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バカが並んでやってきた

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バカが並んでやってきた
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第13章


「おお……これは……」
 コア・ハーティオンは感動の声を漏らした。
「素晴らしい……素晴らしい癒しの力が街中を包んでいる……なんと暖かい……」
 アシガルマとの戦いに疲弊を感じていたハーティオンだけに、結和の回復魔法はありがたいものだった。
「感動するのはいいけど、状況はそこまで好転してないわよっ!!」
 パートナーのラブ・リトルのツッコミは冷静だ。確かに、多勢に無勢で街の人々を守り切れないかもしれない、という状況は体力の回復では購えない。

「確かにそうね……ある程度の対応はできるようにしたつもりだけど……こう数が多くちゃね」
 綾原 さゆみもラブの意見に賛成した。
 街の地形を利用して一般人を一箇所に集め、残ったコントラクター達で襲い来るアシガルマをその都度撃破してきたが、もしこの場に集まっていない一般人がいたらと思うと、油断はできない。

「……あ……あれはっ!?」
 そこで、アデリーヌ・シャントルイユが何かに気付いた。


「うおおおぉぉぉっ!!!」


 まるで地鳴りのような歓声が聞こえる。
「こ、これはっ!!」
 ハーティオンもその異変に気付いた。
 それは、アシガルマの群れに戦いを挑む人々の姿だった。
 各自に武器を持ち、集団でアシガルマと戦おうというのだ。
「……どういうことっ?」
 ラブはキョロキョロと周囲を見渡した。いつのまにか自分達に襲い掛かっていたアシガルマ達を、街の人々がすっかり包囲しているではないか。

「あんた達が気を引いてくれたおかげで、こちらも人数と武器を揃えることができたよ!!」
「さっきのすげぇ暖かい力で何かがふっきれたようだ――俺達の街は、俺達の手で守らなくちゃな!!」

 口々に叫び声を上げながら、アシガルマ達に戦いを挑む人々。まさか一般住民達からの抵抗は想定しなかったアシガルマの陣形は総崩れとなった。

「そうか……私は、間違っていたのかもしれない」
 その様子を見て、ハーティオンは胸に暖かいものがこみ上げてくるのを止められなかった。
「私に少しばかりの力があるからと言って、街の人々を守り抜くなど……。
 私たち一人ずつの力でも……街で戦う仲間達の力だけでも……足りなかったのだな!!」
 ハーティオンはウィンターの分身を肩に乗せ、その場の街の住民達に向けて、叫んだ。
「人々よ――どうか私達に力を貸して欲しい。
 私達だけでは真に敵を倒すことはできない。
 誰か強力な一人の力でも……それがいくつか集まったとしても……まだ足りない。
 だが……皆の力が……この街に住む全ての人の力がひとつに集まったのなら……」
 呼びかけながら、ハーティオンは皆の顔を眺めていった。
 若い男性、年老いた女性、元気な子供、気の弱そうな青年、美しい少女、深い皺の奥に深い瞳を持つ老婆――。
 実に様々な顔がそこにあった。そして、その全てが、ハーティオンの言葉を聞いていてくれていた。

「その力は、無限大の輝きを放つだろう!!」
 ハーティオンの言葉が人々の耳に届く。しかし、誰かが言った。
「言いたいことは分るよ……でも、実際にどうするんだ? ここには戦えない人もたくさんいるし……」
 さが、静かにハーティオンは首え横に振った。そして、肩に乗せたウィンターを指し示す。
「案ずるな……私達には、このウィンターの分身がいる!!」
「……スノー!?」
「さきほどの魔法のように、この街の人々の力を……願いを、戦っている皆に届けてくれ!!
 この街の人々の心にある、どんな絶望にも負けず、立ち向かう力……そう、それは『勇気』!!」
 力説するハーティオンに、街の人々がざわめく。
「おお……勇気!!」
「そんなことができるのか!?」

「……できるのでスノー!?」

 ウィンター本人の心が一番ざわめいていた。
 先ほどのブーストは結和の魔法という基本があったから範囲を拡大する、というブーストができたのである。
 ハーティオンの言っていることは分る。が、しかし、それがどれほどの効果を発揮するかと言われれば、疑問が残るウィンターであった。
「……すごい無茶振りがきたでスノー」
 ウィンターは呟いた。そこに、ラブがひらひらと飛来する。
「まったく、皆の『心』を届けるとか、まーた夢みたいなことを」
 呆れたように肩をすくめるラブに、ウィンターは同意する。
「そ、そうでスノー。もうちょっと現実的な対処を……」
 しかし、次の瞬間にはラブは片眉を上げて微笑んでみせた。
「ま、いつもの事よね」
「スノー!?」
「しょーがないわね、こーなったらここはひとつ、あたしも協力してやろーじゃないの!」

「……基本的には同じスタンスだったでスノー!!」

 言葉とは裏腹にハーティオンを『激励』するラブに、逆に絶望的な気分になってしまうウィンター。
 しかし、ウィンターはラブの言葉の端に一筋の光明を見出す。

「……それだ、でスノー!!」
「……どれ?」
 自分の肩口から後ろを振り返るラブ。
「ベタなボケはいいでスノー!! ラブの『激励』を皆の祈りにうまくブーストすれば……!!」

 ウィンターの分身は魔法陣の姿になり、ハーティオンに合図をした。

「もう心でも勇気でも何でも届けてやるでスノー!! ガンガンいくでスノー!!」
 半ばやけくそ気味い叫ぶウィンター。それに反してハーティオンは素晴らしい笑顔を見せた。
「おお、そうか!!
 さあ皆、手を取ってくれ!! 必ず……戦っている皆に届けてみせる……!!」

 ハーティオンの呼びかけに応じて、街の人々は手を取り――そして祈った。

 次第に街の人々の祈りは集まり……そして、ひとつになった。


                    ☆


「こ……これは……っ!?」
 闇の結界、その柱の付近で、暗黒秋将軍は戸惑いの声を上げた。
 街中を覆い尽くしている闇の結界の中で、キラキラとした輝きが舞い始めている。

「これが……街の人々の『心』……」
 コア・ハーティオンがウィンターの分身を通じて街中のコントラクター達に伝えたのは、街の人々の心である。
 ふわふわと漂う光の粒子のようなものを掌で遊ばせながら、シリウス・バイナリスタはその中に暖かさを感じていた。
「シリウス……でも、これ……」
 しかしパートナーのサビク・オルタナティヴは表情を曇らせる。
「ああ……」

 シリウスとサビクの懸念は、すぐに暗黒秋将軍も気付くところになった。
「ほほほ……何ですの、これは。キラキラしているだけで何にもなりはしませんわ」
 そう、まだこの状態では、街中に人々の心が届けられた『だけ』なのだ。
 それは確かに戦う者達に勇気を与えるかもしれないが、具体的かつ現実的な何かをもたらしはしない。
「……奇跡のカケラ……ってところか……」
 いまだパワーアップした暗黒秋将軍の力は脅威であり、加えて闇の結界を解除するきかっけもまだつかめていない。
 無意識のうちに、パートナーから受け取ったリボン『リトル・ウィッシュ』をそっと撫でた。

 ――まだ、足りない。

 闇の結界を解きこの街を四将軍の手から救い出すには、まだこの奇跡のカケラをひとつの形にする何かが必要なのだと、シリウスは感じていた。
「本来ならそれはオレの役割のハズなんだが……情けねぇ……」
 闇の結界が有効だということは、まだシリウスは超国家神になれない可能性が高いということだ。
 ままならぬ現状に苛立ちを覚えるシリウスだが、サビクはまだ冷静なままだ。
「ほら、ボサっとしていないで! 来るよ!!」
「お、おお!!」
 闇の触手を伸ばしつつ、四つの魔法陣を操って暗黒秋将軍が迫り来る。


「まだ……足りねぇんだ……ひとつか、ふたつ……」


                    ☆


「ほう……これは面白いな……」
 灼熱夏将軍と対峙する未来からの使者 フューチャーXも、その光のカケラに興味を示していた。
「翁、何をしておる!!」
 共に戦っているグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーから檄が飛ぶ。何しろ夏将軍から灼熱夏将軍へとパワーアップを遂げた敵の力は強大で、以前よりも素早い動きで巨大な剣と化したフランベルジュを振り回してくる。
 全身が炎の塊と化した上に、その剣を振るう度に先端から炎の魔術がほとばしるのだからタチが悪い。
「……それにこの熱気……長引くと厄介ね」
「……ああ……面倒くせぇな!!」
 リネン・ロスヴァイセとフェイミィ・オルトリンデは呟く。先ほどの結和の回復魔法で体力は回復したものの、戦況に変化がなければ同じことだ。
「何か……決定的な突破口が必要ね……」
 ソラン・ジーバルスの呟きを受けて、フューチャーXはニヤリと笑った。
「そういうことなら……面白いことができるかもしれないぜ、こいつを使ってな」
 フューチャーXは懐からふたつのアミュレットを取り出した。
「それは……二つ持っていたのか…、翁…?」
 いつも彼が胸から下げている、竜を象ったアミュレット『覇邪の紋章』である。フューチャーXはグロリアーナにそれを見せながら説明する。
「いや、もうひとつはビビィ……ブレイズ・ブラスから盗って来た」
「……盗って……」
 その言葉の通りだった。
 フューチャーXは、ブレイズが気絶しているのをいいことにブレイズの持つ『覇邪の紋章』を奪い取ってきたのである。
「なぁに、元は儂のもんだ。構うことはない」
 確かに、それは過去においてフューチャーX――ブライト・ブラスが幼少期のブレイズに手渡したものだ。
「ふむ……しかし、何故それが二つあるのだ? 昔渡したものであれば、翁がひとつ持っているのはおかしいであろう?」
 グロリアーナの疑問に、フューチャーXは事もなく応える。
「ああ……儂が持っているこいつは未来から持って来たものだ。儂が来た未来ではとっくにビビィも死んでおるからな。
 どうして入手したのかは知らないが、未来の四葉 恋歌から受け取ってきた。つまり、こいつは――」
 話しながらフューチャーXがふたつの紋章を近づけると、まるで共鳴するように仄かな光を放ち始めた。
「おお……」
 グロリアーナが感嘆の声を上げる。それに呼応するかのように、周囲に漂い始めていた光の粒子が集まり始めたのだ。
「この二つは正真正銘、時間軸は違えど、全く同じ物……この世に二つと存在する筈のないものが、ここに存在している……。
 これに加えて、今この街の人々の心が集まってきている。これを合わせれば……何かが起こるだろう」
 フューチャーXの言葉に、グロリアーナは頷きながらも、苦言を呈する。
「何か……具体性に欠けるのではないか?」
「……その通りだ……しかし、昔から儂はこういうピンチは慣れっこでなぁ。
 強力な力に大きな変化が訪れ、そこに人々の想いが加わった時には……何かが起こると決まっているのさ。
 『この世にひとつしかないものがふたつ存在する』という矛盾を解消するために……この世界が何を起こすかは分らない、確かに。
 だが、やってみる価値はあろう……そのために」
 フューチャーXは二つの覇邪の紋章を高く掲げた。
 もとより強力なマジックアイテムが二つ共鳴し、そこに街の人々の心が集まることで、周囲の力が急速に集まっているのが感じられた。
「……時間が必要か、良かろう」
 グロリアーナは両手の流凍刃を構えなおし、迫る灼熱夏将軍を睨みつけた。

「何をゴチャゴチャ小細工してんだい!! 何をしても無駄なことさぁ、全部焼き尽くしてやるよぉっ!!!」

 炎の勢いを増して、灼熱夏将軍が迫る。
 それを眼前に見据えて、フューチャーXは集中力を高めていった。

「さぁ……覇邪の紋章よ……今こそひとつに戻る時だ……!!
 願わくば……その秘められた奇跡の力を……我らに!!!」

 高く掲げた二つの覇邪の紋章が強烈な光を放ち始める。
 その二つは徐々に空中に舞い上がり、共鳴を続けた。

 その様子をスコープ越しに見つめていたローザマリア・クライツァールは呟いた。

「始まる……ふたつの紋章が……ひとつに……」