天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

バカが並んでやってきた

リアクション公開中!

バカが並んでやってきた
バカが並んでやってきた バカが並んでやってきた

リアクション




第8章


「さぁさぁ、いつまで鬼ごっこが続けられますかね?」
 風森 望が秋将軍に迫る。ふらふらと視界を見え隠れする望に手を焼く秋将軍だが、いっつパートナーのノート・シュヴェルトライテが攻撃に転じてくるか分らないため、気を抜けない。

「基本的に敵は空……まぁ、チャンスを狙っていきましょうかね」
 鬼龍 貴仁はその様子を見ている。
「のんきに構えてるんじゃありませんわよ、このっ!!」
「おっと!!」
 時折、苛立ち紛れにこちらにも強力な魔法攻撃が飛んで来るから厄介だ。対策として、分身の術で標的を増やして分散を狙っている。
 とはいえ、『常世思金 【MODE魔障壁】』の効果もあってある程度の障壁を張ることができてはいるものの、うっかりまともに喰らえばタダではすまないのも確か。思い切った攻撃に出るチャンスをつかめないでいた。
「……とはいえ、このままじゃ全体魔法とかで徐々に削られていく……どこかで一気に決めないと!!」
 琳 鳳明もこの現状に歯噛みしていたが、空の相手ではその一撃を決めることに相当の工夫が必要になってくる。どうにかして、相手を空中から地面に引きずり下ろす必要があった。

「――そういうことなら、俺達も援護しよう」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)フレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)と共に秋将軍へと向かう。
「ヴェルリア!!」
「はいっ!!」
 真司の合図でヴェルリアがショックウェーブを放った。
「――そんな攻撃、くらうものですかっ!!」
 空中の秋将軍は一本の腕で魔法陣を展開し、それを防御するが、そのために一瞬の隙ができる。

「たあああぁぁぁっ!!!」

 そして、その隙をノートの瞳が捉えた。
 煌剣レーヴァテインと刻月のアイオーンの二刀流、そしてヴァルキリーの脚刀の三段攻撃が、秋将軍を襲う。
「くうううぅぅぅっ!!!」
 残った三本の腕でその攻撃をガードし、上空から押し込んでくるノートをどうにか受け止める。
 だが、ノートも始めから敵の殺傷を目的とはしていない。あくまで上空から秋将軍を地面へと押しやるのが目的だった。

 なぜなら、彼女達は一人で戦っているのではないのだから。


「でやああぁぁぁっ!!!」


 そのノートの上空から、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が飛来した。
 聖獣、真スレイプニルに跨った彼女は、両手に握った星辰剣『神喰』による斬撃を仕掛ける。黄金の剣が閃き、ノートの攻撃を受け止めている魔法陣からの上から圧倒的な攻撃力で秋将軍を一気に押し込む。
「――ぐうっ!?」
 真スレイプニルのスピードに乗せたルカルカの一撃は秋将軍の高度を一気に押し下た。その結果として、他のメンバーが標的に手を出すことのできる距離まで詰められたのある。
 ルカルカはいち早く着地し、次の攻撃の準備をする。

「――チャンスですね!!」
 貴仁は手にしたギフト【覇龍刀】を抜いた。その本体である鬼龍 愛はふわりと活動を停止する。
「アイちゃん、がんばるー……あ……」
 何しろ人間形態の彼女はあくまで仮の姿で、貴仁の持つ覇龍刀が本体なのだ。貴仁が刀を抜いたことにより、意識は完全に刀に行ってしまって完全に無防備になるのである。

「愛坊はほんとにしょうがないのぉ!!」
 そんな時、愛の身体を守ってくれるのが、医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)である。
「……木村ぁ!!」

 正確には、房内と同行してきた救世主 木村太郎が、である。
「ハッ!!」
 木村太郎は房内の言に従って愛の身体を優しく抱きかかえ、秋将軍の全体魔法の余波が届かないところまで離れようと努力する。
「トゥっ!!」
 いち早く行動する木村太郎に隙はない。秋将軍との交戦の場を離れると、アシガルマの追撃を逃れる一般人がいる。
「よし、紛れるぞ!!」
 房内と木村太郎は、愛の身体をガードしながらその中に紛れていのだった。

 その一連の流れを見た貴仁はひと言。


「房内さん……この場に要らなかったんじゃないかな……」
 と呟くのだった。


「こっちに集中しろっ!!」
 真司の突っ込みも尤もである。
 高度が下がった秋将軍に向けて、ポイントシフトで一瞬のうちに接近した真司は陽炎の印を剣状に具現化し、三つの魔法陣を抑えているノートの脇から攻撃を繰り出した。
「ぬうううっ!!!」
 秋将軍へようやく攻撃が通り始めた。そこにフレリアも攻撃を重ねていく。
「続くわよっ!!」
 極斬甲【ティアマト】における攻撃が、秋将軍に着実にダメージを与える。
「い、一度態勢を整えなければ……!!」
 秋将軍はノートを押し上げつつ、再び上空へと逃れようとした。
 しかし。
「!?」
「――逃げられると思っているのか」
 いつのまにか足に見えない鞭が絡みつき、それを防いだ。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)である。最初からルカルカの強力な攻撃すら囮で、地上近くまで高度を下げた秋将軍を捕えることが目的だったのだ。手にした羅神鞭『断空』に力を込めると、力任せに秋将軍を引きずり下ろした。
「――あうっ!!」

「今だっ!!」
 貴仁は抜いた刀を素早く振るい、瞬時に八つの斬撃を放った。覇龍刀の持つ特殊な固有技である。
「――きゃあああっ!!!」
 光速の斬撃が八つ、秋将軍の身体に飲み込まれていく。その斬撃には愛の『天使のレクイエム』の効果が込められている。一気に戦意を喪失させることはできないが、戦況の判断を鈍らせる効果は充分にあったようだ。

「……あ……?」
 それにより一瞬、しかし戦場においては致命的な隙が秋将軍に生まれる。その隙を、共に接近していた鳳明が見逃すはずもない。

「この隙を、待っていたっ!!!」
 距離を詰めた鳳明は、秋将軍に胴体に狙いを定めた。

「――はあああぁぁぁっ!!!」

 鳳明は七曜拳の威力を一点に集中した。本来は七回の攻撃を行う七曜拳だが、その攻撃箇所を一箇所に絞ることで、その拳に強力な貫通力を持たせたのである。
「ぐうううっ!!!」
 秋将軍の表情が苦悶に歪む。
 そこに、最後の攻撃が炸裂した。

「トドメよ、ダリルっ!!」
「――任せろ」
 ルカルカの忍術、『火門遁甲・創操焔の術』とダリルの『風門遁甲・創操宙の術』が同時に発動した。

 瞬間、秋将軍の足元から溶岩流が噴き出し、闇の衣を焦がした。
「うあああぁぁぁっ……!!」
 そこにダリルの起こした竜巻が巻き起こり、秋将軍の身体を浮かび上がらせる。
 竜巻の中は風とプラズマ流が吹き荒れ、それはルカルカの溶岩流を巻き上げて威力を倍増されていった。


「あああぁぁぁっっっ……!!!」


 次第に秋将軍の叫び声が小さくなって消えていく。これほどの連続攻撃を喰らえば、いかに能力の低下をうけていようともタダでは済まない。

「あれ、ところでウィンターの身体は?」
 真司が呟いた。
「そういえば……」
 ヴェルリアが真司の顔を見る。そういえば、秋将軍はバラバラになったウィンターの身体を持っていたのではなかったか。

「――心配ない」
 しかし、ダリルが鞭を取り出すと、分断されたウィンターの両腕があった。先ほど秋将軍を地面に引きずり下ろした隙に、鞭で奪い取っていたのだろう。

「……抜け目ないわね」
 軽くため息をつくフレリア。その視線は燃え尽きていく秋将軍に送られていたが、やがてその姿が変貌していくことに気付いた。

「ねぇ……あれ!!」
 ウィンターとカメリアを救うべく参戦した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)、そしてベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は驚きの声を上げた。
 ルカルカ達の怒涛の攻撃により、塵も残さず燃え尽きるかと思われた秋将軍だが、次第にそのシルエットが広がっていくのが見えたのである。

「闇が……広がっていく……!?」
 美羽の呟きの通り、秋将軍が着込んできた闇のドレスがその闇を更に深くし、より大きく広がっていく。
「第二形態……といった所でしょうか……」
 ベアトリーチェが言うように、秋将軍が着込んでいたドレスは巨大な闇の衣になり、巨大な闇の翼を広げた。
 それは周囲の闇の結界に溶け込み、まるでこの秋将軍の腹の中にいるような感覚に襲われる。

 秋将軍の第二形態――暗黒秋将軍であった。

「ほほほ……まさかここまで健闘なさるとは思いませんでした……敬意を払って、わたくしも全力でお相手いたしましょう」
 空中に秋将軍の身体が浮かび上がり、周囲から闇の触手が襲い掛かってくる。
 それと同時に、秋将軍の支配を解かれた四つの魔法陣が自在に飛び回り、炎や雷を打ち鳴らしてコントラクター達を襲った。

「きゃあああっ!!!」
 叫び声を上げてしゃがみ込み、攻撃を回避する美羽。しかし、それを庇うように立ったコハクは、秋将軍を激しい怒りと共に睨みつけた。

「行こう、美羽……どんなに強大な相手でも、負けるワケにはいかない」
「コハク……?」
 普段は温厚なコハクが怒りを露わにすることは珍しいことだ。
 美羽の手を取って、立ち上がらせる。
 確固たる意志をコハクの瞳は確かな未来を見据えていた。


「カメリアと約束したんだ……将来、僕達の子供をあの山で遊ばせるって……そのためにも、ここで倒れている場合じゃない!!」


 そこに、シリウス・バイナリスタとサビク・オルタナティヴが到着した。
「……その通りだぜ。――とはいうものの、この出遅れ感なんとかならねぇかな」
 シリウスは呟いた。何しろ、結界封じに自らの超国家神としての能力を発揮しようと勇んでやって来たが、逆にその結界のせいで超国家神になれないのである。本末転倒とはこのことであった。
「ボヤいてる場合でもなさそうだよ、シリウス!!」
 サビクの声が警告を発した。
 その言葉の通り、周囲の闇の触手がシリウスとサビクに襲い掛かる。
「ちぃっ!!」
 シリウスはどうにか手持ちの『五獣の女王器・EX』を駆使して触手を追い払う。
 サビクも同様に、『サビクの剣』を振るって触手を退治していった。
 しかし、無尽蔵とも思われるその数と、時折発射される暗黒秋将軍の全体魔法の攻撃に、徐々にコントラクター達は消耗していく。
「……ヤベ……面白くない展開だぜ……」
 実際のところ、やはり超国家神としての力が発揮できそうにない状況に、内心シリウスは歯噛みしていた。現場に来ればどうにかなるかと思っていたものの、到着してみれば敵は激しくパワーアップした後。

 シリウスだけではない。その場の全員が普段よりも動きにくく、消耗が激しいことに気付いていた。

「そうか……結界が……」
 サビクが苦しげに呟いた。
 秋将軍が暗黒秋将軍へと進化したことで、秋将軍の張る結界の効果も上がっていたのである。しかも、暗黒秋将軍の近くであればあるほど、その効果は上がっているようだった。


「ちくしょ……このままじゃ……ジリ貧だぜ……」


 シリウスの呟きが流れる汗とともにこぼれ、闇の中へと消えていった。