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最強要塞決定戦!

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3回戦第2試合 HMS・テメレーア VS ウィスタリア

 
 
「ウィスタリアが相手か。お互い手の内は知っている。迂闊に動くと、先ほどのようにカウンターを喰らうか。さて、どうしたものか」
 同じH部隊の僚艦として一緒に戦ったこともあるウィスタリアを相手に、防御態勢をとったまましばしホレーショ・ネルソンが考え込んだ。すでに手の内は晒しているため、先ほどのように逆手にとられては身も蓋もない。
「よし、バリアを前面に展開。防御態勢のまま敵左舷に回り込む。ウィスタリアのグラビティキャノンの射線軸を回避せよ」
 火力が前面集中型のウィスタリアの死角をつくように、HMS・テレメーアが大きく回り込むようにして前進した。
 
    ★    ★    ★
 
「テレメーアが、右舷に回り込んできたか。さすがは、こちらのことを分かっている。いけそうか、アルマ?」
「もちろんです。ただ、テレメーアは全火力を有効に使うために、側面に回り込んで並走しながら一斉攻撃をするという同航戦を好みがちです。けれども、ちょっと、わざとらしいですね」
 柚木桂輔の言葉に、アルマ・ライラックがそう答えた。
「敵に合わせる必要はないかな」
「ええ。ウィスタリア、防御態勢のまま後退します。テレメーアとの相対位置維持」
 敵との距離と角度を維持したまま、ウィスタリアが後退した。さすがに、敵艦も無理に側面をむけてグラビティキャノンの正面に船腹を晒すような無謀な真似はしないだろう。
「索敵を密に。左舷、対空散弾発射」
 航空戦力であるイコンを今回持たないウィスタリアとしては、逆により重要度の高い警戒対象としてイコンを捉えている。そのため、無駄弾になるかもしれないと分かっていても、敵がいないことの確認のために、左舷砲塔で雲海の浮遊岩塊群を攻撃した。しばらく飛んだところで、発射された砲弾が炸裂し、細かな散弾となって周囲を空間制圧する。
「敵イコン反応」
「やはり隠れていましたね。ジャマー・カウンター・バリア、左舷舷側へ移動。敵イコンの動きに合わせて収束」
 言いながら、アルマ・ライラックが左掌でバリアのマーカーに触れ、そのまま左へと移動させた。親指と人差し指を弾くように広げると、バリアが広がってカバー範囲を拡大する。
 そこへ、HMS・ヴァリアントからのヴリトラ砲が直撃した。
 その攻撃を防ぎつつ、アルマ・ライラックが、広げた左掌をすぼめ、一気に横へと突き出した。同時に、右手で右舷砲塔のマーカーを突く。
 
    ★    ★    ★
 
「敵攻撃来るよ。見つかったかな」
「いや、あてずっぽうだろうが、いい勘をしている」
 注意をうながすフィーグムンド・フォルネウスに、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが答えた。どちらにしろ、回避行動をとれば姿を晒すことになる。
「ザーヴィスチのデータを再リンク。ヴリトラ砲発射!」
 岩塊群から飛び出すと、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーがヴリトラ砲を発射した。このまま、うまくいけばウィスタリアを挟み撃ちだ。
 だが、ジャマー・カウンター・バリアを展開したウィスタリアは、ヴリトラ砲を受けとめた直後にバリアを細く収束してきた。ヴリトラ砲の着弾エネルギーをつつみ込むようにして、収束したバリアをサーベルのように大きく振りかぶる。攻防一体のジャマー・カウンター・バリアだからできる戦法だ。
 ふいをつかれる形になったHMS・ヴァリアントが、巨大なサーベルと化したバリアの先端に頭部をごっそりと薙ぎ払われる。
「メインカメラが……」
 しまったとグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが叫ぶ。
「いったん後退するよ」
 サブセンサーで、障害となる岩塊群の位置を捉えると、フィーグムンド・フォルネウスが撤退ルートを指示した。
 
    ★    ★    ★
 
「ザーヴィスチから入電。敵攻撃により、HMS・ヴァリアントが中破、後退するとのことです」
「さすが、やりおるな。小手先は無意味だ。全艦砲撃開始。テレメーアの火力で、ウィスタリアを沈める」
 ホレーショ・ネルソンが攻撃開始を命令しようとした。だが、HMS・ヴァリアントを攻撃すると同時にHMS・テレメーアを狙ったウィスタリアの攻撃の方が、一瞬早く着弾する。
「慎重すぎて、後手に回ったか。損害は?」
 してやられたと、ホレーショ・ネルソンがつぶやいた。
「第二砲塔、第五砲塔中破」
「第一砲塔で攻撃しつつ、旋回する。後部砲塔群の射界に入ったら、斉射で仕留めるぞ」
 ローザマリア・クライツァールの報告に、ホレーショ・ネルソンが賭に出た。時間制限のある今回の大会では、ゆっくりと追い詰める形の持久戦は選択肢として存在しない。いかに瞬間火力を発揮して、一気に敵を沈めるかと言うことが重要だ。前部砲塔が半減した今、後部砲塔をも使用しなければ、勝機はない。こちらが劣勢のときは、逆転に賭けるしかなかった。
 特に、ウィスタリアはジャマー・カウンター・バリアを有するため、せっかくの魔道レーダーも干渉によって、著しく精度を削がれている。こういうときこそ、観測機であるザーヴィスチからのデータが役にたつ。
 
    ★    ★    ★
 
「敵が、側面をこちらにむけようとしている。きついのが来るぞ」
「だったら、その前に仕掛けましょう。あてられても、あてればいいんです」
 そう答えると、アルマ・ライラックが自身の右腕を勢いよく空中投影パネルに叩きつけた。
 
    ★    ★    ★
 
「敵側面に到達。回頭終了まで後、3、2、1、射界入りました」
「全砲門開け。てーっ!!」
 機動力で勝るHMS・テレメーアが、ついにウィスタリアの側面に回り込んで残る砲塔での全力攻撃を行った。
 それまでの散発的な攻撃から富永佐那が送ってきた着弾データから、正確に真横から全弾ウィスタリアの右船体に命中する。激しい爆発が起こり、爆炎と共にウィスタリアが吹き飛んだ。
「敵艦消滅……まだです!」
 ジャマー・カウンター・バリアの干渉を受けてさすがに確認が遅れる。爆発するウィスタリアの右船体の爆炎の中から、無事なウィスタリアの姿が飛び出してきた。
 直前に右船体を切り離し、残る船体で急速旋回したのだ。
 カモフラージュとなった爆炎を突き抜け、黒い煙を船体から曳いたウィスタリアのグラビティキャノンの砲口が黒い閃光を発した。
 近距離からの攻撃が、HMS・テレメーアの艦首を直撃する。反動で、HMS・テレメーアの艦尾が大きく跳ね上がった。
「ふむ。どうやら今日のところはここまでのようだな。残念だ――中々によい仕事をしたと思ったのだが」
 キャプテンシートにしがみついたまま、ホレーショ・ネルソンが言った。
「爆発はまぬがれたけど、後は沈むだけね。早く退艦しましょう」
斜めになったブリッジの壁面と床の境目で踏ん張って身を支えながら、ローザマリア・クライツァールが言った。
「ノー・サンキュー。船長は、艦と運命を共にするものだ」
 ホレーショ・ネルソンが、それを断った。
「まったく。シミュレーションだから、見逃してあげるけど。リアルだったら、殴ってでも引きずって行きますからね」
 そう言うと、敬礼をしてローザマリア・クライツァールはブリッジを後にした。急ぎ、脱出艇に乗り込むと、HMS・テレメーアを離れる。幸いにして、今回は脱出艇は無傷であった。
 吹き飛んだ艦首側から、雲海の雲を飲む干すかのように艦内に取り込みながら、HMS・テレメーアが艦首方向から沈み始めた。やがて、雲海の上に艦尾を突きあげて直立する。
 直後に、一気に雲海の中へとその姿を消していった。
 ローザマリア・クライツァールは、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーや富永佐那たちと共に、敬礼してその姿を見送っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「第2試合の決着がつきました。ウィスタリアの勝利です。これで、決勝戦への出場者が出そろいました」