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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

リアクション



【?1―2・再転】

 前回のループをどうにか抜け出した桜井静香(さくらい・しずか)だったが。今は再び校長室で物思いにふけっていた。
 なにしろ翌日になってみれば、身体が女性のそれに変化しているという珍妙な事態が発生していたのだから無理もなかったが。
(どういうことなんだろう。僕の身に降りかかっているのは、単なる時間回帰だけじゃなかったってことなのかな)
「静香さん? 静香さんってば」
「え? あ、な、なに?」
 我にかえれば自分のパートナーであるラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が、顔を覗き込んできていて、危うく椅子から転げ落ちそうになった。
「もうお昼ですわよ。仕事を切り上げて、食堂にいきません?」
「あ、そ、そう」
「どうかしたんですの? また気分でも優れないとか?」
「あ、うん。そんなとこ。仕事で疲れたのかな、ちょっと保健室で休んでくるよ」
 静香はひとまず適当に誤魔化すことにし、そそくさと校長室を後にした。
 とはいえ、体調が悪いのも事実だった。
(うぅ……どうもこの身体になってから、全身がだるいし肩はこるし、足もふらふらするし。本当に一体なにがどうなってるんだよ)

 保健室で横になってからも、胸元の膨らみが寝るときに邪魔になったりでまったく落ち着かず。どうしたものかと悩んでいる最中に、ノックの音が聞こえた。
「あ、はい。開いてますよ」
 やってきたのは三つ編みおさげが印象的な西川亜美(にしかわ・あみ)だった。
「亜美。どうかしたの?」
「どうかしたのって……静香が保健室に行ったっていうから、心配してきたんじゃない」
「あ、そっか。ごめん」
「適当にパンとか買ってきたから。お腹すいてたら食べなよ」
「ありがとう、わざわざ」
 このとき静香はまだ亜美に詳しいことを話すこともなく別れ、再びひとりになり。
 それから軽くパンを食べ、軽く眠りまた起きてを繰り返し時間を過ごしていった。
(思えば、昨日からループ騒ぎでずっと落ち着かなかったもんな……まあ、落ち着かないのは今もだけど)
 そうして日がかなり傾いた頃。またドアがノックされた。
「はーい。開いてますよ」
「失礼しまーす。静香、だいじょうぶー?」「どうも、こんにちは」
「やほー、静香」「体調悪いって聞いたけど、平気か?」
 入ってきたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。さらに高原瀬蓮(たかはら・せれん)アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)も続いてドアをくぐった。
 そして、ガチャリと鍵をしめて密かに軟禁する態勢を整えておく。
「わざわざありがとう、みんな。でも僕は大丈夫だよ」
 静香はベッドから起き上がり、心配かけないように振舞おうとしたが。いきなり起きたため足元がわずかにふらついて逆に心配させてしまっていた。
「わ! ちょっ、あぶない!」
 ぐらり、と傾いた静香の身体を支える美羽。そのとき、
 にゅむ
「ひゃっ!」「え?」
 支えようとした美羽の手が、ちょうど柔らかなところへフィットしていた。
「ど、どうしたの静香。この胸……っていうか、身体」
「え? いやべつに。な、なんのことかなあ?」
 身体をひきはがしてそっぽを向いてすっとぼける静香。
 しかし美羽は事情こそわからぬものの、完全な女性になったことだけは把握して。
(まあ、細かいことはいっか)
 今は看病を優先するに至ったようだった。
「それより、静香汗だくじゃない。暖房ききすぎてるせいだね、私が拭いてあげるよ!」
「え、ええっ!?」
「あ、瀬蓮もやるよー! 静香のために、がんばるからね!」
「いや、がんばらなくていいから。わ、ほんとにいいからあ!」
 わずかに声を荒げた静香に少し怯む美羽。
「ご、ごめんね。瀬蓮はただ、静香がしんぱいだったから……」
 さらに瀬蓮のほうはわずかに涙目になっていた。
 純情な彼女だけに本気で涙ぐんでおり、静香はさすがに慌てふためく。
「い、いや! 僕はそんなつもりじゃなくて! うん、すごく嬉しい! 今すごく身体拭いて欲しいなあ!」
「ほんとっ? わかった!」
「よし、話は決まったね! 瀬蓮ちゃん、一緒にやっちゃうわよ!」
「あ、あれ? いやでもやっぱりその」
 訂正しようとしたが、遅かった。
「女同士なんだから何も恥ずかしいことないよね! て、うわあ! さっきも思ったけど胸おっきい! Dくらいあるんじゃない!?」
「はーい、じっとしててね静香。いまふいてあげるからね♪」
 そんなこんなできゃあきゃあとはしゃぐ(静香は本気で抵抗しているようにも見えたが)彼女たちを温かく見守るベアトリーチェとアイリス。
「瀬蓮さんたちの笑顔を見ていると……何があっても守りたい、そんな気になりますね」
「そうだな。ずっとあの笑顔のままでいてほしいぜ」
「アイリスさん。これからもパートナーのために、全力を尽くしましょうね」
「ああ。誰にも指いっぽん触れさせやしないさ」

 そして。そんな賑わいから少し時間が過ぎた放課後。
 静香は目を覚ました。ふたりがかりの汗拭き攻撃のおかげで、くたびれていつの間にか眠ってしまったらしく。もう窓の外はもうすっかり暗くなっていた。
 美羽たちはどうしたのかと見れば、静香と瀬蓮は隣のベッドで仲良く並んで寝ていた。疲れたのはふたりも同様だったらしい。
 ベアトリーチェは丸椅子に座って、こっくりこっくりと舟をこいでおり。
 アイリスは壁に背をあずけて目をつむっている。寝ているかどうかはわからなかった。
(ちょっとお手洗い行こうかな)
 そう思いかけた矢先、遠くで誰かの怒声や、剣と剣が合わさるような音が響いた。
 次いでガチャガチャと入口の鍵をいじくるような音がして。一瞬でベアトリーチェとアイリスが目を開かせて、戦闘態勢に入った。
「いったい……何が……?」
静香はどうすればいいかわからず、今はそのまま息を潜め続けることにした。

 保健室の外では、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が慌てていた。
「くそっ、なんなんであろうか。こいつは」
 保健室に忘れ物をして、取りに行ったら鍵がかかっていたのでしかたなくピッキングで開けようとしたのだが。
(これなら三十秒もかからないな。もっといい鍵使えばいいのに)
 余裕かましていたところに、ターバンのような覆面をした中肉中背の人物が廊下の向こうから走ってきて。しかもこちらの姿を確認するなり、問答無用で斬りかかってきたのである。
 そうして訳がわからぬまま、相手をさせられる羽目になった大佐だが、相手の息もつかせぬ連続斬りに焦りはじめていた。
(くっ……我に武器やスキルを出す隙を与えないつもりか。どうしたものであろう。一旦引くか、誰かに助けを求めるか、それとも無理にでも攻撃に転じるか)
 攻撃をかわしながらいくつか策を巡らせる大佐だったが。
 そのどれかを実行するより前に、すべてが戻り始めた。
 頭が異変を感じ取るよりも前に、なにもかもが回帰していく。

 こうしてまた、ループする一日がはじまった。
 静香はもちろん、瀬蓮にとっても美羽にとっても大佐にとっても、
 今日という一日は、まだまだ終わらない。