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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第3章 チャンドラマハルの死闘【奪還編】(2)



 玉座の間。
 なだれ込んだ湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は扉を打ち破った。
 解析装置の防衛を任された死人戦士達は招かれざる客人に驚きながらも迎撃の構え。
 死人の山の向こうに、豪奢な椅子に括り付けられた御神楽環菜が見える。
「環菜……って、何かカウントダウンし! 時間がない!」
 ルカルカは前回筆者をゲシュタルト崩壊に追い込んだグリントフンガムンガ二刀流で敵陣突破。
 天性の俊敏さを活かし、迎撃態勢を確立される前に敵中央に斬り込む。瞬時に眼前の二名の首を刈り取ると、そのままフンガムンガを放り投げサイコキネシスで操作、乱れ舞うフンガムンガ手裏剣で後方から敵を切り刻んでいく。
「ここは私が強引にでもこじ開ける……! だから誰か早く環菜を助けてあげて……!」
 必至で敵と渡り合う彼女を横目に、凶司はなにやら複雑な面持ちで敵と渡り合っている。
 環菜を助けて恩を売ると自分に言い聞かせてここまで来たが、いざ助けるとなるとやはり想いは複雑だ。
 その時、パートナーのエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が高速の動きで、目の前の敵を薙ぎ飛ばした。
「何もたもたしてるの!」
「……エクス?」
「時間がないって言ってたじゃない! 早くカンナ様を助けてあげて、キョウジ!」
「……ふん」
 バーストダッシュで壁を蹴り上げると、三角飛びに敵の頭上を越えて、解析装置に迫る。
 環菜は頭の上にパーマ屋さんで見るような奇妙な機械をかぶされており、来ている服もボロボロの囚人服。
 よもやこんな惨めな環菜の姿を見ようとは……、凶司はたちまちテンションが上がった。
「ナラカに来て良かった。まさかこんな写真が撮れるなんて」
 そう言うと、携帯でパシャパシャ撮り始めた。
「待てよ……」
 仲間は乱戦まっただ中、こちらの動向に気を配れる状態の奴はいない。
 今なら事故に見せかけて、環菜を亡き者に出来る……。簡単なことだ、敵に撃った弾がそれたでも、敵の撃った弾がそれたとでも適当に言い訳は出来る。積年の恨みを晴らすまたとない機会……、こんな好機はまたとないだろう。
 ゴクリと息を飲む。
 ゆっくりと銃を構えるが、引き金にかかる指に力が込められない。
「……ちっ!」
 銃口を横に並んだ解析装置のほうに向ける。
「勘違いするなよ。僕はおまえが苦しむところを見たいんだ。眠ったまま死ぬなんて贅沢な死に方はさせないからな」
「待て」
 止めたのは、敵の包囲を潜り抜けてきたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だ。
 ダリルはあごをしゃくって装置を指した。
「まだ装置と彼女のリンクが切れていない、不用意に破壊するのは危険だ」
 そう言って、解析装置を籠手型HCと手持ちのノートパソコンに接続し、装置の解析を行う。
 これみよがしに表示されたカウントダウンから察するにもう何%かの情報は奪われているはず。
「逆操作で情報を元に戻せればいいのだが……」
 その瞬間、HCとパソコンがフリーズした。
「なに……?」
「……情報が膨大過ぎるみたいですね」
 表示された情報をつぶさに追いかけながら、凶司が言う。
 これでもネットでは有名なプログラマー、原理はともかく解析装置が何を行っているかぐらいはわかる。
「記憶の情報化と言いますが、ひと欠片の記憶にどれだけの情報が含まれているかわかりますか。例え、刹那の記憶と言えども、そこに映る様々の情報、傍にいた人間、空の色や気温、さまざまなものに感情は動かされたでしょうし、その機微の連続もまた、情報の一部として存在するはず。ただの映像のように保存出来るものではないのです」
「どおりで解析に割り込むと処理が追いつかないわけだな……」
 装置を前にして歯がゆく思うも、ダリルは気持ちを切り替え、装置を停止させる。
 奇妙な唸りを上げて、装置は停止。カウントダウンも止まった。
「これで大丈夫だ」
「……データの送信先はどこになっていましたか?」
 複雑な想いを胸の奥にしまい、凶司は吸い出されたデータの行き先を尋ねた。
「……シャンバラのどこかのようだな。しかし場所の特定は難しそうだ。フィルターが幾重にもかけられている」
「この送信……、途中で止まってるみたいですけど?」
「30分ほど前に霊界通信の回線が切断されてるな……、ふむ、最接続も出来ない、電波が途絶えているようだ」
「ダリル、こちらの拘束具は外しても構わないかしら?」
 ルカルカのもう一人のパートナー、ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)がふと尋ねる。
 装置は止まったものの、装置が与えた付加のため、環菜は気を失っていた。
「介抱するにも枷は外さないとね……」
 椅子に縛り付ける枷の類いをピッキングスキルで外す。
「随分と冷たい手ね。死んでるからかしら……、それとも穢れの影響なのかも……。そうだわ」
 ふと、思いついたニケは、二つあるデスプルーフリングの片方を環菜の指にはめてあげた。