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バカが並んでやってきた

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バカが並んでやってきた
バカが並んでやってきた バカが並んでやってきた

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第17章


 灼熱夏将軍が敗れたその頃、極大冬将軍とコントラクター達との戦いも佳境に入っていた。
『おらあっ!!』
 巨大化した狩生 乱世とグレアム・ギャラガーの融合した銀髪の美女が、同じく巨大化した冬将軍に掴みかかる。
 とはいえ、こちらはアイテムの力で一時的に巨大化したに過ぎない。

『乱世、巨大化の効果は3分だ。その間に決着を着けなくては……』
 グレアムが乱世に呟く。
『んなこた分ってんだよっ!!』
 苛立ち紛れに乱世は叫んだ。だが、互いに同じ程度のサイズの極大冬将軍と乱世の戦いは膠着状態で、このままでは時間切れになってしまうことは充分に予想された。
 だが、戦っていた風森 巽はしばらく冬将軍を足止めしていたせいで傷が深く、変身も解けてしまっている。
 八神 誠一もまた懸命に攻撃を繰り返しているが、何しろサイズが違いすぎて決定打に欠けるのが現状だった。

『ちっ……どうすりゃあ……』

 乱世が舌打ちをしたその時。

『おらあっ!!!』
 突如として、黒いコートを翻した一人の男が乱入してきた。
 レン・オズワルドと融合したブレイズ・ブラスである。

『先輩っ!! 大丈夫っすか!?』
 変身の解けた巽に、ブレイズは話しかける。
「ブレイズ……なのか?」
『はい……これ、ありがとうございます。……みんなのおかげで、迷いも晴れました。
 忘れちゃいません……俺はまだ、戦えるっすよ』
 右手に巻かれた紅いマフラーを示して、ブレイズは言った。黒い仮面の向こう側に、屈託のない笑顔が見えた気がした。

『さぁ、行くぞ!!』

 レンの求めに応じて、ブレイズは跳ねた。
 ゴッドスピード――レンの素早さを活かしたその脚力で、ブレイズは目にも止まらぬスピードで極大冬将軍へと突進した。

『うおおおぉぉぉっ!!!』

 雄叫びが響き渡り、ブレイズとレンはそのスピードで極大冬将軍に次々に打撃を浴びせていく。

「何だ……これは……!!」
 乱世と対峙する極大冬将軍は戸惑いの声を上げた。
 無数に放たれるブレイズの拳が、巨大な雪像に少しずつダメージを重ねていく。
 本来であれば闇の結界の力で徐々に回復していく筈のその雪の身体は、しかしブレイズとレンの攻撃の素早さに翻弄されていた。

 レンと融合し、ひとりのヒーローの姿になったブレイズは、強い意志を感じさせる声を上げた。

『俺はようやく分った。俺がしたいことは正義なんかじゃなかった。
 俺はただ、自分が守りたいと思った人達を守りたいと思っていただけだったんだ。ただ……そのやり方を間違えて、いつしか力ばかりを追い求めるようになっちまった。
 爺さんの大きな力『覇邪の紋章』を失った今だから分る……必要なのは、力ばかりじゃなかったんだ。
 その間違いを、みんなが教えてくれた……俺が迷惑かけたような相手までが、俺の身を案じてくれた。
 それに、九十九……そして、先輩!!』

 ブレイズと融合したレンもまた、ブレイズに暖かい言葉をかける。
『そうだブレイズ……何のために戦うのか、何のために強くなるのか、それを忘れてしまっては、その力も技もただの暴力にすぎない。
 誰かを守りたい……その為の戦い方をしていけば、お前自身がヒーローになれるだろう』
『……はい!!』

 ブレイズとレンは高速の攻撃を一度止め、極大冬将軍の様子を見た。
『やはり……細かい攻撃も効いてはいるが、相手が大きすぎるな。足止め程度か』
 レンの呟きの通り、二人の攻撃は一定の効果を挙げているものの、乱世と対峙する極大冬将軍の動きを一時的に止めているに過ぎない。
『決定打が必要……ってことっすね』
 と、そこに鋭く叫び声を投げかけたのが、もう一人の先輩ヒーローである巽だった。

「ブレイズ、ウィンターの分身から朗報だ!! 灼熱夏将軍を倒すことができた……奴らの中心に『核』のようなものがある!!
 いかに巨大でも、それを壊せば勝ちだ!!」
 巽のもとにいるウィンターの分身が、夏将軍へと向かっていた別の分身から情報を得たのである。他の将軍に向かったコントラクター達にも、動揺の情報が伝えられただろう。

『核か……ならば、まずは完全に脚を止めてしまわなければならないな。
 ……ブレイズ、融合を解くぞ』
 と、レンはブレイズに告げ、融合を解いた。
「……先輩っ!?」
 ブレイズは驚きの声を上げる。極大冬将軍はこちらのスピードについて来られていない。ならばこのまま押し切るのもひとつの手ではないか。
 しかし、レンは静かにブレイズに告げた。
「スピードを活かした俺達の戦い方では、完全にヤツの脚を止めることはできないだろう。それならばスピードや正確さよりも……そっちの方が向いている筈だ」
 レンが指差したのはブレイズの右手。そこには、気絶したブレイズに巽が残していった紅いマフラーが巻かれている。

「……そうか!! ツァンダー先輩のパワーなら!!」
 ブレイズがその右手を高らかに挙げる。
 巽はブレイズに向けて叫んだ。
「そうだブレイズ、思い出せ!!
 自分の手足を一本の剣に見立てろ! 心に燃える正義の炎を拳に宿せ……!! やり方は、教えたはずだ!!!」

「やり方……そうだ……あの時……!!」
 ブレイズの心に、かつて巽に助けられた時のことが思い起こされる。
 数多くの敵に一斉に襲われたその時、巽は炎を宿したチョップ一発でそのピンチを難なく乗り切った。
「集中しろブレイズ……必要なのは細かい攻撃ではなく、火山の噴火の如く一点に集中して解き放つ――」

 巽の言葉通り、ブレイズの右手の紅いマフラーに力が集中していく。ブレイズと巽本人同士が融合しているわけではないが、右手のマフラーを通して、巽の力と技がブレイズに伝えられていた。

『うなる鉄拳、火竜拳!!!』

 二人の気合が同時に放たれ、ブレイズの右手に紅い炎が宿る。マフラーと共に強く激しく燃え盛るその炎はやがてブレイズの全身を包み込み、極大冬将軍の両脚を打ち抜いた。

『うおおおぉぉぉっ!!!』

 あまりにもスケールの違いすぎる極大冬将軍であるが、それゆえに的を外すことはない。
 強大な炎に包まれたブレイズはまるで一匹の火竜のような形で極大冬将軍の両脚を粉砕してしまった。
「うがああぁぁぁっ!!!」
 巨大な極大冬将軍が叫び声を上げる。この状況では乱世の攻撃も防ぐことはできない。
『よっしゃあああっ!!!』
 グレアムと融合した乱世が極大冬将軍の頭上からハンマーのように組んだ両手を振り下ろす。
 それを両腕で抑えた極大冬将軍は、身動きがとれなくなってしまった。

『おい、今のうちだ!! こいつの『核』とやらを早くブッ壊しちまいなっ!!』
 乱世の叫びに応え、極大冬将軍の足元から出てきたブレイズは、巽の前で止まり、右手を差し出した。
「先輩……ありがとうございました、おかげで……大事なことに気付けたっすよ!!」
 その差し出された右手には、紅いマフラーがある。すでに解かれたそのマフラーを巽に渡して、ブレイズは巽を立たせた。
「……少しは役に立てたようで、何よりだ」
 マフラーを受け取ると巽はブレイズの横に立ち、自らの首にマフラーを巻いた。
「へへ……やっぱり、そのマフラーは先輩が一番似合うっすね」
 嬉しそうに笑うブレイズに、巽は檄を飛ばす。
「言っている場合か……動きを封じたとはいえ、時間は少ない。我も変身できるのはもうこれが最後だろう……敵は強大だ……やれるか?」
 巽の言葉に、ブレイズは真剣な眼差しで返した。
「問題ねぇっすよ……何しろ今夜は……」

 懐から、白いマスクを取り出すブレイズ。それを眼前に装着すると、不思議なことにそれは、まるで彼の心の内に反応するかのように、黄金の輝きを放った。
 巽もまた、再び変身ベルトに手をかけた。

「――真・正義マスク!!」
「――変 身 !!」

 激しい閃光が巻き起こり、二人の男が戦いの衣に身を包む。
 黄金のマスクを装着したブレイズと、変身スーツに身を包んだ仮面ツァンダー、ソークー1。

「何しろ今度こそ――俺と先輩のダブルヒーローっすからね!!」
「よく言った――なら、ついてこい!!!」
 そう言い放つと、巽は返事も待たずに空高くジャンプした。夜空に浮かぶ月をバックに、垂直に美しく舞い上がる。
「――っしょ!!」
 ブレイズの後を追うように跳ねるが、やはり実力の差は埋めがたく、まるで高度が足りていない。
「――ちっ、やっぱ俺じゃまだ……」
 内心舌打ちをするブレイズだが、その横にまるで影のように付き添う男がいた。
 先ほどまでブレイズと融合していたレン・オズワルドである。

「やれやれ……最後まで世話の焼ける奴だ……。ブレイズ、もう一度だ!!」
 レンはかつて魔族の長との戦いでブレイズと共闘した時のように、両腕を組んでブレイズの土台になった。
「レン先輩――ありがとうございます!!」
 そこにブレイズが脚をかける。タイミングを合わせて、レンは空中から更に高くブレイズを押し上げた。

「行け、ブレイズ!! 今こそ人と街を守るヒーローに……お前がなるんだ!!!」

 レンの力を借りてブレイズは更に高く飛び上がる。
 すると空中でトンボを切った巽とちょうど高度を合わせることができた。

 狙う先は決まっている。極大冬将軍の巨体の中心。
『ここだ――ここが『核』だ!』
 乱世と融合したグレアムが声を上げた。そろそろ巨大カプセルの効果が切れようとしている。グレアムのパイロキネシスと乱世の真空波を融合させた『裁きの業火』が極大冬将軍の胸部にある『核』を露わにさせていた。

「いくぞブレイズ、これで終わりだ!!」
 巽とブレイズが息を合わせて核に狙いをつけた。二人はまるで綿密な打ち合わせでもしていたかのように、同時にキックを放つ。


「ヒーロー、ダブルキーーーック!!!」


 二人の身体が極大冬将軍を通り抜けるように貫通した。完全にタイミングを合わせた二人のキックは正確に極大冬将軍の『核』を打ち抜き、破壊している。
 通り抜けた二人はそのまま同時に地面に着地し、ゆっくりと立ち上がった。


「ぐあああぁぁぁっ!!!」


 ワンテンポ遅れて冬将軍の断末魔の叫びがこだまする。乱世とグレアムの巨大化の効果も切れ、戦いの終わりと共に融合の効果も切れるのだった。
 勝利を喜ぶブレイズと巽を眺めて、レンは満足気に頷くのだった。


「それでいい……怒りに身を任せるのではない、誰かを守るというその心に従え、ブレイズ・ブラス……正義マスクよ」