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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

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 その頃董卓城では。
 自分の子孫である皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)を董卓に差し出した皇甫 嵩(こうほ・すう)が、本日何度目かの苦情を受けていた。
「──あのように董卓様を独り占めされては……ううっ、俺だって伽羅ちゃんとイチャつきたいんだー!」
 最初のうちの丁寧語もどこへやら、モヒカンを綺麗に整えた彼はオイオイと泣き出した。
 誅殺槍の力を借りているとはいえ、罪な子で……と、皇甫嵩はひっそりとため息をついた。そしてほくそ笑む。
 今の伽羅は誅殺槍の力により皇甫嵩とうんちょう タン(うんちょう・たん)を除いて、誰彼かまわず恋の虜にしてしまう魅力の持ち主になっていた。そこに加えて、誰にでも愛想良く振舞ったり上手に甘えたりするものだから、余計に惹かれる者は増え、その者達の間で火花が散り始めていたのだ。
「どうやったら俺だけを見てくれるだろうか……」
「あればかりは何度言っても治りませぬ。お許しくだされ」
 膝を着いてすがりつくモヒカンの彼に、皇甫嵩は困り顔でなだめた。

 その罪作りな伽羅は、董卓の自室でひたすらご機嫌をとっている。
 部屋の外ではうんちょうが警備にあたっているはずだ。
 董卓にこの魅惑の力は効かないので、伽羅自身の努力で董卓を釘付けにするのに必死であった。
 戦車製造により運ばれてくる料理への食欲も小休止となり、部屋に付き添ってからずっと彼女は董卓に全身マッサージを施したり、心にもないことを言って褒めて褒めて褒めちぎった。
 その努力が報われてか、董卓はすっかりご機嫌である。
 と、そこに控え目なノック音が響く。
 何事かと思えば、うんちょうで。
 大事な報告があるとか。
 仕方なさそうに入室を許可した董卓だったが、伽羅は膝の上に乗せたままだった。
 静かに開けられたドアから転がるように入ってきたのは、うんちょうではなくボロボロのモヒカン。
 彼は伽羅と目が合うと切なげな表情になったが、すぐに董卓がいることを思い出して早口に言った。
「先ほどの破壊音はガイアさんの列車砲が何らかのミスで当たった音でした。それと……そのガイアさんが元教導団の青木という男に倒されました!」
 跪き悔しそうに報告した彼はガイアの強さに憧れていたのかもしれない。だから、すぐに董卓が報復のための措置をとると思っていた。
 しかし。
「油断したな。S級四天王ともあろう者が」
 たいして興味もなさそうに吐き出された言葉に驚愕した。
 そして董卓は伽羅へ視線を移すと、マッサージをするように言う。
「城の修復はメニエスに頼んでおけ」
「董卓様、いくらあの人が非凡な魔法使いでもそれは無理ですよぅ」
「そうか? それなら瓦礫を適当に片しておけよ。さ、伽羅、マッサージの続きだ」
「はぁい。次は美顔マッサージですぅ。男前な董卓様をもっともっとかっこよくするのですぅ。……あ、でもそうなったら、私はお払い箱になってしまいますね」
「そんなことはない。さ、頼むぞ」
「董卓様は心の広いお方ですね〜」
 ここで正常な判断力の持ち主なら、主をたぶらかしたなと伽羅を憎むところだが、今は訳が違う。
 そのモヒカンは憧れの戦士を倒された悔しさ、それをあっさりと流された憤り、さらには恋しい人を取られた憎らしさでいっぱいになり、それらは主であるはずの董卓へ向けられた。

 部屋を出て、駆け出したモヒカンをうんちょうは黙って見送った。