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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

リアクション

 こちらは牙攻裏塞島城内。
 レールガンで運良く乗り込んでくるゴブリンにうまく紛れてアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)の三人は修復中の城壁を越えて侵入を果たしていた。
 ひとけのない通路で足を止め、アルツールは紙ドラゴンを放った。
 開放を喜んでか、紙ドラゴンは一声咆哮するとドラゴンブレスを吐き出す。
 それほど大きな威力はないが、地味に確実に壁や壁に埋まっているパイプを破壊していく。
「給水施設や他、生きてる装置などを狙うぞ」
 アルツールの言葉にエヴァとシグルズは頷き、彼を追って走り出した。
 城内に守備兵は置いていなかったのか、目についたものをアルツールのサンダーブラストが貫き、エヴァの火術が火をつけ、直接攻撃したほうが早いものはシグルズが壊していった。
 そして、最初に目標にした給水施設の重い鉄扉を開いた時、小さくスイッチが入るような音がしたかと思うと、三人は爆風に廊下の反対側まで吹っ飛ばされてしまっていた。
 遠くなってしまった耳に頭を振り、打ちつけた体に大きな怪我がないことを確認した三人は、エヴァのヒールで回復するとやれやれと肩を竦めあった。
「少々うかつであったな。ただの無人ではなかったようだ」
「これからは慎重にいきましょう」
 シグルズの反省の言葉に、エヴァが仲間達に注意を促した。
 いくつかの罠をかわし、いくつかの罠に引っかかりながらもしぶとく破壊活動を続けた三人は、ついにこれらの罠を仕掛けた本人に出会った。
 そこは、広いけれど何に使うのかよくわからない様々な物がしまわれている物置のような部屋だった。これらの品々は以前の主である引きこもりの権造のコレクションと思われた。
 これまでのように入口に罠はない。
 確かに、これらコレクションを狙うのはマニアくらいだろう。
「ミツエの役に立つものとは思えないけど、燃やしておく?」
 エヴァが前を行くアルツールへ言った時、シグルズが彼の腕を引いた。そして、等身大人形の向こうへ鋭い声を飛ばした。
「そこにいるのは誰だ? いるのはわかっているのだよ」
 数秒の沈黙の後、低く笑う声が返ってきた。
 そしてアーミーショットガンを担いだ男と静かな表情の女が現れた。
「侵入者はてめぇらか」
 カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)はアルツール達を値踏みするように眺めた。
 傍らのハルトビート・ファーラミア(はるとびーと・ふぁーらみあ)は特に武器を構えるでもなくたたずんでいる。
 アルツールは意外な思いでカーシュを見た。
「君は……本当にミツエに付いたのだね?」
「ハンッ。馬鹿言うな」
 カーシュはそれを鼻で笑い飛ばす。
「単に取り引きしただけだ。しょうがねぇから協力してやってんだよ」
「……取り引き?」
「クックック、それは言えねぇがな」
 作戦会議の時、カーシュはミツエが彼の協力を得るのに交換条件として出した『カーシュ好みの女』はどうなったと聞いた。
 まだ見つかっていなかったのか視線をそらしたミツエに、カーシュは「お前でもいいぜ。そのじゃじゃ馬も悪くない……俺好みに調教してやる」と、わざわざ怒らせるようなことを言ってみたのだが、思わぬことに後ろに控えていたハルトビートから実に悲しげな視線をもらってしまったのだ。
 それに気づいたカーシュは、冗談だとハルトビートに告げたので、交換条件の行方はまだわからない。
 だが、このことをアルツールに話す義理もなかった。
 アルツールがカーシュを説得しようと口を開く。
「君は冷戦を知っているかね? 地球の二つの大国が睨み合っていた頃の話だ。世界はいつ大戦が起こるかと緊張していたが、逆にそのことにより両国に関わる小さな国々の戦争の抑止力ともなっていた。そして冷戦が終わったとたん、それらの国々は戦争を始めた」
「それがどうした」
「ミツエはその危険を冒そうとしているのだよ」
「俺には関係ねぇよ。戦争してぇならすりゃいいじゃねぇか」
 笑みさえ浮かべて言ったカーシュに、アルツールは失望を覚えずにはいられなかった。
 それならば、とシグルズが言う。
「機会があったらミツエに伝えてくれ。打倒中国を果たすことで起こるだろう余計な混乱を避けたければ、僕がリュングヴィの一族を滅ぼした時のように、民草全てを滅ぼすことを薦める、とね」
「覚えてたらな」
「アルツールやシグルズの例えがわかりにくいと言うなら、日本やドイツの例ならわかるかしら? 約三百年の平和が破壊された後、大混乱が起きた島国と、均衡の中で歪みを押し付けられる人々を救おうとしたけれど、結局別の人々に押し付けることしかできずに国を滅ぼした人物よ。ミツエなら知っているでしょうに……」
 エヴァの悲しげな言葉には、肩を竦めるだけだった。
 そしてカーシュはぞんざいに担いでいたアーミーショットガンを、おもむろにアルツール達に向けた。
「俺がわかるのは、これから俺達とてめぇらで喧嘩するってことだな」
 ニヤリとしたのを合図にしたように、影のように控えていたハルトビートが静かにフェザースピアを構えた。
 説得は無理かと、覚悟を決めたアルツール達も気持ちを切り替える。
 こうして始まった権造のコレクションの間での戦いは、権造が見たら発狂しそうなほどコレクションは滅茶苦茶に破壊されながら繰り広げられた。
 その際、ハルトビートが怪我を負ったことでカーシュがキレ、ますます収拾がつかなくなってしまうのだった。
 自分が負傷したことを「役立たず」と罵るどころか、怒りを剥き出しにしてアルツール達に挑むカーシュの姿に、ハルトビートは彼がミツエをナンパした時に覚えたものとは違う何かを胸の奥に感じた。