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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第I部 陸・空路

 
 第四師団はこれまで、主にヒラニプラ領内での賊や魔物退治の任に携わってきた。もともとは南部地域を担当する小規模な討伐隊であり、それが昨年の遭遇戦に端を発しオークの本拠を撃滅させることになった戦いで、教導団四つのめの師団として認められることとなったのであった。最初は実質的には半旅団程度の兵数しかなかったが、土地の勢力や傭兵・ならず者・獣人の類等も吸収しつつ大きくなってきた。
 戦力の中心は、もちろん、教導団のなかでも将来を担う人材とされる契約者たちであり、第四師団の戦績も彼らの活躍によるところが大きい。第四師団はこれまで、兵力をあまり投入できない辺境戦において、彼ら契約者たちの個々の力を有効に発揮した戦い方で勝利を収め地域を平定してきた。その少数精鋭の戦いぶりが評価され、今回のコンロン出兵への抜擢となったのである。
 
 正式に第四師団長となった騎凛 セイカ(きりん・せいか)。出兵の一週程前……
 ヒラニプラ南部の平定を終え、これまで師団の拠点であった南西分校を引き払ってきた。今、騎凛セイカの部屋は本校の離れの一塔頂にある。しかし今度の出兵に出れば、当面ここに戻ってくることはないだろうから、仮の部屋にすぎないとも言える。
「今年は、皆を率いての遠征になる……」
 騎凛は、机の上に置かれている羊の頭蓋骨をぽんぽんと撫でて呟いた。「未踏の地。コンロンへ……」
「騎凛ちゃん。……」
 騎凛は南部平定において、パートナーのアンテロウムを失っていた。それ以降、普段は明るく装っているのだが、部屋では沈むことが多かった。南部で再開した討伐隊時代の盟友、ニケ・ハルモニア(にけ・はるもにあ)(南部ハルモニア領主の娘)が新しくパートナーとして騎凛の傍にいたが、それ以外何もしてやれることのなさに、いつも自信は持てないままだった。
 トントン。
「どうぞ。あ、久多様ですね。お入りください。私はでは、ちょっと外の方に行ってきますね」
「え? あ、ああ……」
 久多 隆光(くた・たかみつ)。騎凛に思いを寄せ彼女を守ろうと努めてきた久多。正式に教導団に転学し、今回の出兵でも騎凛の護衛を強く願い出て、騎凛旗本衆を束ねる身分となった。
「えーと、……」
 久多は相変わらずな感じでもあったが、今回は積極的に知識や経験を得て、それに強くなって、支えていけるようなればと思っている。
「セイカ」
 二人きりか。……真面目に進言に来たんだけど、もしかして、今のセイカに必要なものは、……。「あのさ、……」
「月が、出ていますね。また、三日月」
「ああ、……」
 見ると、騎凛部屋の窓の下に控える、メイド姿の騎士の姿があった。久多、「……」
 ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)。こちらも騎凛を護衛する、メイドナイツの長である。「必要なときはいつでもお傍に駆けつけます。月のご加護がありますように」
「えっと、だな。セイカ。
 キマクやヴァイシャリー、イルミンスールには、事前に何かしらこちらが通るということを伝えておいた方がいいだろうな、と思い立って」
「おっしゃる通りです。大丈夫。すでに使者が……」
「……そぉか。だよな」
「……」「……」
 ユウが、す、っと立ち上がる。
「では、騎凛教官。また必要なときにはお呼びください」
 久多の肩をぽむと叩いて退出していった。
「……なんなんだ」ともあれ、二人っきりになったな。「セイカ、」
「フンガァァァッ!!!!」「天神将来!淫魔退散!」
 アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)天津 麻衣(あまつ・まい)が入ってきた。今回、騎凛旗本衆となる二人である。
「オオ、久多殿か。何してる? よろしくな」
「騎凛教官。それで、パンツの件なのですが。
 あれ? 久多殿、どうかされましたか」
「お二人。気になさらず。では久多さん、ちょっと秘密のお話があるので、席を外してくださいね」
「……はい」
 

 
 その後、騎凛の部屋には、今回の出兵が初の従軍となる、新兵の契約者らが順々に呼ばれ訪れていた。彼らの出自や活躍については、このシリーズで後々、語られていくことになろうが。
 今は、教導団に似合わない和の服装の男が部屋を出てきた。日本からまだ来たばかりの者だろうか。
 入れかわりに、まだどこか幼いきれいな顔立ちのこちらは軍服の青年がやって来る。二人は知り合いのようで、軽く挨拶を交わしすれちがっていった。
 トントン。「失礼します。トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)です」「どーぞ!」
 ……
「なるほど、そうでしたか。ではすでに各勢力には使者が。
 すみません。新兵の身分で」
「いえ。でもえらいですね、初参加の契約者の皆さんとちょっと顔を合わせておこうくらいに思ってるだけなんですけど、皆さん色々とお考えを述べてくださって。
 そういうのって大事ですもの。とても心強いです」
「では、さっきの鉄心さんも」
「ええ。色々と。
 えーと。トマスさんは、龍雷連隊所属、と……」
 若い新兵は敬礼し退出していった。
「お次は……? と。今度の出兵、楽しみですね」
 トントン。「どーぞお入りください」