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第11章 テニスのルール知ってますか。


 咲き誇る桜を見もしないで闊歩する2人の“戦士”がいた。
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)。そして、御堂 緋音(みどう・あかね)
 ひなの眼光は鋭く、非常に厳しい表情だ。
 幼馴染みの緋音はその斜め後ろをひょこひょこ……ひなの顔をのぞきこんで、自分も! とがんばって真剣な顔をしていた。
 2人は薄い水色のテニスウェアを着て、ラケットを担いでいた。
 テニスコートでは、その異様な迫力に神崎優の青い瞳がぱちくりぱちくりしていた。
「な、なんか妙に気合い入ってるな……」

 その頃、姫宮和希は相変わらず構内をぐるぐる回って片っ端から花見に誘っていた。
「早弁したから腹減った? じゃあ花見に来いよ!」
「カツアゲされた? じゃあ花見に来いよ!」
「カツアゲをやっつけた? じゃあ花見に来いよ!」
「弁当も財布も忘れた? じゃあ花見に来いよ!」
「ギャンブルでスった? じゃあ花見に来いよ!」
「図書館でドキドキした? じゃあ花見に来いよ!」
「碁を打ってる? じゃあ花見に来いよ!」
「廊下に立たされた? じゃあ花見に来いよ!」
「校庭走らされた? じゃあ花見に来いよ!」
「ゲームのやりすぎで充電切れた? じゃあ花見に来いよ!」
「今度弁当つくる? じゃあ花見に来いよ!」
「今度それを食べさせてもらう? じゃあ花見に来いよ!」
「どっちが兄か姉かわからない? じゃあ花見に来いよ!」
「37歳でもまだまだいける? じゃあ花見に来いよ!」
「用務員のバイトでへとへと? じゃあ花見に来いよ!」
「研究資料が見つかった? じゃあ花見に来いよ!」
「花壇の手入れをしてた? じゃあ花見に来いよ!」
「たい焼きパンといちご牛乳ください? じゃあ花見に来いよ!」
「本をなくした? じゃあ花見に来いよ!」
「パートナーといちゃいちゃしてた? じゃあ花見に来いよ!」
「初めての授業をそれなりにできて達成感があるけど、反省点もそれなりにあって今後ますます修行が必要だと痛感? 花見来い!」
「一日中トメさんと喋ってた? じゃあ花見に来いよ! トメさんも連れてな」
「ミルクティーが飲みたい? じゃあ花見に来いよ!」
「桜花賞で負けた? じゃあ花見に来いよ!」
「桜花賞で勝った? じゃあ花見に来いよ!」
「体が浮いてる? じゃあ花見に来いよ!」
「リース! 花見に来いよ!」
「部長とアルダト! ……おまえら、来なくてもいいぞ?」
 という具合に、知り合いだろうがなんだろうが声をかけまくる和希だが、
「う……」
 校門から入ってきた百合園の2人には、言葉が出なかった。
(な、なんて恐ろしいオーラを出してやがるんだ……)
 桐生 円(きりゅう・まどか)が薄い桃色のテニスウェアを着て、鬼のような顔をしてラケットをぶんぶん振り回して歩いていた。
 その後ろをきょろきょろしながらついてくるのは、同じウェアに身を包んだ七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だ。
 ――第71回桐生対決。
 その舞台がここ蒼空学園のテニスコートなのだ。
 ちなみに、桐生対決とは桐生ひなと円の両者がどちらがより桐生かを競う伝統の一戦である。
 これまでの戦績は12勝12敗46分け。第70回大会はトントン相撲対決で、結果は力士焼失によるドローだった。
 今日はそれぞれに相棒を引き連れてのテニス勝負だ。
 百合園ペアが到着し、さっそくひながジャブをかました。
「おじけづいて来ないかと思いましたよ? あ、ピーマン!」
「なにっ!」
 円はピーマンが苦手だった。
 慌てて歩が円に抱きついた。
「円ちゃん。うそだよ、うそ。大丈夫だよっ」
「む……なんだい、せこいことして必死だね。練習はいっぱいやったのかな? キミは……テニス初めてだね」
 円はビシッと緋音を指差した。
「う。た、確かに初めてです……ひな、私ほんとにいいんでしょうか」
「緋音ちゃん。自信持ってください。研究してきたんでしょう?」
「はい。ルールブックを熟読して、テレビで試合見たりとか、たくさん勉強してきました!」
 円は鼻で笑った。
「研究ならボクだって……ばっちりテニス漫画を読んできたよ。お円婦人と呼んでほしいね」
 この後、ひなと円はルールを決める話し合いをするのだが、この調子でちょいちょい関係ない見栄の張り合いやらなんやらが入るので、歩は退屈していた。
(緋音ちゃーん♪)
 手を振ってみた。
(あ。こんにちは~。よろしくです~♪)
 緋音も手を振り返して、2人はにっこり。少し緊張感に欠けるようだが……
 本番となれば話は別。勝負は勝負なのだ。
 コートに整列して、互いに礼。
 緋音も歩も顔つきが変わった。
 なお、審判台には円のパートナーオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が座る。
「ルールは簡単。コートを破壊しなければ、なにをしてもオーケーよぉ。審判はオリヴィアと……ナリュキちゃん。2人いるから安心してプレイに専念してねぇ。さあ、ナリュキちゃん。お膝の上にいらっしゃいなぁ~。プレイに専念しましょう~」
「では、遠慮なくお邪魔するかにゃ……」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は1人用の審判台にのぼって、オリヴィアの膝の上に行儀よく座った。
「まあかわいい~」
「そうかにゃ? まあ、落ち着くがのう……」
 いつまで行儀よくいられるか、心配だ。
「はい。それじゃあ第71回桐生対決、はじめよぉ~♪」
「はじめにゃ~♪」
 ごろりーん。くねくね。
 ナリュキは早くもくねくねして、オリヴィアにからまっている。
 チラリともコートを見ようとしなかった。
 まずは蒼学ペアのサーブから始まる。
 ひなは考えた。
(最初が肝心です。円を精神的に追いつめてしまいましょう)
 そして……
 バシーッ!
 サーブを打った。
 円がそれを返そうとしたそのとき!
「うわあああっ!」
 それはテニスボールではなく、ピーマンだった。
「わわわ。円ちゃん! だいじょうぶー? 食べなくていいからね、こわくないんだよー」
 慌てて歩がフォローに走った。
「はあ、はあ、はあ……くっそう……」
「あら。どうしたのですか? だから先程ピーマンがーと言っておきましたのにー」
 ひなが仁王立ちして挑発していた。
「ひな! いいんですか、あんな……!」
 まだ桐生対決に慣れてない緋音はおどおどして心配そうだ。
「いいんです。このくらいでへこたれる相手じゃあないんですよ。気を引き締めていきましょう」
 審判のナリュキは……見てなかった。
 オリヴィアはなんとか見ていたようで、ポイントを告げた。
「はぁい。フィフティーンラブよぉ~」
 ピーマンが認められていた。
 試合はまだまだ続くが、審判が審判らしいことをしたのは、これが最後だった。
「ナリュキちゃんってほんとかわいいのねぇ~」
 抱きしめて、ほっぺにキスをしようと唇を近づける――
「んんー……んっ!?」
 ナリュキは顔をズラして唇に唇で応えた。
「なっ。……ナリュキちゃん? ……ちょっ……」
 300歳のオリヴィアは大人っぽく性知識も豊富だったが、いかんせん経験が浅かった。どのくらい浅いかはあえて公表しないが、百戦錬磨エロ蟻地獄のつかさと対等に渡り合うナリュキにテクニックで敵うわけがなかった。ナリュキの手は休むことなくオリヴィアの身体を這っていた。
「ちょっと……えっ……」
「おりぷー、とーってもかわいいのじゃ~♪」
「ああ~っ……」
 審判台はガタガタガタガタ揺れていた。
 ベンチで真面目な話をしていた神崎優と零と聖夜は、顔を見合わせた。
「は、花見、行こうか? 花見!」
「そ、そうだね。桜はきれいだものね」
「さっき誘われたの忘れてたぜー」
 大慌てでコートを後にした。
 しかし、コート上の4人は真剣そのもの、絡み合う審判など視界に入ってなかった。
「いきますよっ! とおおおっ!」
 なにげに体育会系のひなは、正攻法でも力強いサーブを打った。
「舐めるんじゃなーいっ!」
 お円婦人がサーブを打ち返した。
「緋音ちゃん! ボレーだっ!」
「お、オーケー!」
 前衛の緋音がボールにくらいつく。
 歩はそのタイミングでコートに氷術をかけて滑らそうとするが、魔法発動が遅い! 間に合わない!
 が、緋音は……
「きゃあああ」
 ずっこけ。
 ボールは無情にもひっくり返った緋音のお尻に当たって、落ちた。
「緋音ちゃん。大丈夫ですかー!?」
 ひなが慌てて駆け寄ると、そこで歩の氷術が今さら発動。
 つるつるーん。
「ぎょえええ」
 ずっこけ。
 つーーーーー。バサバサ。
 ひなはネットに絡まってしまった。
「ひ、卑怯ですよー」
「えへへ。ごめんね、ひなちゃん。失敗しちゃった」
 緋音は、一度転んで開き直ったのか、顔つきが変わっていた。
「ぜったい負けませんからねっ!」
 バシーッ!
 ひなの強烈サーブは健在だ。
「その程度、もう慣れたんだよ!」
 円がレシーブする――
 そのとき!
 ピカピカッ!!!
「ま、まぶしっ……」
 スカッ。
 円は目に光が入って、空振りしてしまった。
「円ちゃん。大丈夫?」
「うう……」
 蒼学コンビはハイタッチ。パシンパシン。
「緋音ちゃん。今、光術つかったね!」
 歩が自分の氷術を棚に上げて指摘した。
「あら。それがどうかしましたか? 先に魔法を使ってきたのはそっちですよ。ふふんっ」
 物静かで真面目な緋音も、すっかり桐生対決の空気に毒されていた。
 次は、円のサーブだ。
 本当はどっちのサーブからかわからなかったのだが、審判がアレだからなんとなく百合園ペアからということになったのだ。
「とれるかな……ふふっ」
 円は不敵な笑みを浮かべて……サーブ!
 ボールはへろへろで、誰でも余裕でとれそうだ。
「はーっはっは。同じ桐生として情けないですね。この程度のサーブしか打てないなんて、やはり私の方がはるかに桐生ですね。……くらえ、スーパーレシーブ! ふんっ」
 が、ひなは思い切り空振りした。
「な、なにーっ!?」
「あら。こんなへろへろのサーブも返せないなんて……やっぱりボクの方がより桐生だね!」
 実は、奈落の鉄鎖でボールを不自然に動かしていたのだ。
 そして、百合園ペアは顔を見合わせて大きく頷いた。
 次のサーブで勝負を決めるべく、2人の必殺技を繰り出すつもりだ。
「いくよっ。必殺ダブル光学迷彩!!」
 円と歩が……コートから消えた。
「な、なにーーーっ!!!」
 そして、何もないところからいきなりサーブが飛んできた。
 こ、これはとれない。とれっこない!
 しかし、蒼学ペアも負けてはいない。
「緋音ちゃん。いきますよっ。えいいっ!」
 遠当てでボールの軌道を変え、緋音の目の前に!
 緋音はそれをボレーでレシーブ。
 へろへろボールだが、とにかっく返した!
 が、相手がどこにいるかわからないので、いつ打ってくるかわからない。
「こ、これは恐ろしい技ですね……」
 緋音は恐怖で震え、ラケットを握る手からは嫌な汗が垂れていた。
 が、この技には致命的な欠陥があった――
 ゴチン!
「いったあああい!」
 円は歩が、歩は円が見えないのだった。
 頭をぶつけた2人の間を、ボールがコロコロと転がっていった。
「あいたたた……」
「大丈夫? 円ちゃん……」
「なんとかね……えーっとボールはどこいったかな」
「あれえ? 見当たらないね」
 なんと1コしかないテニスボールがなくなってしまった。
「しんぱーん! ボールは……」
 気がつけば、審判は3人になっていた。
 通りすがりの秋葉つかさが混ざっていたのだ。
「ど、どういうことなのぉ~?」
 オリヴィアはエロ蟻地獄に呑まれて、審判どころか過呼吸で痙攣を起こしていた。
「つかさ。今夜は3人で楽しむにゃ」
「お相手が見つかって嬉しいです」
 審判がこんな状態なので、勝負は話し合いで決めることになった。
「ボールは百合園ペアが頭をぶつけてる間になくなったんだから、私たち蒼学最強ペアの勝ちですねー」
「でも、最後にボール触ったのは、蒼学ペアだよねっ!」
「そもそもこっちの方が点取ってましたよ」
「ボクたちが勝ってたのー。えいっ」
 円がひなのおさげを引っ張って、場外乱闘がはじまった。
 と、そこに忘れ物をとりにきた神崎優がやってきた。
「わわ。ますますとんでもないことになってる……待ったー! みんな待ったー!」
 4人は髪やら服やらを掴んだまま、止まった。
「えっと……一言いいかな」
「……」
「あなたたち……引き分け。ていうか、全員負け!」
 がーん。
 4人は、ショックで言葉を失った。
 負けたときの罰ゲームを全員でやることになってしまったからだ。
 優の言葉を真に受ける必要はなさそうな気がするが、こういうところは妙に素直だった。
 そして、それぞれが用意した罰ゲームカードを並べた。
 どこで、どんな格好で、どんなことをするのか、それが記されたカードだ。
「そういうことなら……公平に俺がめくるよ」
 もはや審判はオリヴィアでもナリュキでもなく、優になっていた。
 バッ。バッ。バッ。
 そして、3人はめくられたカードに絶句した……。
「じゃ。後でね」
 優はにこっと笑って去っていった。
「やだやだやだやだやだーーーー!」
 みんなの声が響いていた。