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そんないちにち。

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最終章 一緒にお花見しませんか。


 空が赤く染まりはじめて、桜の下には大勢の人が集まっていた。
 主催者の椿薫は予期せぬ大人数に当惑しながらも、望とともにコップを配ったりして……
 パンパン!
 手を叩いた。
「さあさあ。みなさん、飲み物は手に持ったでござるか?」
 シートに座っているみんなは、1人立っている薫に向かって「持った」とか「早くしろ」とか、やいのやいのとうるさい。
「えー。では……乾杯の前に、覚えたての句をひとつ」
 一瞬頭の中が空っぽになって、句を忘れた。
 そのとき、春の強風がぴゅうと舞って桜の花びらが空に踊った。

『桜花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける』

 みんな、それぞれいろんな想いを持って、薫の言葉を聞いていた。
「では、去りゆく今年の桜に……乾杯!!!」

「かんぱーーーーーーいっ!!!」

 校門前で重い話をしていた雲雀やエルザルド、朱里とアインも参加していた。
 4人で、音の鳴らない紙コップをぶつけた。
「あー! あなたは!」
 ルカルカがエルザルドを見て叫んだ。
「ルカルカにぶつかっんぐぐぐぐ」
「失礼。続けてくれ」
 彼らの事情を伝え聞いているダリルが、ルカルカの口を塞いで引きずった。
 ここで「ぶつかってきて事故が起きた」なんてことを言ったら、全てが台無しになるからだ。
「ルカ。そんなことより問題はこれだ」
「うわっ」
 目の前にはたい焼きパンがいっぱいだ。
「うわっじゃない。買ったのは誰だ」
「……うわっ。ルカだ」
 たい焼きパンは、みんなのつまみに提供された。
「皆様。ルカルカ様からパンをいただきましたので、そちらも召し上がってくださーい!」
 望が声を張り上げて、華町と一緒に、足りない人に箸を配った。
 人を集めまくった和希は、その疲れを吹き飛ばす勢いで食べまくった。まさに食欲魔人。
 しかし、食欲では霧雨透乃も負けてはいない。
「和希ちゃん。よく食べるんだねー」
「おまえもな……」
 ガツガツガツガツガツ……
 2人の壮絶な大食い合戦がはじまった。
 食べ放題でもなんでもないので、とんだ迷惑である。
「なぎさん。タコさんウィンナー食べますー!」
 ウィンナーを目指してシートの中をなぎさんがトタトタトタ……。
「ああ、ちょっと待てって。なぎさーん。ああ、みなさん、どうもすみませんねぇ」
「タコさんー!」
 どべえええ。
「わあ。やったぁ」
「口に何か入りましたー。あぐあぐ。唐揚げですー」
「そりゃあよかったぁ。あ、ほんとすみませんねぇ」
 望と華町は料理の減り具合を見て、戦々恐々。
「あんなに作ったのに、あっという間でござるな」
「そうね。あ、樹月様に漆髪様……ようこそいらっしゃい」
「こんにちは。これ、作りすぎたんで使ってください」
 2人は弁当を持ってきていた。
「樹月様……グッジョブですわ!!」
「おっ。メシ来たかっ!」
「わーい、来た来たーっ」
 ガツガツガツガツガツ……
 あっという間に大食い合戦に飲み込まれてしまった。
 ぽかんと見ていた月夜の肩を、和希がポンポンと叩いた。
「うまかったぜー。ごっそさん!」
「ほんと? やったー♪」
 月夜は褒められてにこにこ。
 刀真はそれを見て微笑んでいた。
(何食べても美味い美味いの人だけど、まあいっか)
 そして、リアカーに乗せてガラガラガラガラ……
 家庭科室で大量に料理を作っていたトライブとジョウがやってきた。
「おおお! みんな盛り上がってるねー! 薫! 望! 持ってきたぜー!」
「ものすごい量でござるな」
「でも、この人数ですから、これくらい必要かもしれませんね。お華ちゃん。さっそく配りましょう」
 望と華町は休む暇もなく、せっせと配った。
 桜花賞軍団は勝負を振り返って盛り上がっている。
「窓から飛び降りるなんて、あれ反則スレスレだよなー」
「ニタマゴアイシテルの『あ、先生!』にはやられましたよ。さすがは百戦錬磨」
「俺、まだ焼きそばパン食べたことないけどねッ!」
「ラーメンどんだけ好っきゃねん!」
 バチコーン!
 雪華がむりやりツッコミを入れていた。
「いたたーっ」
 すっかりいいコンビになっていた。
 グランは鞄の中を見て、にんにくと卵黄の錠剤を出して首を傾げていた。
「財布がない……」
「ああ!」
 オウガがポケットからそろりと出したのは……預かっていたグランの財布だった。
「す、すみません……」
「姉ヶ崎殿。財布が見つかったので、お昼の分を――」
「あら。そんなの結構ですわ。あれはおごらせていただいたのですから」
「え……ゆ、雪さん?」
 ひーん。
 鹿次郎は、ただただ涙涙。
 そこに、トライブがやってくる。
「よお! 鹿次郎先輩! なんか一発芸やってよ〜」
 一発芸という言葉にみんなが反応して、やらざるを得なくなった。
「で、では……憧れの先輩の真似をひとつ」
 鹿次郎はババッとズボンを脱いで……
「光るちんちん!!!」
 瞬間、雪にぶん殴られていた。
「光条兵器の使用を禁止します!」
 コトノハは拾った本が気になってチラチラ読んでいて、比賀一がぶったまげる。
「あー! それ俺が借りてる本だぜ! なくしてたんだ」
「そうでしたか。あの……貸してもらえませんか」
「じゃあ、返しといて。あと……あんまり面白くねえよ? 俺の光条兵器とか、なんか意味わかんねえしな」
 宴はどんどん盛り上がって、酒を呑む人は酔っ払い、呑まない人も雰囲気に酔っていった。
「おーい! トライブさん! こっち来いよー!」
「あ、部長! 聞いたぜー。彼女が来てたって……え。この人? あ、どうも……なんだよ、かわいいじゃねえかよっ!」
 ガツン。
 しっっっかりと肘鉄。
「お、おいっ! あれ寛太さんじゃないか?」
「うおっ! 寛太ぁあああ! 大丈夫かーっ!!!」
 寛太はパンダ隊にオシオキされて満身創痍の状態だった。
「寛太さん。オツトメご苦労だったな」
「ぶ、部長……ふっふふ……その卵焼き……おいちい?」
「はっ! ま、まさか……!」
「ふっふっふ……」
「……」
 次々と部員が集まってきて、部長は固まっていた。
「なんだなんだ? 寛太教えろよーっ。え? おいちい?」
「寛太殿。ご苦労でござる。ぎゃっ。なんと。おいちい……!」
「よお、寛太。入部おめでとう。このメシうめえなあ。あ? うめえじゃなくて、おいちい?」
「鳥羽様。ご苦労様でした。こっちの料理は私とお華ちゃんで作ったんですよ。おいちいですよ」
 アルダトと魅世瑠はこそこそ喋って……大笑いしていた。
 それを見て、部長はついに自我が崩壊してしまった。
「おい、総司!」
「は? ボク、田中です。田中五郎ですけど!」
 のぞき部の輪から逃げるように、去っていった。
「田中五郎? ……では、これを」
 郁乃が殺人兵器のべっこう飴を差し出した。
「あ、ありがとう……」
 このあと、田中がどこで何をしているのか知る者はない……。
「そういえば、椿殿は転校なさるんですよ」
 望がみんなに言った。
「ねえ。椿殿。どこに転校するんでしたっけ?」
「ちょうどみなさんに報告しておこうと思ったでござる。転校先は、もちろん……」
「パラ実なんだってな!」
「え? い、いや……」
 和希は薫の肩をガシッと抱いて、立ち上がらせるとみんなに言った。
「おーい。みんな聞いてくれ。椿薫がこの春からめでたくパラ実に転校することになった! あ、魅世瑠! 仲良くしてやってくれよっ!」
「ああ。それは構わねえけど、こんな立派なところからわざわざ校舎もないパラ実に来るなんて変わってんなあ?」
「あ、いや、拙者は――」
「じゃあみんな! 本日の主催者椿薫のパラ実的前途を祈って、もう一度乾杯といこうぜー!」
「え、あ、あ、拙者が転校するのはでござるな、あし――」
「ああああ! あれはなんだあああ!!!!」
 謎の少女4人組がやってきた。
 ひな、緋音、歩、円の桐生対決軍団の罰ゲームで、場所はここグランドだったようだ。
 そして格好は……ひどい。
 全員、魔法少女の格好をしていて、しかも何故かフンドシを締めていた。
「ま……ま……魔法少女☆ひなひなー!」
 くるくる回っている。
「恥ずかしいですー。なんでフンドシなんですかー!」
 魔法少女ではなく、魔法フンドシ少女である。
 次は緋音だ。
「ままままま……魔法少女☆あかねーな!」
 くるくる回って……ずってん。
 目が回って転んでしまった。
「いくよっ♪」
 歩は乗り気だ。
「まほーーーしょうじょ☆あゆむん!!」
 パパパッといろんなポーズをとっていた。
「……やだ。やだやだやだ」
 最後の魔法少女は、ブスッとすねて背を向けていた。
 仕方なく、ひなひなが声をあげる。
「薫さん! パラ実転校がんばってねー!」
 彼女たちの本当の罰ゲームは、この格好で誰かをひたすら応援することなのだ。
「がんばれがんばれカオル! がんばれがんばれパラ実!」
「ひいい……やめてくだされ〜」
 3人がちゃんと魔法少女をやってるのに、1人だけやらないのはよろしくない。
 そこで、オリヴィアがやってきた。
「円ぁ〜。やりなさいよぉ〜。自分で決めたことでしょう〜」
 オリヴィアとみんなの冷たい視線を感じて、覚悟を決めた。
「やればいいんだろ。ふん。……魔法少女☆まどまどー!!!」
 まどまどはステッキをぶんぶん振り回した。
 すると、なかなか散らなかったこの桜に小さな奇跡が起きた。
 びゅうううううううううう〜〜〜〜〜〜〜。
 風が強く吹いて、桜の花びらが一気に空に舞った。
 ようやく本当の春を迎えた桜は、桃色の波となり、空の海にとけていった。

 もしかしたら、桜は本当にみんなのお花見を待っていたのかもしれない……。



  【おわり】

担当マスターより

▼担当マスター

菜畑りえ

▼マスターコメント

と、そんないちにちでした。

みなさんのアクションがからまって、素敵な一日になったと思います。
ありがとうございました。

個別コメントで、ボツ理由(時には言い訳)、お節介な助言などをしています。
参考にしていただければ幸いです。

今後の予告や執筆方針など、ここで書けなかったことをブログ「んぱんぱにっき」で発信しています。
よかったらのぞいてみてください。

それでは、また別の物語でお会いしましょう。