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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

リアクション



調査 真相

 ヒラニプラ領の外れに、古代遺跡が現れていた。
 まだ蘇ったばかりの遺跡の奥で、一人の少女が魔法の装置らしい複雑な仕組みの機械をいじっている。
 それは動画の少女とは似ても似つかない。聖火リレースタッフのメアリだ。
 彼女の背後の地面が泡立った。そこから怪人プロメテウスが浮き上がるように現れる。
 怪人は振り返ったメアリに、いや、彼女の腕を飾るブレスレットに向けて言う。
「ようやく動きを見せたか。随分と待たされたぞ」
「……」
「言っておくが、我々の下についた方が身のためだぞ?
 貴様らは我らの後押しがあったからこそ、シャンバラを打倒できたのだ。
 我々が今でも人心を操り、操作できる事は、この火消しゲームで分かっただろう?」
 メアリはようやく口を開いた。妙に平板な調子で彼女は言う。
「難しい事はよくわからなーい」
 怪人の声音に、若干の困惑がまじる。
「む? ……外見を変えただけかと思ったが、この前の女とは違うのか? ともかく、お前には言っていない」
「えー」
 そのとたん、遺跡全体に急激に魔力が戻った。
「なに?!」
 怪人は驚くが、すぐに……足踏みした。
「な?! 土潜術が使えぬと?!」
 どうやら地面を泡立たせて消えようとしたようだが、魔力を帯びた遺跡の床に阻まれたようだ。
 そこにシャンバラ教導団の一団が突入してくる。
「動くな! 武器を捨て、手を頭にやれ!」
 怪人は呪文を唱え、放つような動作を見せるが、やはり発動しない。
 とびかかる教導団兵士を、怪人は体術でかわすが、兵士の数は多い。
「クッ……皇帝陛下万ざ……!」

 バシュウゥゥ!

 銃声と共に、怪人プロメテウスの体が氷に包まれる。
「しまった?」
 兵士が焦った声を出すが。
「安心なさい。銃弾の効果で、生きたまま凍らせただけよ。魔法が解けるまで一昼夜あるわ」
 銃を構えたメアリが、魔法機械の陰から現れた。
 もう一人、怪人と対面していたメアリは、目の前の騒ぎにもかかわらずニコニコ笑って、その場に立っている。
 兵士を指揮していたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が「早く怪人を連行するんだ」と命じる。
 唖然としていた兵士も自分を取り戻し、凍ったままの怪人をきびきびと運び出していく。
「うまく奴を誘い出したな」
 クレアがメアリに言う。メアリは自身のブレスレットを、彼女に向けて見せる。
「ボスとの通信機がひとつしか無い、なんて思い込む方が馬鹿なのよ。
 エリュシオン帝国の工作員とはいえ、使えない方かもしれないわね」
 クレアは肩をすくめる。
「それでも重要な情報源を得られたのだ。できれば、この後も話を聞きたいのだが?」
「遠慮しておくわ。
 別に教導団に味方したい訳じゃなく、人の心の弱味につけこむエリュシオンのやり方が嫌いなだけだから」
 メアリの声に、帝国への嫌悪感が混じったことにクレアは気付く。
「それがネフェルティティ派の見解か?」
「……個人的な感傷よ」
 メアリは、もう一人のただにこにこ笑っているメアリに、つかつか歩み寄った。
 そうしてクレアを振り返る。
「ボスから、おたくのスズキな黒犬さんに伝言。『用があるなら、来い』って。
 じゃあ、協力してくれて、ありがと」
 二人のメアリの姿が、水面に映った影が風で揺れるように揺らぐ。
「こちらも協力、感謝する」
 クレアは彼女に敬礼した。
 クールな方のメアリは、かすかに笑って古王国の騎士流の礼を返した。にこにこしたメアリは「ばいばーい」とお気楽に手を振る。
 二人のメアリの姿が消え、遺跡は急速に魔力を消していく。
 クレアは(次に会った時に、協力するかは分からないが)と付け加える。

 遺跡の外に出ると、すでに夕刻を迎えた空が茜色に染まっていた。
 草地に数台の教導団の車両が止まっている。兵士たちがその一台に、怪人を積み終え、基地に帰る準備をしていた。
 クレアはその中に上官の姿を認め、近づいた。
「メアリ嬢のボスより『用があるなら、来い』との伝言がありました」
 第一師団憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)はいかめしい顔で、フンと鼻を鳴らす。
「……用無しだ、と伝えておけ」
「機会があれば、伝えておきましょう。
 シャンバラろくりんピック委員会には、警察が動かないのは軍が秘密裏に動いていたからだ、と報告すればよろしいか?」
 クレアのしれっとした当てこすりに、玄豺はまた鼻を鳴らした。
「好きにしろ。
 我々が帝国の工作員を捕らえた事は、西シャンバラにとっても東シャンバラにとっても幸運な事だ。
 いかに軍が捜査をしていようと、少尉の機転が無ければ工作員確保には至らなかった、と上に報告しておこう」
 玄豺は言い捨て、車両へと戻っていく。
 後日、クレアはこの件の功績が認められ、中尉に昇進した。



 怪人プロメテウスを取り調べた教導団が、事件についてシャンバラろくりんピック委員会に報告する。

 怪人は、エリュシオン帝国の工作員で、シャンバラ国内に残存する鏖殺寺院幹部に圧力をかけて、手を組ませるよう仕向ける為に活動していたようだ。
 彼は人造人間で、人らしい名前はなく、認識番号があるだけである。
 「プロメテウス」という偽名を名乗ったのは、聞きかじった地球の神話から、帝国の名前によく似た響きの物を選んだらしい。
 また本人の言葉によれば、以下のような理由があるらしい。
「シャンバラ王国の人間は、神々の帝国から英知の結晶を掠め取った盗人である。帝国による援助への礼を知らぬ忘恩の輩から、英知を奪い返すのだから、プロメテウスとは良い名であろう?」
 なお彼が言うのは、五千年以上前の事なので、真実は計りようもない。
 怪人は人の心を操作する術を見につけており、その力で人々に事実と異なる事を信じ込ませて操ったようだ。