校長室
バカが並んでやってきた
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第21章 「うおりゃあああぁぁぁっ!!!」 天地鳴動拳と共に『破邪の花びら』を叩き付けた南部 ヒラニィは、そのまま調子に乗って闇の柱を頂上から突き崩していった。 そして、やがて闇の柱の中心にたどり着いたとき、そこにはツァンダ付近の山 カメリアがいた。 「……」 何ごとかに集中している様子のカメリア。互いの意識が交錯する中、ヒラニィは告げた。 「……ちょっと捕まったからってショボくれて弱音吐いてる地祇はここか、このわしが直々に気合入れ直してくれるわいっ!!」 黙して語らないカメリア。ヒラニィは続ける。 「ほれ、いつまで夢見がちな幼女気取っておるか、おぬしはすーぐ自己犠牲に走りたがっていかんな。 仲間とか友達とかおるじゃろうがまず頼れっつーの、わしおぬしのそういう所ダメだわー、それに地祇は生きててなんぼじゃね? ていうかよくそれでわしの2Pカラーを名乗っておるなと」 「いや、名乗っとらんから」 言いたい放題のヒラニィにようやく突っ込むカメリア。 「おお、ようやく目覚めたか。いいか、何でも自分ひとりで解決しようとせずになぁ……」 「あ、すまん。そのくだりもう一通り終わったんで」 「またそんな展開っ!?」 「で、ついでにここに今まさに封印を解かれようとしている地祇がおってな」 カメリアが示すと、山羊の頭部を持つ一人の少女が目覚めようとしていた。紛れもなく封印前のザナドゥの地祇 メェである。 「ほう……それで?」 「ちょうどいいからお主もちょっと融合していけ」 「なんかわしの扱いこそ毎回結構ヒドくね!? ってうわあああぁぁぁ!!!」 こうして、ツァンダ付近の山 カメリア、ザナドゥの地祇 メェ、そして南部 ヒラニィによるトリプル地祇による融合が完成したのである。 3人は力を合わせて闇の柱の内部からの脱出を開始する。 ヒラニィはカメリアの無意識に干渉する能力をさらに拡大して街のコントラクター達の潜在能力へと呼びかけを強化した。 これにより、闇の結界とは逆にコントラクター達の持つ本来の力を引き出しやすくなるだろう。 メェは闇の結界の術式を解析し、内部からの解呪を試みる。 これにより、闇の結界の崩壊がより一層早まるだろう。 『ああもうこうなりゃヤケよ、地祇が二人合わさったら最強! 3人なら無敵なとこ見せてやるわーーっ!!!』 まさにやけくそ気味なヒラニィの叫び声が、街中に響き渡ったという。 ☆ 「――サビクッ!!!」 闇の中、シリウス・バイナリスタの叫び声が響く。 見ると、迫り来る暗黒秋将軍と自分の間に、サビク・オルタナティヴの背中がある。何本もの闇の触手がサビクの身体に絡みつき、更に暗黒秋将軍の繰り出した鋭い闇の爪がサビクを貫いている。 そのうえで、四方に張り巡らされた魔法陣からは今にも四種の攻撃魔法が放たれようとしていた。 それは、次の瞬間にはサビクに次々に命中し、確実に致命傷を与えるだろう。 やけに時間がゆっくりと感じられた。その中で、シリウスは何が起こっているのか理解できなかった。 ついさっきまであそこにいたのは自分自身であり、サビクは自分の後ろにいたはずではなかったか、と。 「……」 刹那、サビクがシリウスを振り返ったような気がした。 視線が合った瞬間、シリウスは全てを理解する。 キャスリングだ。 守護対象と自らの立ち位置を一瞬ですりかえる守護術で、サビクがシリウスを守ったのだ。 「……貴女が先に死にたいということですか……? いいでしょう、お望み通りに……」 暗黒秋将軍が呟き、周囲の魔法陣が発動しようとする。シリウスは叫んだ。 「やめろおおおぉっ!!!」 だがその瞬間、上空で異変が起こった。 スプリングの放った『破邪の花びら』が飛来し、ライカ・フィーニスがそれを崩落する空で闇の柱の上空に打ち上げた。そしてそれを南部 ヒラニィが力任せに柱に叩きつけたことで、柱の崩壊が始まったのだ。眩しい光と轟音が周囲に響き始める。 「――い、一体、何が……!?」 暗黒秋将軍が思わず闇の柱の上空を見上げる。魔法陣の発動が止まった。 「サビクっ!!」 闇の触手の拘束がゆるみ、力なくサビクがシリウスに向けて振り向いた。 「――バカ野郎、なんでこんな……!!」 駆け寄ろうとするシリウスに、サビクはそっと囁いた。 「はは……どうした、なんて顔してるのさ。最強の十二星華がこんな攻撃くらいで死ぬわけないだろ?」 明らかに強がりだった。遠目にも、すぐに治療が必要なレベルの傷であることがシリウスにも分った。 「……っ!! オレなんかの……ために……!!」 守られても、起死回生の一手を打てる訳ではないシリウスに、悔しさが滲む。 「ふん……キミのそんな顔は、見たくないね。……見なよシリウス、キレイな星空じゃないか」 「……?」 サビクの言葉に、思わず空を見上げるシリウス。 『破邪の花びら』のかけらが、無数の流星となってツァンダの街に降り注いでいた。 シリウスの瞳にもその光が映る。その光はやがて、シリウスの中にある何かを揺さぶり始めた。 「なぁシリウス……キミはどこまで行ってもキミでしかない……なら、キミがしたかったことをするしかないじゃないか……?」 サビクの言葉がシリウスの心に響いた時、その何かが弾ける。 「……そうだ……オレは魔法少女でも、超国家神でもねぇ……」 「そうだ……キミはシリウス……誰かに良く似た……誰でもない……シリウスだろう……」 サビクが最後の力を振り絞る。 「!?」 「振り向くな……行け……!!」 もう一度――最後のキャスリングだった。 傷ついたサビクは暗黒秋将軍の眼前から消え去り、代わりに無傷のシリウスが。 そして、闇の柱の状態に気を取られた暗黒秋将軍は、一瞬の隙を作った。 「――!?」 シリウスの右手が素早く伸び、それは暗黒秋将軍の喉元を掴んだ。今までの戦いを見ても、シリウスが暗黒秋将軍に対する決定打を持っていないことは明らかだった。 しかし、その気迫に暗黒秋将軍は気圧された。 「そうだ、オレはシリウス……シリウス・バイナリスタだ!!」 カメリアが解放され、山羊 メェが力を取り戻しつつある。ヒラニィの打撃により闇の柱は崩壊を始め、暗黒秋将軍の闇の結界はゆるやかに霧散を始めていた。 「そうだ……力を失ったことで、大事なことを忘れていたぜ……」 呟くシリウス。その左手には、降り注いだ『破邪の花びら』が一枚。 その花びらは光の結界のように暗黒秋将軍の闇の力を抑え込んだ。さらに、ヒラニィとカメリアによる潜在能力への呼びかけも発動する。 「何でもない日常……素晴らしい仲間達との、素晴らしい世界を楽しみたい……ただ、それだけでよかったんだ」 それはすなわち、シリウスが本来の力を取り戻すことを意味していた。 「――変身!!」 瞬時に魔法少女のコスチュームが超国家神シリウスのイクシードコスチュームへと変化する。暗黒秋将軍は、喉元に伸びたシリウスの右手を四本の腕で掴んで抵抗するが、それはすでに微動だにしなかった。 「こ……これが……貴女の本来の力だというの……こ、こんな敗北、認めるものですか……!! こんなの、ただの偶然の産物ではないですか……ただの奇跡ひとつで勝ちをさらっていくなど……!!」 悔しさと共に、苦悶の表情を浮かべる暗黒秋将軍。 シリウスは、パートナーから託されたリボン『リトル・ウィッシュ』に視線を落とした。そして、静かに首を振る。 「いいや……オレは奇跡なんか起こしちゃいねぇ」 「……!?」 「確かに、奇跡的な偶然だろうさ。だがな、この偶然はこの街を救おうとした人々が――それこそ、街の住人一人ひとりが懸命に戦ったからこそ、起こった偶然なんだ。 ……これを奇跡というなら――」 「お……おのれ……」 「――奇跡なんか、起こって当然だ!!!」 「うわあああぁぁぁっ!!!」 シリウスの全身が眩しい光を放つ。イクシードフラッシュ――パラミタ固有のあらゆる超常現象を封じる女神の光が、暗黒秋将軍の闇の衣を消滅させた。 「大丈夫ですかっ!?」 暗黒秋将軍と戦っていた、ベアトリーチェ・アイブリンガーは傷ついたサビクに駆け寄り、介抱した。 「ああ……死ぬような怪我じゃない……心配いらないよ。それより……」 サビクは、シリウスのイクシードフラッシュにより力の大部分を失った秋将軍を見た。 「お……おのれ……おのれ……!!」 秋将軍は地上の精霊であるため、契約者の力やパラミタ固有の力を封じるイクシードフラッシュの効果も完全ではない。しかし、その力を弱める充分な効果はあるようで、すでに先ほどまでの強大な力を感じることはできなくなっていた。 そこに、先ほどから苦戦を強いられていた小鳥遊 美羽とコハク・ソーロッドが立ちはだかった。 コハクは秋将軍への怒りを露わにし、叫ぶ。 「ウィンターやカメリアにしたこと、許すわけにはいかない……美羽!!」 「うんっ!!」 美羽と手を取ると、二人は融合する。 まだ闇の結界は完全に消え去ったわけではない。秋将軍の力がじきに消え行くとしても、今は融合の力を使えるロスタイムのようなものだ。 二人はひとりの大天使の姿に融合し、3対の翼を広げた。セラフィックフォース――融合により守護天使の潜在能力を解放し、強力な力を発現したのである。 『コハクっ!!』 美羽の覚醒光条兵器による光の大剣が現れ、それをウィンターの分身が光輝のブーストで強化した。 『残った闇ごと……すべて消え去れぇぇぇっ!!!』 横一文字に放った斬撃が、光の帯となって秋将軍に襲い掛かる。 「ああ……うわあああぁぁぁっ!!!」 美羽とコハクの攻撃が、秋将軍を光に包んでいく。やがて秋将軍はその光の向こうに消え去った。 「これで……残るはひとり……か」 超国家神の力を取り戻したシリウスは、未だ星の降る夜空を見上げて呟いた。