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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第3章 チャンドラマハルの死闘【奪還編】(1)



「ぐああああああああああああーーーーー!!!!」
 突然、変貌が解除され、タクシャカは頭を抱えた。
「な、何が起こった……、わ、わらわの力が……」
 彼女も体内にスマートフォンが仕込まれている。変貌の力は、視認した相手の情報を携帯を通じてダウンロードし、肉体にフィードバックすることで行われていた。しかし通信の要たる電波塔が崩れ去った今、機能も完全に沈黙した。
 身体を引きずってタクシャカは後退、代わりに直属の死人戦士達が救出隊の前に立ちはだかる。
「ここまで来て逃がすか!」
 七枷 陣(ななかせ・じん)が叫んだ。
 前回負った傷の所為か、頬には湿布が貼られている。
「おら、おまえら。いつまでも大将の介抱しとる場合やないで!」
「で、でもぉ……」
 肋骨がイッてしまったハヌマーンの手当をしていたスーパーモンキーズは互いに顔を見合わせる。
「よし、わかった。奴らを一番多く配下兵を〆た奴においしいバナナ10本出す!」
「やりましょう」
 モンキーズはすっくと立ち上がって凶悪な武器を手に取った。
「ええか、1人に対して最低3人がかりでタコ殴りが基本やぞ! さあみんな、しっかり稼ぎな!」
 最後の台詞だけ40秒で支度したくなるような声色だったのは気のせいだろう。
「さて、俺たちもやったるで。真奈、雑魚を……って、聞いてる?」
 小尾田 真奈(おびた・まな)は不気味な表情でブツブツと呪言のようになにやら呟いてる。
「何か真奈の様子がいつもと違うような……、あの、ちょっと真奈さん……?」
「前々回は一言だけ。前回に至っては台詞すら無し……ですか。いえ……、状況的に致し方ないですよね。えぇ別段何も不満なんてありません。ある筈がありません。不満なんてある筈ないのですから、ナラカから戻ったらスーパードクター梅様をどう〆て吊し上げて差し上げようかとか。そんな事これっぽっちも思っておりませんよ……!」
 あの、ちょっと真奈さん……?
 真奈を虚ろな目で死人戦士を見やると、ハウンドドックのヘッドショットで次々に沈めていく。
 表情がまったく変わらないのが怖い。筆者的に怖い。
 眼前の一団を蹴散らし、ギリギリと錆びたブリキ人形のように首を回し、陣を見る。
「ひぃ!」
「何してるんです、早く追ってください……」
 妖怪じみてきた真奈に恐れをなしつつ、陣はサンダーブラストを天井ギリギリの高さに放つ。
「技を借りるぜ、玉藻さん!」
 形状をイメージし念を込めると、稲妻は八方に分かれ降り注いだ。
 稲妻の檻はタクシャカを取り囲む。
 見よう見真似で前回の見た技を再現したのだが、檻の維持に必要な魔力の消費は著しい。
 慣れない技のため、効率よく魔法力を展開する術を掴めていないのである。
「こ、こいつは……、思いのほかヤバイわ……」
「すぐに終わる。しばらく辛抱しろ」
 そう言ったのは、仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)
 火天魔弓ガーンデーヴァを構えると、番えた矢に魔弓の力で炎が宿る。
 更にその上から火術を使ってコーティングを施す。
「魔弓と私の焔を合わせば、雷電など使わずとも貴様を屠るのは容易い」
「しつこい奴らめ……、よかろう相手をしてやる……」
 タクシャカはこちらを見、殺気に満ちた視線で返す。
 四本の腕に氷術による白光が宿った。変貌を封じられたとは言え、元々タクシャカは名の知れた魔導師である。
「我が焔は猛り狂う……!」
 磁楠の矢が空を裂いて飛ぶ。
 迎え討つ氷術で炎は掻き消されるも、矢に秘められた第二の攻撃が発動する。
 何故、幾重にも炎で矢尻を包んだのか。
 それは矢尻に纏わせた稲妻を隠すため。付与された雷術は炎の皮膜を失い、閃光のように弾けた。
「な……っ!!」
 至近距離で弾けた稲妻はタクシャカの半身を包んで炸裂した。
 まぶしくスパークする雷鳴から顔を上げると、床に転がった黒焦げの二本の腕が目に留まる。肩の付け根から腕を失い、右半身を激しく損傷。美しい顔は火傷で無惨にただれ、右目は白濁したままどこにも焦点を合わせられない。
 タクシャカは体勢を崩し、倒れた。
「し、仕留めたか……?」
 ガクッと膝を落とす陣に磁楠は肩を貸す。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……、ちょっと魔力を使い過ぎたみたいや」


 ◇◇◇


 安堵も束の間、倒れたタクシャカから黒い影が這い出した。
 真っ赤な目が光る。鋼鉄のような鱗で覆われた身体を揺り動かし重々しく起き上がる。
 これこそがタクシャカの本来の姿、漆黒の竜人。奈落人となる前は、ドラゴニュートだったのだろう。
「おのれ……、口惜しや……。折角、手に入れた身体が台無しではないか……!」
 陣と磁楠を憤怒の形相で睨み付ける。
 その時だ。颯爽と飛び出した三つの影が、二人を護るように立ちはだかった。
「君の相手はこっちだ! 正義と自由のヒーロー、ヴァルキュリア・サクラこと飛鳥桜が君の相手だ!」
 桜をモチーフにした和服風美少女戦士衣装に身を包み、侍ガール飛鳥 桜(あすか・さくら)見参。
「……相変わらず意味わかんねえし」
「いやー、ええんとちゃうか、めっちゃ桜らしいやん!」
 苦虫を潰した顔のほうが、桜に引っぱり回される苦労人アルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)
 能天気な関西弁が、桜の親分ロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)である。
「おぬしは現世で会った……」
「そう、覚えててくれて嬉しいよ」
 雅刀を抜き払うと、真剣な眼差しを見せる。
「君たちは御神楽校長の自由を奪っている。人の自由を勝手に奪うことを僕は許さない」
「桜……?」
「それに君には飛鳥流をコピーされたね……『僕の』飛鳥流を……! だから、僕は君を本物で倒す!」
 珍しく本気モードの桜に、アルフは正直驚いている。
 決戦だってのに、ヒーローだとか言っている剣術ヒーロー馬鹿に、ポジティブすぎる能天気阿呆。
 こいつら、真面目という単語を知らねえのか……とか内心思っていた自分が恥ずかしい。
 相棒がその気なら、自分はそれを支えるまで。
「言うじゃねぇか、桜。よし一発、ぶん殴って来い。援護なら任せろ。もう慣れた、つか諦めた」
「……あんな桜、初めて見たわ。よっしゃ親分も援護したるでー! はよやろうや!」
 闘志を燃やす二人に、桜は頷く。
「今日は怒りのHEROモード! 蛇カレーにしてやるぞ! アルフは超無理だけど僕は蛇食べれるんだからな!!」
「へ、蛇ってお前……、なんでここでいらんこと思いださせる!?」
 意外な弱点を暴露されアルフは涙目。
 そして、和気あいあいと仲間コントを繰り返す彼らに、タクシャカのイライラは最高潮を迎えた。
「ええい! ぺちゃくちゃうるさい! ガネーシャじゃあるまいしカレーに出来るもんならやってみぃ!」
 出会い頭に放たれたブリザードを、桜たちは散開して回避。
 アルフは間合いを詰め、乾坤一擲の剣を爆炎波で叩き下ろす。
 地面に当たった瞬間、火術で威力を底上げし、爆発で周囲を吹き飛ばす秘技。別名八つ当たりとも言う。
 その爆炎に相乗りするかのように、ロランも後方から援護。
 火術と光術を合わせた魔弾を立て続けに放つ。炸裂と共に閃光する攻撃で、タクシャカに目くらましをかける。
「ぬうぅぅ……! こしゃくな真似を……!」
 反撃に転じようとするタクシャカだったが、その身体を無数の光線が貫いた。
 光条兵器『輝銃黒十字』を連射しながら、桜がこちらにバーストダッシュで突っ込んでくる。
「力と欲に目が眩んで自分を見失った君には丁度いいだろう! ここからが飛鳥流さ!」
「こ、小娘っ!」
 振り下ろされる鋭いかぎ爪をひらりとかわし、その鳩尾を思い切り蹴り上げる。
 そのまま高く飛翔。弓を引き絞るように雅刀をため、落下の速度を味方に轟雷閃を纏った刃でひと突き。
「怒りのHEROモードを舐めるなー! 飛鳥流剣術奥義っ! 紫桜飛燕剣っ!!」
「うぎゃああああああああ!!」
 電撃でボロボロと崩れ落ちる鱗……、憎悪と屈辱にまみれた表情でタクシャカは崩れ落ちた。
「こ、このわらわが……、こ、こんなこんな目に……、わらわはアブディールの支配者ぞ……!」
「……君さぁ、そんなに覇権を握りたいのかい。ちっさすぎるよ、それ」
 呆れた顔で桜は言う。
「君のような奴って大抵騙されてるパターンなんだよ。特撮とか映画じゃよくある話さ、うん」
 何か真面目なことを言うのかと思えば、完全にテレビの見過ぎである。
「前から思ったけど何か不憫に見えるんだよね……、もし困ったことがあったら、僕のところにおいでよ。」
「なんじゃと……」
 桜は刀を鞘に納め、背中を見せる。
 見下していた現世の人間から同情を受ける……、タクシャカにとって屈辱以外の何ものでもなかった。
「わらわはタクシャカ・ナーガラージャ! アブディールを統べる王の中の王じゃっ!」
 牙を剥き飛び掛かるタクシャカ。
 その瞬間、彼女の眉間を一本の矢が貫いた。
 衝撃をもって放たれる火矢は顔面を吹き飛ばし、バラバラになった肉片が飛び散る。
 しかし、それもすぐにナラカの闇に吸い込まれるようにして消え、あとには何も残らなかった。
「哀れな奴だ……」
 ガーンデーヴァを構えたまま、磁楠は呟いた。