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砂上楼閣 第一部(第3回/全4回)

リアクション公開中!

砂上楼閣 第一部(第3回/全4回)

リアクション

「さっきのお姫さんじゃんか? それも美人の数がめちゃめちゃ増えているし〜」
 場に緊張が走る中、ご指名を受けたアディーンは一人相好を崩していた。
 退廃的な魅力あふれるメニエスを筆頭に、そのパートナーであるミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)は、軍人らしい燐とした美しさを醸し出している。
 他にもボーイッシュな雰囲気漂うシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)など、まさに美女と美少女の見本市だ。
「喜んでもらえて嬉しいわ。あなたの名前を教えてもらっていい?」
「アディーン!」
 もしも彼に尻尾があるとしたら、すごい勢いで振っているところだろう。
「私はメニエス。私、あなたのことが気に入っちゃったから、仲間に誘いに来たのだけど…」
 メニエスは、チラリと後ろに控える美少女集団の方に視線を向ける。
「私はパートナーも全員女だし、他にもこんな可愛い子もいるわよ?」
 メニエスが突然腕を引っ張ったのは、黒いロングウィッグで女装をした緋桜 ケイ(ひおう・けい)だ。
「かっわいい〜!」
 突然、アディーンの目の前に引っぱり出されたケイは、耳まで真っ赤になっている。
 実際には、恥ずかしがっているのではない。
 潜入調査のために自ら女装したとは言え、女だと信じて疑わないアディーンの様子に腹を立てていたのだが。
(俺はウィッチじゃねぇ…ウィザードだっつうの)
 内心舌打ちをしつつも、慎ましやかな少女を装いケイはアディーンに挨拶をする。
「…あ…あの、初めましてケイ…です」
「そのはにかんだような笑みがたまんねー」
 メニエスは勝利を確信した。
「扇を受け取ったのも何かの縁ってヤツでしょ? 私たちの仲間になりなさいよ」
「なる! なる! 絶対そっちの方がいい〜!!!!」
 アディーンは、今にも美少女集団に飛びかかりそうな勢いで首を縦に振った。
 大河が慌てて彼の腕を掴む。
「ちょっと待て! アンタはもう俺と契約しただろが!」
「あぁ?! んなもん知るかよ。 俺は男よりお姫さんのがいいんだって」
「契約して間もないし、今ならきっとクーリングオフしちゃえるんじゃない?」
 最後の駄目押しとばかりにメニエスはアディーンの耳元にささやきかける。
 と、そのとき。アディーンとメニエスのやりとりを黙って聞いていたブルーノが口を開いた。
「おい、ボウズ。さっきの光条兵器を呼び出してみろ」
「え? さっきの扇? でもあれって…」
 恐らく服の下に隠しているのだろうが。
 アディーンが召還した扇…もとい光条兵器は今、メニエスの元にある。
「私がもらったんだもん。返さないわよ」
 耳敏いメニエスが睨み付けてきたが、ブルーノは意に返さない。
「雑念を捨てて、頭の中にイメージしてみろ。お前が本当に契約者なら、さっきの扇は戻ってくるはずだ」
 大河はゆっくりと目を閉じた。
 ブルーノに言われた通り、件の羽扇を思い浮かべる。
 あれは派手な衣装と宝飾品を身にまとった貴婦人が持っていそうな扇だった。
 男の大河が持っていても役に立つ物でもないし。
 武器としても全く役に立つ物でもなかったが。
 遺跡に来る途中で大河は変熊たちから、この大陸に足を踏み入れるためには、パラミタ人との契約が必要なことを教わった。
 大陸に密航して以来、大河は様々な不運に見回れた。
 それらは全部運が悪かった…と思ってきたけれど、契約者でない自分がパラミタに拒まれていたのだ。
 知らなかったこととは言え、多くの人々に迷惑をかけてきたことは間違いない。
 もうこれ以上、誰かを巻き込まないためにも今ここでアディーンと正式に契約を果たさなくてはならない。
 アディーンは口は悪いし、態度はでかいし、気に入らないヤツではあるけれど。
 自分こそがパートナーであるとアディーンに認めてもらわなくてはならないのだ。
 だから大河は強く思った。
「戻ってこい!」
 天に向かって突き上げた大河の両手の中に、眩い光が生まれた。



「何やってんだ、アイツら?」
 光学迷彩に隠れ身、殺気看破のスキルを発動させた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、壁際に身を隠しながらその光景を見ていた。
 黒い髪の少年、大河の両手から突然光が生まれたかと思うと、それは何時しか一本の羽扇に変化していた。
 それは、さきほど仮のアジトにしていた洞窟の入口で、メニエスが得意気に披露していたものと全く同じだ。
 そのことに気が付いたメニエスは慌ててポケットを探るが…どうやら件の扇は姿を消したらしい。
「えっ、えっ、えぇ?! ちょっと返してよ、それ!」
 奪われた扇を取り返そうと詰め寄るメニエスを小さな舌打ちとともに国頭が見つめていると、パートナーの 猫井 又吉(ねこい・またきち)が声を潜めながら話しかけてきた。
「おい、武尊。こっちに入口みてぇなものがあるんだが」
 猫井もまた光学迷彩で姿を隠している。
 メニエスの話では遺跡の中には棺を納めたホールみたいなものがあるだけだということだったが。
 遺跡の中にお宝が隠されてないとは言い切れない。
 メニエスが薔薇学連中とやりあっているうちに、ホールの中を探ってみようと思っていた。
 猫井の示した辺りに近づいてみれば、案の定そこには、塗り込められた扉と文様のようなものが描かれている。
「当たりだな」
 ニヤリ…と口角を上げた国頭は、ピッキングスキルを発動させ扉らしき場所に手を当てる。
 瞬間、雷に打たれたような衝撃が全身を走り、国頭の身体を吹き飛ばした。
「ってぇ?!」
 地面に叩き付けられた国頭は、頭を抑えながら身体を起こす。
 猫井以外の視線を感じた国頭が、ホールの中央の方に顔を向ければ、その場にいた全員が、ジッと自分のことを見ていた。
 吹き飛ばされた瞬間、スキルを解除してしまったことに、国頭は気が付いた。