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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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第2章 別荘側の内情

 ルリマーレン家の別荘では、便所騒動も治まり不良少年達と、波羅蜜多実業高等学校のOBや現役パラ実の女性達が屋敷の補強作業に勤しんでいた。
 人数も年齢も高く志も態度も女性陣の方がデカイ為、完全に女性上位となっていた。
「この程度では一日分にしかなりそうもありませんが」
「本当に食べられるものだろうな?」
 来客の対応は、既に下っ端となっている元リーダー格の少年ブラヌ・ラスダーが行なっている。
「勿論です。新鮮なものをお持ちいたしましたから。で、大量虐殺行為があったと聞きましたが、エル神様はご無事でしょうか?」
 台車いっぱいに食料と物資を乗せて、パートナー達と共に交渉に現れたのは蒼空学園のリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)というエル・ウィンド(える・うぃんど)と互いを神と認識しあっている青年だった。
「ああ、ヤツなら死んだ」
「な、なんですと!?」
「……はずだったんだが、姐御にこびへつらいやがって……」
 ぶつぶつ言いながら、ブラヌは勝手口のドアを大きくあけた。
「食材を入れろ。そのエルに毒味はしてもらうがな。妙な薬や毒が入ってた時には、生きたまま岩縛り付けて沼に沈めるぜ」
「分かりました。それはエル神様に真っ先に食べていただけるということですね。では、運び入れましょう」
 リュースがパートナー達に声をかけると、グロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)レイ・パグリアルーロ(れい・ぱぐりあるーろ)の3人は呆れ顔や困り顔をしながらも、リュースを手伝い荷物を運び入れはじめる――その時だった。
ズゴーーーーーン!
 突如、大きな音が響き、別荘が激しく揺れた。
「何だ!?」
 ブラヌが即座に駆けていく。2階のようだ。

 その物体は部屋を突き抜け、廊下に顔を出していた。
「……宝、があ……」
 血だらけで倒れている男は、それだけ言うと意識を失った。
 廊下に顔を出している物体はエー テン(えー・てん)だ。
 何も言わずに身体を動かそうとしているが、嵌ってしまっており身動きが出来ない。機体のような身体もボロボロ状態だ。
「起きろ!」
 パラ実OBの女が、気絶している男――パラ実のテクノ・マギナ(てくの・まぎな)をの頬を叩き、意識を戻させる。
「……っ、エーテンのヤロウ。乗り込むって言ったら、全速力で突っ込みやがった」
 眩暈に顔を顰めながら、テクノは起き上がる。
「ちょいと小耳に挟んだんだが、ここにはすげぇお宝があるらしいじゃねぇか? 俺にもよぉ、分けてくれねぇか?」
 流血しながらのテクノの言葉に、ブラヌはきっぱりと言った。
「アジトぶち壊しといて何言ってんじゃワレ!」
「いや、援助用の食料沢山持って来たぜ?」
 衝突のショックで、弁当の中身全部飛び出てますが。
「消耗品なんかもある」
 衝突のショックで小火が発生し、燃えてますが。
「とりあえず、直せ。話はそれからだ。だが、お 前 は 動 く な ッ! 崩れるッ!!
 抜け出そうとしたエーテンだが、動くたびにバラバラと天井から瓦礫が落ちてくる。
 かくして、重傷を負った状態で、テクノとエーテンは別荘の修繕作業を命じられる。無論、エーテンは手伝えもしないが。
「しかし、お宝ぁ? そんなモンここにはねぇぜ。てか、この間攻めてきた奴等はそれが目的か」
「ああ、それは多分地下の生態系の話だ」
 仲間となり、見回りを担当していたイルミンスールの瓜生 コウ(うりゅう・こう)が言った。
「オレも地下の生物に興味があるんだが、どこから行けるんだ? すげぇご馳走が生えてるかもよ」
 コウの言葉に、パラ実の女性陣がブラヌに目を向ける。
「知らねぇな……。縁の下に下りる場所くらいどこかにあんだろ。勝手に探せ」
「それじゃ、勝手に探させてもらうよ。あとこれ、あんたの分だ」
 コウはシンプルなシャツをブラヌに手渡した。
「炎の攻撃がありそうだからな。燃え易い服や溶ける服は避けた方がいい」
 それは、麻袋で作った服だった。
「おう、使わせてもらうぜ」
 コウはブラヌや不良達と悪くない関係を築けていた。
「この部屋どうにかしておけよ」
 そう言葉を残し、ブラヌは1階に下りていった。
「どうにかって言ってもな……。ま、荷物だけでもどうにかするか」
 コウは軽く笑みを浮かべた後、テクノを手伝いとりあえず食べられる食材の確保に努めることにする。満足に食事が出来ていないのは不良だけでなく、コウも一緒だった。

「エル神様、無事だったんですね。まぁ、エル神様ならしぶとく生きてると思ってました」
 キッチンにて、リュースは、エルと再会を果たした。
「勿論、我等はガートルード様の加護の下で生きている! ガートルード様万歳! 万歳ばんざーい」
 どこか虚ろな目で、エルはパラ実のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)の名前を連呼していた。
「煩い。食材が揃ったんじゃったら、早ぉ食事の用意しんさい」
 言葉と共にキッチンに顔を出したのはそのガートルードのパートナーであるシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)だった。
「ああ、こちらの綺麗な女性を女神信仰していたんですね、分かります。ホワイトさんも無事でよかったです」
「ホワイトではありません。私はマザー・ゴキブリとなる女です」
 そう虚ろに微笑み、黒い昆虫のようなものを炒めているのはエルのパートナーホワイト・カラー(ほわいと・からー)だった。
「これを最後とし、私はもう彼等を調理することはありません。ああ、愛しき子らよ……」
 なんだか様子がかなり変だが。神と神の相棒であるが故のことと理解し、リュースは特に気にしなかった。
「ここで大虐殺が起こるって聞いたんですよ。立て篭もる方々の支援活動をしないとと思って……。まずは、ご飯。お腹が空いたら、何も出来ませんからね」
 爽やかな笑みを浮かべながら、食材をキッチンに運び入れていく。
「大量虐殺、ですか……」
 現れた女性の元に、エルが歩み寄り跪く。
「ガートルード様! 食料がないのならどうぞボクを食して下さい」
 自分を崇めるエルに憐れみの目を向けた後、ガートルードはリュースに視線を戻す。
「お姐様は人を食したりはしないの。早く夕食作ってね。魅力的な身体の為には美味しい食事が必要なんだから」
 ガートルードの陰からイルミンスールの晃月 蒼(あきつき・あお)がひょっこり顔を出した。
「ワタシはもう料理には手を出しません。この間はホントすみません。普通に作っただけど、家庭科の成績が赤点なので……」
 先日の腹下し事件は蒼の料理の腕と食材が原因という結論に落ち着き、その後一切抵抗もせず、従順にガートルードを慕い、崇めていたため、今では別荘を自由に歩き回ることくらいは出来るようになっていた。
 蒼にガートルードは静かに頷いてみせる。
「白百合団ミルミ・ルリマーレンが連合部隊を引きつれ攻め込むと聞きまして……。微力ながら、最後の最後まで抵抗を続けられる皆様のお手伝いをするために仲間を引き連れて参上いたしました」
 ガートルードとシルヴェスターをボス格と認識し、リュースが丁寧に説明をする。
「白百合団、ミルミ・ルリマーレン……」
 ヴァイシャリーでバイトをしていたガートルードは、その名を知っていた。
 それ以上は何も言わず、パートナー達とガートルードはキッチンから出て行った。
「あ、待ってガートルードお姐様〜」
 蒼も、ガートルードの後についていく。彼女はガートルードやパラ実の女性達の大人の魅力に真に惹かれており、近頃ずっとガートルードの傍に張り付いているのだ。