天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

バカが並んでやってきた

リアクション公開中!

バカが並んでやってきた
バカが並んでやってきた バカが並んでやってきた

リアクション

 ツァンダの街は突如やって来た四将軍に襲われ、闇に覆われていた。冬将軍の配下であるアシガルマが闊歩し、一般人が次々に襲われていく。コントラクター達は将軍達に戦いを挑むものの、四将軍の一人、秋将軍が張った闇の結界により、その実力を発揮できずにいた。

 ライカ・フィーニス(らいか・ふぃーにす)もその一人。パートナーであるレイコール・グランツ(れいこーる・ぐらんつ)と共に街を訪れたはいいが、あっという間に騒動に巻き込まれ、アシガルマの群れに追われる立場となった。

「うわぁっ!!」
 路地裏に倒れるライカ。レイコールはライカを庇うように通路を塞ぎ、物影に隠れてアシガルマをやり過ごした。
「大丈夫か、ライカ?」
「うん、なんとか……。でも、身体が重いよ……うまく動いてくれない」
「私もだ……かなり強力な結界だ。身体も動かないうえに、魔力もうまく錬ることができない……」
 ライカに肩を貸し、立ち上がらせるレイコール。
「うん……それでも、戦うよ、私。
 ウィンターちゃんもカメリアちゃんも大変なことになったって聞いたし、ブレイズさんも……」
 その傍らには、心配そうに見上げるウィンター・ウィンターの分身の姿がある。
「楽しくて、大好きなこの街と……みんなの物語、ここで終わらせるわけにはいかないからね」
 その様子を見たレイコールは、軽く微笑んだ。
「ああ……そうだな」

「だって私は……ライカ・フィーニスは、ハッピーエンド至上主義なんだっ!
 行こう、レイ……魔鎧装着――!!」

 漆黒の鎧に身を包んだライカは、動かぬ身体を支えて立ち上がった。



『バカが並んでやってきた』



第1章


「変身!!」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は街の異変にいち早く気付き、闇の結界を破壊すべく行動していた。一刻も早く秋将軍の元へ向かう必要がある。何故ならば、彼女の能力があれば秋将軍が維持している結界を消滅させ、街の各地で戦うコントラクターの能力を解放することは造作もないことだからだ。

 しかし。

「シリウス、それ――!!」

 パートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は驚きの声を上げた。
「何ぃっ!?」
 サビクの言葉に自分の姿を確認したシリウスもまた、驚きを隠しきれない。何しろ変身した彼女が見たものは、すでに失われたはずの『魔法少女シリウス』のコスチュームだったからである。
「どういうことだ!?」
 シリウスは超国家神である。厳密にパラミタにおける『国家神』とはまた意味合いが違うが、いくつかの平行世界において女王であったり国家神であったり破壊神だったりその他諸々だったりしたと思われるシリウスは、この世界においてもその『何か』の力の片鱗を掴むことに成功した。
 その結果としてパワーアップしたその姿を、彼女達は超国家神と呼んでいたのだ。そして、その頃からシリウスは魔法少女の姿になることができなくなっていた。平行世界における魔法を越えた『神格』とでも呼ぶべき力が、彼女を魔法少女から超国家神へと強制的に変化させている、そのように理解していたのだが。
 しかし今は魔法少女の姿にしか変身することができない。闇の結界が原因なのは明らかであった。

「……コントラクターとしての力が制限されている、ってワケか……厄介だな」
 久方ぶりの魔法少女コスチュームに身を包んだシリウスは、街の中心にそびえ立つ闇の柱を眺め、歯噛みした。闇の結界を消すための決定的な能力は、あくまで彼女が超国家神として存在できる時にしか使うことはできない。果たして、この状況で結界壊しを行うことができるかどうかは、疑問が残るのだ。
 しかし、パートナーであるサビクは一歩前に足を出し、シリウスを促した。
「さぁ――行こう、シリウス」
 迷いのないその様子。幾多の危機を乗り越えてきた相棒の姿に、シリウスは眼を細めた。

「ああ。この程度のハンデどうってことねぇ……超国家神なめんじゃねぇぞ!!」

 シリウスは闇の中の一歩を、力強く踏み出していた。


                    ☆


「大変……!」
 病院の窓から街の様子を確認した四葉 恋歌は、思いつめた様子で踵を返した。ベッドで眠るパートナー、アニー・サントアルクの顔を眺める。

「……変なこと考えてるんじゃねぇだろうな?」
 と、その横顔に冷静に声を掛けたのは、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)である。
「……え」
 首を傾げながら、恋歌は振り返った。
「オメェ、何とかしなくちゃって焦ってんだろ――また、自分ひとりでよ?」
 言葉に詰まる恋歌。自分の考えが見透かされたようで、額に汗がにじむ。
「……だって……」
 四葉 恋歌は『幸運能力』の持ち主である。彼女が望めば、理不尽で暴力的なほどの幸運が訪れ、およそ叶わない願いはないだろうというほどの力を発揮することができる。恐らく、その能力を使えば四将軍を撃退し、ウィンターを助けることも造作もないことであろう。
 しかし、その代償として、彼女は大切なパートナーの命を失い、パートナーロストによって自身の命もまた失うことになる。パラミタにおいて、彼女の能力は諸刃の剣なのだ。
 深刻な表情を浮かべる恋歌に、唯斗は笑いかける。
「おいおい、俺達を誰だと思ってんだ? あのビルから四葉 恋歌を救い出した連中だぜ?」
 おどけた様子の唯斗、しかしその表情はあくまで真剣だ。
 そこに、アニーの見舞いに来ていた狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)遠野 歌菜(とおの・かな)も声を揃えた。
「そういうこった……お前の『幸運能力』は使うな。自分とパートナーを犠牲にするなんて馬鹿なことは考えなくていい」
 乱世の手が恋歌の肩を叩く。
「……うん」
 重く頷く恋歌に、歌菜もまた笑いかけた。
「そうそう、私達で何とかするから、能力は使っちゃ駄目。
 それより、恋歌ちゃんは病院に怪我人が来るかも知れないし、一般の人達も避難してくるかも知れない。そっちの誘導とかを手伝ってあげて」
 その笑顔に、恋歌もまた微笑みを返した。
「……うん、ありがと。歌菜さん!!」
 歌菜のパートナー、月崎 羽純(つきざき・はすみ)は戦いの準備を素早く終え、声を掛けた。
「そういうことだ。恋歌はここでアニーの傍にいて、できる範囲で人々の力になってくれ。怪我人が来たら手伝いを頼む」
 こくりと頷く恋歌。乱世はその様子に安心した声を掛けた。
「……お前はアニーの傍にいてやれ、恋歌。それがきっとお前が一番やるべきことだろうからな」
「……うん、そうする……」
 そのうえで窓から街の様子を眺めた乱世は、怒りを露わにする。
「しっかし冬将軍とかいう連中……人のシマで好き勝手やってくれるじゃねぇか。この落とし前はきっちりとつけさせてもらうぜ……グレアム!!」

 乱世のパートナーであるグレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)の準備はすでにできている。
「――行こう。この街全体を覆う闇の結界を解くには、まだ情報が足りない」

「……決まりだな。恋歌はここに残って……俺達を信じてどっしり構えてろよ。それが、俺達の力になるんだからよ」
 唯斗の笑顔に恋歌は頭を下げた。くるりと背中を向けて、唯斗達は病院を後にした。


「は。んじゃまぁ、ちと行って来るわ――バカな連中ぶっ飛ばしによ」


                    ☆


「……さて」
 ツァンダの街はずれ。闇の結界に侵入してきた男がいた。

 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)である。

「さて、ではないぞ。どうして我がこんなところに来なければならんのだ」
 その後ろで呆れ顔をしているのは、カメリアが住むツァンダ付近の山の近くに住んでいる悪魔、バルログ リッパーである。

「そう……ですねぇ。カメリア様のピンチですから私達が協力するのはまぁ、当然なんですが」
 やや戸惑いの表情を浮かべているのは、カメリアの山に住んでいる狐の獣人 カガミ
「そうデブね。でもこの際、人手は多いほうがいいデブよ」
 カガミの仲間である狸の獣人 フトリは頷いた。

「……」
 相変わらず無口なのは、リッパーと共にアキラに半ば無理やりに連れて来られた機晶姫 ウド
 ウドとリッパーは、そもそも魔界の魔神と共にこの近辺に攻め込んできた魔族である。その意味では、今回の四将軍の方に立場は近いとも言える。
 そこを無理矢理引き連れて来たアキラの強引さに、リッパーはため息をついたのだ。
「まぁ――冬将軍とかいうおかしな連中に肩入れするつもりがないのも確かだ、しかしだな、だからといってあの地祇を助けてやる義理がないのもまた確か、なのだぞ」
 ぶつぶつと文句を言うリッパーに、アキラは肩をすくめて見せた。
「まぁそう言うなって。……そういや、ヒャッハーなギギさんはどこ行ったんでしょ?」
 ギギとは、リッパーやウドと共にこの近辺に侵攻してきたバーサーカー ギギのことである。
 事もなげに、リッパーは答える。
「ああ……あれは自分を探す旅に出たまま戻って来ない。またどこかで、戦いの日々を送っているであろう……ところで」
 呆れ顔ついでに、リッパーはアキラの足元を指差した。
「……何?」
「その山羊、どうするつもりだ」
 リッパーが指差した先には、山羊 メェがいる。確かにこのメェは以前はザナドゥの方からリッパー達と共に侵攻してきた魔物だったが、紆余曲折を経て、いまや完全に山羊――本当にただの山羊――となっていた。
「いや……ちょっと考えがあって、な。それよりウィンター?」
 リッパーの怪訝そうな表情をさっくりと無視して、アキラはウィンター・ウィンターの分身の一人に話かけた。
 バラバラにされたウィンターの本体とは別に、今この街にはウィンターの分身が散らばり、何とかして皆の強力を仰いでいるところなのだ。
「なんでスノー?」
「あのさ、敵が地上の四将軍勢揃いで攻めて来たんだから、こちらも四大精霊で対抗するのが上策かと思うんだけど?」
「……スノー?」
 ウィンターは首を傾げた。アキラの言いたいことが理解できていないのだ。
「いやだからさ。いつも冬のウィンターと春のスプリングがこの近辺にはいるわけだけど、夏を担当する精霊とか秋を担当する精霊はいないのかって話。
 サマー・サマーとか、オータム・オータムとかさ。いるなら連れて来られればいい戦力に――」

「――いないでスノー」
 アキラの言葉を遮って、ウィンターは告げた。

「……? あ、そうな、の?」
 その声の調子に、アキラは少しだけ戸惑ったような声を上げた。
「会ったこともないでスノー」
 どことなく機械的とも取れるそのウィンターの淡々とした声に違和感を覚えながらも、アキラはそれを振り切った。

「――ん、そっか、分った。んじゃ行くか、目指すはあの闇の柱だ!!」
 ビシっと指差したその先には、ツァンダの街の中心を貫くようにそびえ立つ闇の柱がある。
 街を覆っている結界の中心がその柱である以上、そこに捕われているカメリアも、それを守っている秋将軍もそこにいるのは明白であろう。

「……やれやれ」
 勇んで街を歩いていくアキラとカガミ、フトリ達の後ろを、ため息交じりのリッパーとウドが歩いていく。
「めへー」
 というメェの鳴き声と共に。