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砂上楼閣 第一部(第3回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第3回/全4回)

リアクション

 たまたま近くにいた五条 武(ごじょう・たける)レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)を強引に拉致し、飛空艇を後にした雪之丞は…と言えば。
 密林の中に入るなり、彼は同行者である二人に地図を突きつけた。
「ここから真っ直ぐ北に進めば、ブルーノたちのいる遺跡に着くから、後はよろしく!」
 雪之丞は五条たちの返事も待たず、光学迷彩を発動させ姿を消した。
 突然、遺跡までのお使いを押しつけられた二人は呆然と、さきほどまで雪之丞がいた空間を眺める。
「…なぁ…あの人結局…」
「イエニチェリだし、忙しいっつうことなんだろうけど…」
「だったらあんな飛び出し方をしないで、最初から俺達に頼めば良いような気がするけど…」
「こっそり隠れてルドルフさんを手伝うつもりなんじゃないのか?」
「たぶん、な。遺跡にいるのって俺達の船に密航してた奴らしいし。興味があったから、ちょうどイイや」
 好奇心を刺激されたレイディスは「急いで合流しようぜ」と促す横で、五条は携帯電話を取り出した。
「天魔衆とか言う連中がまた襲ってくるかもしれねーし、俺の仲間も呼んでおくわ」
 そう言って電話をかけた相手は、飛空艇に残っているはずのパートナーイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)だ。
「あぁ、イビー。突然で悪いがトトも一緒に俺の後を追いかけてきてくれ。お前の足ならすぐに追いつくだろ?」
 五条の相棒であるイビーは、戦闘用として製造されたと思われる紅の外装が印象的な機晶姫だ。加速ブースターも装備しているためバイク型に変形すれば、遺跡に着く頃には合流できるだろう。ドラゴニュートのトト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)については、あまり役に立つとは思えないが。呼んでやらなくては、後で何かと煩そうだ。
「これでよし、と。行こうぜ」
 五条は携帯電話をしまうと、レイディスとともに密林の奥へと足を進める。
 深い森だ。
 木々が生い茂り、昼間だというのに足下が暗い。
 地面を縦横無尽に走る木の根をまたぎながら、二人は奥へと進んでいく。
「…すごい森だな。方向が分からなくなりそうだ」
 持っていた剣で木に印を付けながら進んでいくレイディスの表情はどこか楽しげだ。危険が伴うことは分かっていたが、やはり遺跡探検という任務は、少年の冒険心をくすぐるのだろう。
 その横を歩く五条もまた旅や冒険が好きな少年の一人だ。
 パラミタに渡り、様々な都市を相棒のイビーとともに渡り歩いてきた。
 本来ならば今回のような任務は、嬉々として志願する所だが。
 密林の奥に進めば進むほど、足が重くなっていくような気がするのは何故だろうか。
 この地に訪れるのは、初めてのはずなのに。
 どくり、どくり…と少しずつ鼓動が早くなっていく。
 五条の足取りが遅れていることに気がついたレイディスが振り返る。
「どうした、五条? 顔色が悪いぞ?」
「いや…何でもない…」
 気丈にも頭を振って見せるが、五条の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「おい、無理はするなよ。お前の仲間を待って乗せていってもらってもいいんだし」
「大丈夫だ」
 気遣うレイディスを振り払うように五条は足を進めた。
 自分は遺跡に行かなくてはならない。
 理由は分からないが、そんな気がした。


 その頃、遺跡の方では、密航者の少年・梶原大河と目覚めたばかりの剣の花嫁が角を突き合わせているところだった。
「あぁ?! もうお前、阿呆? 馬鹿じゃねぇの。折角、俺様がくれてやった光条兵器を敵にとられるなんて」
「ってか、アレのどこが武器だよ! そもそもアンタがやってみろって言ったからだろ!」
「俺は扇いでみたらって言っただけだ! 投げろなんて言ってねぇよ」
 一瞬、投げることを提案した変熊 仮面(へんくま・かめん)に視線が集まる。
 しかし、張本人は素知らぬ顔で明後日の方向を見つめ、口笛を吹く有様だ。
「お前こそ何だ。呼びつけておいて、あれでは大河と契約をしたのかどうかも分からん。光の駄目嫁め!」
「糞馬鹿変態裸族になんか、ガタガタ言われたくねぇよ」
「俺様は変態ではないっ。変だ!」
「どっちだって大差ねぇっつうの。むさい野郎のチ○ポなんてみたかねぇっつうの!」
「俺様のチムチムチェリーのお陰で、貴様は助かったんだぞ! 少しは感謝の意を示したらどうだ!」
「お前なんかが出しゃばんなくたって、自力でどうにかしたっつうの! てか、あっちのお姫さん集団の方が良かったわ!」
 不毛なことこの上ない口喧嘩を止めたのは、ブルーノ・ベリュゲングリューン(ぶるーの・べりゅげんぐりゅーん)だった。
「お前ら、いい加減にしやがれ!」
「ギャァーーー化け物ッ!」
 突然、目の前に現れた、巨大な角を持つサイにも似たモンスターに、変熊と剣の花嫁はそろって大声を上げ、高く跳び上がった。
「…変熊…お前まで悲鳴をあげるな。さすがに凹むぞ」
 ブルーノの言葉にハッと我に返った変熊は慌てて威儀を正した。
「しっ、失礼しました。ブルーノ先生!」
「…なんだよ、突然」
 ブルーノは露骨に訝しがってみせるが、変熊は気にも留めない。
「不肖、変熊。ブルーノ先生の外見に拘らず行動で示す姿勢に感服いたしました! ぜひ先生の元でビーストマスターを極めてみたいと思っております!」
「…それ、嫌みだろ…」
 くだらない漫才のような会話に終止符を打ったのは、呆れたような表情を浮かべた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)だった。
「俺は早川。で、さっきから君と不毛な喧嘩を繰り広げているのが、梶原と変熊。それからそちらはブルーノ先生、モ………ゆる族だ」
 一瞬、ブルーノのことをモンスターと言いそうになったものの、淡々とその場にいる面々を紹介すると、呼雪は最後に「君の名前も教えてもらえるかい?」と尋ねた。
 呼雪の問いかけに剣の花嫁は、仏頂面を浮かべながらもぼそりと口を開く。
「…アディーンだ」