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リアクション
第4章 突撃
「1時間前に、警告をいたしましたから、もうどなたもいないはずですわ。万が一残っていたとしても、取り壊しが始まれば屋敷を占拠している方々も外へ出てこざるを得ないでしょう」
留美は、すくりと別荘の前に立つ。
別荘の外に姿はないが、銃器が窓から覗いているのは気のせいだろうか。
鏖殺寺院側も、戦闘体制をとり待ち構えているようだ。
ラムールがハラハラする中、風が吹き抜けて留美のスカートがふわりと揺れた。
「あーあー、テステス、マイクテス、聞こえますか不良のみなさん」
拡声器を受け取った蒼空学園の志位 大地(しい・だいち)がめがねを外し一歩前に出て、別荘を占拠する者達に呼びかける。
普段は優等生面の大地だが、めがねを外すと一変する。目つきの悪さは不良以上だ。
「あはっ、本日は晴天なり〜」
パートナーのシーラ・カンス(しーら・かんす)も、大地の手をぐいっとひっぱり、拡声器に声を乗せる。
「社会の汚物に入り浸られては別荘が腐る……というわけでもないですが私有地を勝手に占領するのは感心しませんねぇ」
「汚物おぶつ〜」
大地とシーラの言葉に、別荘から弾丸が飛んでくるが、この位置までは届かない。
「正面からかかってきたらどうですか? しょせんは腰抜け揃いですか?」
「腰抜け腰抜け」
大地の辛辣な言葉が続く。
「無駄飯食らいの排泄物製造機、パラミタに巣食う寄生虫……と言ったら寄生虫に失礼ですよね」
「あははははッ、本当に失礼だねぇ〜」
大地の馬鹿にしまくった口調と、シーラの嘲りが籠もった笑い声が響く。
「フザケやがって!」
「てめぇらこそ、ゴキブリ以下なんだよ!」
怒声が飛び、頭の悪そうな不良姿の少年が何人かつっこんでくる。
「篭城戦が基本だろ! 飛び出てどうする!!」
だが、後から響く女性の声により、それ以上不良が飛び出てくることはなかった。
大地とシーラも走り込み、落とし穴があると思われる場所に、梯子をかけておく。
不良達は怒り狂っていても落とし穴の場所は把握しているようであり、穴を避けてとびかかってくる。
「避けても、穴ばかりの場所では、まともに戦えませんよ? もう少し頭を使った方が人生楽しいですよ」
「安全な場所教えてくれてありがとう〜」
大地がリターニングダガーを投げる。よろけた不良に、シーラがホーリーメイスを振るうと、避けようとして不良は落とし穴に嵌った。
「これはありがたい。ルートが決りましたな」
別荘を見据えるミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)の傍らには、兵器を押す同志達の姿があった。
教導団のメンバー中心で作り上げたその撞車という中国古代の攻城兵器は、太陽の光を受け、ギラギラと怪しい光を放っていた。
「ついに鏖殺寺院との決戦の日がやってきましたわ」
ミラが感慨深げな声を上げる。お揃いの軍用ヘルムには、決意を表す赤いリボンが結んである。
「あー、鏖殺寺院の諸君、最終警告だ。只今から最終的攻撃を行う。速やかに退去したまえ」
拡声器を手に、ミヒャエルはそう勧告をする。
しかし、飛び出てきた不良以外、別荘側は反応を示さない。
「仕方あるまい。一斉投射!」
ミヒャエルはそう指示を出し、自分は中衛の位置につきガードラインを発動する。
青も中衛に就き、ガードラインと禁猟区を発動する。
黒は、撞車の後からパワーブレスを乗り手にかけた。
アルラミナは自分とアマーリエにギャザリングヘクスを。
伽耶は、ギャザリングヘクスとパワーブレスを乗り手にかける。
強化に強化を重ね、光り輝く物体が始動する!
うんちょうがスプレーショットを放ち、大地とシーラが更に攻撃を加えて穴へと落とす。
「前衛、突撃!」
ミヒャエルが声を上げるが……ここで一同は重大なことに気付く。
前衛がいない!?
ミヒャエルが立てた作戦では、鉄盾を持った前衛と、ガードラインの中衛を布陣するはずだったが。
前衛に名乗り出たものが仲間にいない、いなかったのだ。
更に、射撃をしたのはうんちょうだけで。
火術を放つと言っていた者はいたが、火術は近距離系魔法なのでここからではまだ届かない、届かないのだっ。
兵器製造に集中するあまり、作戦決行時の編成の詳細が疎かになっていた。
致し方なく。
若干の不安が残るものの、中衛のミヒャエルと青が先陣を切り、別荘へ向かう。
無論、銃弾が屋敷から飛んできては、戦士系ではないミヒャエルと青の身体を傷つけていく。
しかし、シャンバラ教導団の名にかけて、この作戦は成功させねばならない。男達は痛みに耐え、往くのだった。
「自分に前衛やらせて下さい!」
飛び出てきた救いの女神は桐生 ひな(きりゅう・ひな)だった。騎士鎧を纏ったナイトだ。
彼女は組み立て時から興味を示しており、時折手も貸しくれた。彼女の申し出を断る理由はなかった。
「いっくわよ〜!」
アルラミナが射程に入った不良少年に火術を放つ。
「ぎゃっ」
直撃を受けた不良が別荘の方へ駆けていく。
「うんしょ、うんしょ」
伽羅は体重をかけて、一生懸命後から撞車を押す。
「漢朝の将軍ともあろう者が、なぜこのような兵卒のような……」
隣で、パートナーの嵩が愚痴をいいながらも、伽羅に合わせて押している。
「ガスコン人の根性を見よ!」
「世に仇なす邪教徒どもめ、神の鉄槌を受けるがよい!!」
シラノとロドリーゴも後から、力を込めて押していく。
「よぉーし、腕が鳴るぜ」
アクィラは撞車の上に乗り、操縦を担当していた。
「さあ、突撃よ! あたしがリーダー、文句無いわね!」
「はい〜」
アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)とクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)は、撞車の上の丸太の左右に立ち攻撃に備える。
仁は、撞車の右側でファイヤプロテクトとディフェンスシフトを用い、防火および防御用鉄板を守りつつ押していく。
パートナーのミラは左側を押す。
「みんな……見ていてくれ……。俺達はついに寺院に反撃を開始したんだ!」
「頑張りましょう! 教導団の栄光の為に!」
仁とミラの声に、一同喊声を発する!
彼等は栄光への道を走り出したのだ。
「古代兵器も馬鹿にしたものではないでござろう」
うんちょうは少し得意気に言いながら、弾丸が飛ぶ中へと押していく。
「ウヒヒヒヒヒ! ワタシ、いま輝いてる! ウィザード万歳! 万歳! 万歳! ファイヤー!! ファイヤー!! ファイヤー!!」
アルラミナは強烈に燃えていた、いや燃やしていた。
アマーリエも、飛び出た不良を巻き込むように屋敷に向かって火術を放っていく。
「うしろ〜! 均等に押してくれ、均等に。進路が曲がるぞぉ」
アクィラが撞車の上から声を上げる。だが、軽く車体が右に傾き、右へと曲がっていく。
「ちょっと、前衛・中衛、轢きそう、よけてよけて」
アカリが危険を感じて声をかける。
ミヒャエルと青は瞬時に飛びのいた。
しかし、ひなは避けはしない。
「行かせるか!」
「邪魔はさせないのですー」
飛び出た勇気ある不良少年の元に、ひなは飛びつくのだった。
「きゃあっ」
「ぷぎゅっ」
アカリが悲鳴を上げるも、無情にも撞車はひなを踏み潰していく……。
ひなは不良を抱きしめたまま、潰れていた。
ガタンと揺れて、撞車の一部が崩れる。
「ぬわにぃ? 撞車の櫓が崩れたとな? ……まあ、その場しのぎの構造計算であったからの」
青は一瞬驚くも、直ぐに頷いて納得をする。
「ガタガタして狙いが定まりませーん」
クリスティーナが泣きそうな声を上げる。
「うわ、変な方向に曲がっちまう!」
「アクィラ! あたし達をどこへ連れてく気!?」
アカリが怒鳴る。
必死に進路を変えようとするアクィラだが、全く思うようにはいかない。
「熱いですわ」
「離れるぞ!」
ミラと仁も手を離して、後方へと跳んだ。
「あはははっ。あーっはっはっ」
アルラミナが放つ炎が、撞車の前面に燃え移っていた。アルミホイルは風ではがれてしまっている。
「まさか、跳弾がこんなに舞うとは……」
ミヒャエルが声を漏らす。
別荘に近付くにつれ、射撃が増え、弾丸が跳び回っていた。
伽羅も押していられなくなり、塀の後ろへと避難する。
撞車に目を向けると、ぷつりとロープが一本切れた。あれは自分が結んだところだ。
「知識で知ってただけでしたからぁ……」
「燃えろ燃えろ燃えろ、みんな燃えてしまえぇぇ!」
不良の姿がなくとも、アルラミナが周囲に向かって火術を打ちまくる。
「ぬわにぃ? 馬車の車体に飛び火したとな?……まあ、もともと木材じゃからの、燃えて当然であったわい。いや、失敗失敗」
炎が車体に燃え移る様子に、一瞬驚くも、青はやはり直ぐに納得して頷くのだった。
「風を考慮に入れていませんでしたわね」
避難しながら、アマーリエが言う。炎が全体に及んでいく。
「実際に使ったのはもう随分昔ですからなあ、何分図面はうろ覚えでござりました」
「シノワ(中国)の兵器の設計なぞ、正直わかり申さぬ」
設計図を担当した嵩とシラノの言葉に、一同「え?」と目を向ける。
「丸太に火の粉がぁ!」
クリスティーナが悲鳴のような声を出した。
「丸太係はもう降りろ! あとは俺だけでぶつける!」
炎と弾丸の雨に打たれながら、アクィラが声を上げた。
「う……。はいーっ」
しぶしぶ、クリスティーナは飛び下りて、仲間達の方へと走る。
「なにかいい感じに破滅の美学を感じるわ!」
伽耶は目を輝かせる。
「破滅の美学ね! もっと燃えちゃえー!」
アルラミナは炎術で後押しする。
「だめだ、撞車はぶつけなければならない! なぜなら目の前に鏖殺寺院の拠点があるからだ。ヤツラに一矢報いなければ、俺達はおとなしく入院することすら出来ないんだ!」
火傷した手を握り締めながら、仁が絞り出すような声で叫んだ。
「いいからそのまま突っ込ませるですぅ〜!」
炎の車と化し、もはや原型をとどめていないソレを仁と伽羅の呼びかけに応え嵩とシラノは一心に押す。
ロドリーゴも状況がよく判らぬまま、とにかく押した。押した押した押した。
「車長が降りてどうするの!」
アカリはまだ避難してはいない。アクィラの操縦を助けながら、共に屋敷に突っ込んでいく!
ドーン
衝突音はした。音は響いた。
だけど、屋敷はびくともしない。窓1つ壊れてはいないッ!
「狂信の力とはかくも強大なものか……」
呆然と呟くロドリーゴ、そして「えいえいっ」と、撞車の残骸を屋敷に投げつけていくメンバーの下に、2階からファイヤーストームが放たれた!
「燃えろ燃えろ〜!」
アルラミナは精神力が尽きてもまだ狂乱状態だった。
撞車だった者。そして尊き仲間達は炎の渦に全て飲まれてしまったのだ。
青は静かにその様子を見ながら、腕を組む。
「科学の発展には犠牲がつきものじゃて」
「カメラはどこ? わたしの写真をとってくれている人はいないの?」
伽耶は後方で唖然としている解体業者の人たちに向けてピースを決めていた。
……かくして、教導団と鏖殺寺院の戦いは鏖殺寺院の圧勝により幕を閉じた。
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