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リアクション
第24章 家族団欒のように
空京を訪れていた御神楽夫妻は、いつものように予約してあったイタリア料理店の個室で、昼食をとることにする。
でも今日は、1つだけ普段とは違うことがある。
「雰囲気の良い店ですね。楽しくなるような音楽も流れていますし」
部屋の中を見回しながら言ったのは、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)だ。
そう、今日は御神楽 陽太(みかぐら・ようた)、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)夫婦だけではなく、舞花も一緒なのだ。
「ここは、環菜と2人でよく食べに来るお店なんですよ。パスタメニューが多くて……しかもどれもとても美味しいのでお勧めです」
陽太が言うと。
「楽しみです……! 何にしましょう〜」
舞花はわくわくメニューを開いた。
夫婦で良く訪れているため、環菜と陽太は注文に迷う事は無かった。
舞花は一通りメニューを見た後。
「クリームソースにします。ほうれん草とベーコン、サーモンが入ったこれに」
ほうれん草のクリームソースのセットを選んだ。
料理を待つ間に。
「こちらが、そのぬいぐるみです」
舞花は2人に近況を報告し、バレンタインに『種もみの塔』で行われたイベントで獲得した、『環菜のぬいぐるみ』を2人に見せた。
「な……にそれ、似てない」
環菜は素っ気なくそう言ったが、照れているのだと陽太の舞花にも解る。
「特徴を掴んでいて、良く出来ています!」
ぬいぐるみを預かり、陽太はサングラスを外してみた。
中にはちゃんと目があり、色も環菜の目の色と同じだ。
「景品にしては、良くできているけど……」
ちらりと見て、環菜が言った。
ほんのり顔を赤く染めている彼女が、とっても可愛らしくて。
陽太はつい、環菜にぬいぐるみを押しつけてもっと照れさせたいなどと思ってしまうが。
(……ここでは、ほどほどにしておきましょう)
ぐっと我慢をした。
「そして」
舞花がもう一つ、ぬいぐるみを取り出した。
「こっちがノーン様に作っていただいた陽太様のぬいぐるみです」
「え!? 俺のぬいぐるみをノーンが作ったのですか!?」
舞花が取り出したもう一つのぬいぐるみは、確かに陽太を模した、陽太の特徴をとらえたぬいぐるみだった。
「あら、かわいらしい」
環菜がくすっと小さく笑い、陽太のぬいぐるみの喉に指をあててくすぐる仕草をする。
「か、環菜、俺は猫では……」
陽太は目を泳がせる。
「うう、さっきの環菜の気持ちがよくわかりました」
照れくさくて、陽太は恥ずかしそうに笑う。
「ふふ、お2人のぬいぐるみを並べて置くと、とても映えますよね!」
舞花は陽太と環菜のぬいぐるみを並べてテーブルの上に置いた。
陽太のぬいぐるみの表情が、とても嬉し気に変わった気がした。
「なんだか、幸せそうね」
環菜が小さな声で言い。陽太はこくんと頷いた。
「恥ずかしいですが、嬉しいです!」
陽太は照れながら言い、環菜は照れ隠しの様に水を飲みながら「悪くないんじゃない」と言った。
2人の言葉に、舞花の顔に笑みが広がる。
舞花はぬいぐるみを大切に後ろから抱きしめて。
そっと、自分の隣に座らせた。
「この間、白百合団の訓練を体験して来ました」
届いたパスタを食べながら、舞花は明るい表情で2人に語っていた。
環菜はシーフードのトマトクリームパスタを、陽太はカリカリベーコンのペペロンチーノを食べながら、舞花の話を聞いていた。
「本当に凄い訓練メニューで、ヘトヘトになりました。でも、有意義な経験が出来たと思います」
1週間分かとも思える筋トレに、60階まである塔の往復や、バンジージャンプまであって。
その訓練を文句ひとつ言わずに行っている白百合団員の素晴らしさや、共に訓練に参加をしたパラ実生のことなど、目を輝かせながら、舞花は話す。
「その際、種もみ女学院に誘われました」
「種もみ女学院ですか……」
パラ実生が無理やり開校しようとしていた学院だ。
「種もみ学院として開校したようよ。総長はパラ実生の男。男女問わず入学を認めているみたい」
環菜が陽太に説明する。
なんでもパラ実生が勝手に開校したもので、他校に所属するものも、問題なく在籍できるそうだ。
「そうですか……興味があるなら試しに入学しても良いのではないでしょうか……」
少し舞花の身を案じながらも、陽太はそう勧める。
「はい、何事も経験ですし、前向きに検討中です」
舞花はそう答えて考える。
白百合団員の人で所属する人はいるのかな? とか、まずはどんな授業が受けられるのか聞いてみたいな、などと……。
その間に。
「パセリ、ついてるわよ」
環菜がナプキンで陽太の顔を拭いてあげたりしていた。
「ありがとうござます」
舞花の話に夢中になり、口元についてしまったパセリに気付かなかったらしい。
舞花が環菜に顔を向けると、素知らぬふりで環菜はパスタを食べている。
……だけど、ちょっと照れているように見えた。
(私がいない時は、どんな感じなんでしょう……ふふ)
心の中で微笑んだ後。
「それから、春の行事で……」
舞花は活き活きと、次の報告をする。
陽太は舞花の数々の話に、昔の自分を――環菜に認めてもらえる男になろうと、各地に赴き必死に研鑽に励んでいた頃を思い出す。
だけれど舞花は誰かに認めてもらうために、頑張っているわけではない。
「舞花は向上心が高くて、本当に感心します」
「ホント、頑張ってるわね」
陽太、環菜のその言葉に。
「ありがとうございます。色々と学んだり経験するのって、楽しくもありますから!」
笑顔でそう答えると、陽太、環菜の顔にも、笑顔が浮かんだ。