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リアクション
第1章 チャンドラマハルの死闘【突入編】(1)
チャンドラマハルの警備は堅牢である。
その守りは穴熊の如し。完全武装の死人戦士が鼠が入り込む隙すら逃さず、宮殿内外の警護にあたっている。
要となる門にはことさら多くの門兵があてがわれ、近付くことさえ容易とは思えない。
周辺にまで隊を進めた環菜救出隊の一行は、どう防衛線を突破するか、様子を窺っている。
「ここは私の出番じゃな……」
名乗りを上げたのは、蒼空学園の魔女セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)。
前回、箒の上から転げ落ちた所為か、衣服が泥だらけでところどころ葉っぱが付いてる。
「何か考えがあるの、おねーちゃん?」
不安そうにパートナーのミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)が尋ねる。
「この間みたいなのはやめてよぉ。ロクな目に遭わなかったじゃない」
「任せておくが良い。前回は目立ち過ぎてヘタこいたからのぅ。じゃが心配するな、ここは反省を活かして……」
「うんうん」
「正面突破するのじゃ!」
「……って、何も変わってないいぃぃー!?」
緊迫感のないやり取りである。
果たしてこいつらに任せて大丈夫なのだろうか……、救出隊に言い知れぬ不安が走った。
「何を叫んでおる、ミリィ。おねーちゃんが力押ししかできないのはわかっておるじゃろう」
「なんでちょっと偉そうなのよ。せめてちょっとは工夫しよっ!」
「まあ……、そこまでいうなら多少何かしてみるかえ」
「おや、堂々と正面からいかないのですか。珍しい」
そこに声をかけたのは今回から参戦した相棒のファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)だ。
「ま、おぬしもおるしなんとかなるじゃろ」
そう言ったセシリアだったが、今回泥をかぶることになったのは、ファルチェではなくミリィのほうだった。いや、今回も、と言ったほうが正確な気がする。何故だかメイド服を着させられ、殺気立つ死人戦士の元に向かわせられた。
「あの……、こんにちは。今日からここで働かせてもらうことになったミリィです……」
宮殿の女給に成り済まし、彼らの注意を引こうと言う荒技である。
だがしかし、彼女の獲物の幻槍モノケロスは長過ぎて後ろ手に隠すにしても、完全に丸見えの状態だった。
「ふぁーっく! すんごい武器持ってきてるぅ!」
「ううう……、だから絶対バレるって言ったのに……!」
明らかな不審者として囲まれた彼女だが、流石にそれは想定内、あくまで『注意を引く』のが重要だ。
その隙にセシリアとファルチェはこっそりと光学迷彩と隠れ身全開で接近。
誰もがミリィに気を取られている刹那、凍てつく炎でぐるりと360度を薙ぎ払ってみせた。
それなりに強い死人戦士も、突如巻き起こった火炎と吹雪には対処出来ず、四方に吹き飛ばされていった。
「く、くそ……、なんだ!? 一体どこから攻撃がきてる!?」
「どこにいる! 大人しく姿を現せ!」
正体不明の襲撃者に死人戦士の緊張が否応もなく高まる。
まんまと一杯食わされてる彼らに、セシリアは上機嫌。そして、情報攪乱で更なる混沌を運ぶ。
「あっちにいたぞ!」
「なにぃ! どこだどこだ、探せ! 東門のほうだ!」
「コケにしやがって! 見つけたらこの大刀で首を切り落としてやる!」
「いや中庭だ!」
「なにぃ! 戻れ戻れ中庭だ!」
「ど、どっちだ!?」
同じ場所を行ったり来たりする戦士、セシリアはここぞとばかりにサンダーボルトを繰り出す。
周辺を一気に焼き尽くす稲妻ならば……、そう簡単には自分の場所もわからないはず、と考えての選択だ。
更にファルチェも別方向から轟雷閃で攻撃を仕掛けてきているので、場の混乱に拍車がかかる。
「くそーっ! どこにいやがる!」
きょろきょろする彼らを尻目にセシリアは呟く。
「よしよし……、このまま一気に叩き潰すぞ、ファルチェ……!」
「やれやれ、セシリア様も無茶なことを思いつきますね……、誰かが殺気看破を使えてたらおしまいでしたよ?」
「誰も使えなかったのじゃから結果オーライじゃ!」
乱れ飛ぶ稲妻が青白く門を照らし、ますます戦場の混沌が加速していく。
「…………はっ!?」
呆然と成り行きを見守っていた救出隊だったが、はっと我を取り戻した。
これぞ突入のまたとない好機、完全に敵の統率の乱れた今なら、門を突破することも出来るはず。
「よ……、よし、みんなっ! 一気に門を打ち破れーっ!!」
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