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リアクション
その頃、イナテミスでは。
(氷雪の洞穴か……思えば最初に訪れた時は、罠を潜り抜けつつだったな。その後はリンネに囮役を頼もうとして失敗、洞穴の奥地へ向かう際もどうでもいいような話をしていただけ……大したことをしていないように思うが、まあいい。おそらく中の様子も変化が見られるのであろうな)
部屋の一室に腰をつけて、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が筆を走らせる。
『『闇龍』の影響を受けて発生する異変。誰もが不安を覚える状況下で、そんな人知を超えた存在を相手にしようとしているのだ。一面氷の壁に覆われそこら中から冷気が吹き出すその場所では、発狂する者が現れたところで何もおかしくはない。だがこの戦いに参加した生徒は誰も、発狂するような者はいなかった。何故ならば――』
「――全員、既に発狂していたようなものだからである。……先読みしやすい文章書いたって、誰も読まないわよ……?」
「うるさいぞ色ボケ魔道書。それで、どうだった?」
部屋に戻ってきたヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)を軽くあしらって、エリオットが街の状況を尋ねる。
「住民が疑心暗鬼に陥っていたのは、キィを助けたホルンが元地球人で、この街の元からの住民じゃなかったことも影響しているみたいね。それについては生徒たちが住民に話をして、少しずつだけど緩和されてってるみたい。他にも炊き出しとか、門の修理とか、色々やってるわよ。皆働き者ね」
ヴァレリアが、住人が書いたと思しき意見書を数枚かエリオットに見せながら呟く。
「そう思うならお前も働け。報告が終わったら次の調査だ」
「物使いが荒いわね……まあいいわ、もう少ししたら行ってあげる」
意見書を渡し終え、一足先にベッドに寝転んでひらひらと手を振るヴァレリアにエリオットが溜息をついたその時、扉を開けてミサカ・ウェインレイド(みさか・うぇいんれいど)が飛び込んでくる。
「た、大変ですエリオットさんっ」
「どうした、まずは落ち着け、そして冷静に報告するんだ」
エリオットに言われて、ミサカが深呼吸を三回繰り返し、三回目でむせる。ようやく落ち着いたところで、少し青ざめた表情をして、ミサカが聞いたことをエリオットに告げる。
「何……? 『龍』が現れた、だと?」
「はいはい、ちょっと待ってね! ……ふぅ、作りがいがあるのはいいけど、流石に人が多すぎて追いつかないや」
カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)の振るう中華鍋は、休む間もなくチャーハンや焼きそばを生み出していく。シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)も応援に回っているが、それ以上に人の数が多くなっていた。
イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)の先導によって、街を煌々と照らす灯台が完成した。
街の住人たちはその灯りと、何やら漂ってくる美味しそうな匂いに惹かれて集まって来たのだ。
「『冬の寒さは、人の温かさを知るための神様の贈り物』……これは、雪だるま王国のプリンス、スノーマンの言葉です。人は雪に触れ、雪だるまを作ることで、本当の温かさが何なのかを知ることが出来るのです」
「う〜ん、そうなのかなぁ? ゆきだるまはかわいいけど、つくるのとってもつめたいよぉ」
鬼崎 朔(きざき・さく)の言葉に、子供たちは一様に首を傾げる。朔は自らが所属する『雪だるま王国』への勧誘を目的として――もちろん表には出さなかったが――、今日この場に集まってきた子供たちに、朔が推奨する『スノーマニズム』を説き、雪だるまに興味を持ってもらうことでゆくゆくは雪だるま王国の住人に……と考えていたようである。
「みんなで作れば冷たいのは忘れてしまいます。ぜひみんなで一緒に作りましょう!」
「わ〜い! ……あっ、でもボク、お腹空いちゃった」
「ボクも!」
「わたしも〜」
皆が口々に、お腹の空腹を訴える。流石に雪だるまでは、お腹は満たせないどころか冷たさでお腹を壊してしまう。
「やはり美味しい食事には、流石の雪だるまも適いませんね……っと、こんなことを言っては女王様に失礼でしょうか。申し訳ありません女王様、まずは腹ごなしに食事と行きたいと思います」
朔が、今はこの場にいない『女王様』に一礼して、美味しそうな匂いの漂うその場所へと向かっていく。
「大分活気が出てきたね〜。これでちょっとは、キメラのこと怖くないって思ってくれたかなぁ?」
「ワタシたちみんなで頑張りましたからね! きっとキメラのことを見ても、スマイル! してくれるはずです!」
「ルイのようなスマイルは結構だけど……うん、笑ってくれるなら、ボクも嬉しいぞ」
賑やかな様子を見守りながら、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)とルイ・フリード(るい・ふりーど)、リア・リム(りあ・りむ)が自ら使役するキメラ、メッツェ、アルフ、プックルと共に笑顔を見せる。
そう、このまま何事もなく進んでくれたなら、本当に良かったのかもしれない――。
突然、灯台に灯されていた灯りがふっ、と消える。
「な、何事だっ!」
慌てふためく住人の中、イレブンが住人をなだめながら、自らも混乱した思考の中で原因を模索する。その答えは、偵察に出ていたデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)によってもたらされる。
イナテミスに隣接する森が、押し寄せる何かによって少しずつ、氷漬けにされていると――。
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