無事で。
 ホー……げほんげほん、魔鎧くんもよく頑張ってくれたわ〜」
 笑顔のアスカがひとり言をこぼす。
 アスカは恋歌が倒れている間、他の亡霊の妨害やビルの倒壊を防いでいた。
 その活躍の陰にはアスカが装着する魔鎧の力があったわけだが、その魔鎧は声を潜めている。
 アスカが装着している魔鎧、ホープ・アトマイスは生前、アスカのパートナーの双子の弟であった。
 このような形での再会は皮肉な運命であったが、ホープ本人にはまだ気持ちの整理がついていなかった。
 ゆえに、アスカのパートナーとして兄の近くにいながらも、まだその事情を明かしてはいなかったのである。
 アスカにしか聞こえないように、小声で語りかける。
「……最後の最後で気を緩めないでくれよ。
 ま、お前がちゃんと兄さんの前で名前を呼ぶようなヘマをしてくれないで助かった。
 まだ兄さんと会うワケにはいかないからな」

 アスカとホープが視線を送った先には、ルーツ・アトマイスがいた。

「しっかり、その娘を支えてやれよ、兄さん……」
 ホープの呟きは朝日の中に溶けて消えた。ルーツは瓦礫の山から下りようとしている恋歌に、そっと手を差し伸べた。


「――恋歌」


 朝日を背に受けたルーツが眩しくて、恋歌はまともにその顔を見ることもできない。

 ただ、差し伸べられた手を取って。
 とん、とビルの瓦礫から降りた。
 包帯を巻いた血まみれの足が、地面を感じる。

「――あ」

 恋歌は呟いた。
「――どうした?」
 ルーツは訊ねた。足でも痛めたか、と。
 けれど、恋歌は首を振った。

「あたし……そっか、そうだね。うん」

 恋歌はひとりで納得している。
 不思議な顔をしているルーツを横目に、空を見上げた。

 昇りきった朝日。朝焼けの空。


「あたし……パラミタに来たんだ……やっと……」


 初めて。
 生まれて初めて。

 恋歌は、パラミタの地を自分の意志で踏んだ。
 これからは、自分の意志で歩かなければならない。

 この地は彼女に自由と力と、数限りない冒険をくれるだろう。
 コントラクター達が初めてこの地に来たときの感動を、彼女は今、踏みしめていた。


 四葉 恋歌は18歳。
 生まれ変わったエイティーン。


 ルーツの両手をきゅっと握って。
「ルーツさん」
「……何だい」
 じっと瞳を見つめた。


 四葉 恋歌はお年頃。
 花も恥らうエイティーン。



「あたし……あなたのことが、好きなんです」



 彼女の冒険は、まだ始まったばかり。



『ひとりぼっちのラッキーガール』<END>


担当マスターより

▼担当マスター

まるよし

▼マスターコメント

 みなさん、こんばんは。まるよしです。

 まずは、リアクションを大幅に遅らせてしまったことを、深くお詫び申し上げます。
 半年以上という長期に渡りプレイヤーの皆様をお待たせし、大変なご迷惑をおかけいたしました。

 自身の体調不良や家族の通院、仕事上の変化などが重なった結果ではありますが、いずれも皆様にご迷惑をかけていい理由にはなりません。
 ひとえに自らの実力不足で、皆様にも運営様にもご迷惑をおかけしてしまいました。

 本当に、申し訳ありませんでした。


                    ☆


 今回で、GMとして参加した頃から「いつかやろう」と思っていた『四葉 恋歌』の物語は終了です。
 遅延以外にもいろいろと粗の目立つものになったかも知れませんが、今回ようやくお届けすることができました。

 ご参加いただきましたプレイヤーの皆様、ありがとうございました。
 また、お待たせして本当に申し訳ありません。重ねてお詫び申し上げます。


 物語をはじめた当初は「四葉 幸輝は自らの妄執に取り付かれたまま、悪鬼として死ぬのではないか」と考えていたのですが、皆様のアクションを総合していくと、どうしてもそのようなエンドは見えず、このような結果となりました。

 個人的に意外であったことは、『幸輝を人として生かしたい』というアクションと『16人の恋歌を救いたい』というアクションが非常に多かったことです。
 いつも皆様のアクションにはいい意味で驚かされ、予想通りにストーリーが進んだことは一度もありません。
 今回も、その結果として幸輝に僅かながら人の心が芽生える、という最後を迎えることになりました。

 また、『現在の恋歌に新しい名前をつける』というアクションも非常に多かったのですが、今回の流れでいくと『それは過去の恋歌の想いを背負って生きていくことにならないのではないか』という想いから、別の名前として恋歌を生まれ変わらせることはしませんでした。
 ですが、その中で『恋歌――レンカ――カレン――可憐』という論法で名づけた『可憐』という名前を私が気に入ってしまい、最後の『恋歌』の名前を『可憐』とさせていただきました。
 プレイヤー様の意図とは必ずしも一致しない使い方をしてしまい、申し訳ありません。


 それでは、また皆様の前にお目見えするご縁がございましたら、またよろしくお願いいたします。
 ご参加いただいたプレイヤーの皆様、読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。