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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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シクニカ終戦/シクニカ
 
 教導団の立場を離れてシクニカに向かったルカルカ・ルー(るかるか・るー)少尉とパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、ドラゴニュートカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)、英霊夏侯 淵(かこう・えん)、そして橘 カオル(たちばな・かおる)とパートナーの剣の花嫁マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)、獣人ランス・ロシェ(らんす・ろしぇ)らは、シクニカ郊外で、軍事基地からの増援部隊と遭遇することになった。偵察を立てて用心しながら進んだつもりだったが、敵が予想外の方向からやって来たため、想定しない状況での遭遇になってしまった。
「うわ、こんな所に帝国軍が居た!? しかも何か、戦ってきましたって感じじゃなくてピンピンしてるんだけど……」
 帝国軍がシクニカで戦っているところへ駆けつけるものだとばかり思っていた橘が驚きの声を上げる。
「シクニカから敗走して来たのではないな。新手か」
 ダリルが冷静に敵を観察して言う。
「ああ、こいつらからは戦場の臭いがしねぇ」
 鼻をひくひくさせていたランスがうなずいた。
「予想外だけど、敵は敵だもん。戦うしかないよ!」
 両手にドラゴンランスを構え、ルカルカが叫んだ。
「龍騎士の相手はルカルカがする。淵は左翼、カルキは右翼をお願い。カオルは本隊の支援を!」
 同時に、部隊がさっと展開する。
「ほう、良く訓練されているな。相手にとって不足なし!」
 増援部隊を率いるジュウザァが吼えた。上空に羽ばたくワイバーンが、一斉にブレスを吐く。
「盾兵!」
 橘が叫ぶ。三人一組にした兵のうち、盾を持っている一人が盾をかざして、ブレスを防ごうとする。だが、普通の盾ではなかなか防ぎ切れない。
「みんな頑張れっ! 好きな人、会いたい人の顔を思い浮かべるんだ。オレも、メイリンとホテルへいくまでは死ねないッ」
「これは、普通の弓では太刀打ち出来ねえな。鉄砲、前へ!」
 淵は舌打ちをすると、配下の部隊に命じた。弓を構えていた生徒と、銃を持っている生徒が入れ替わる。右翼からはカルキノスたちが魔法で攻撃をしており、こちらは結構効いているようだ。
「早くシクニカの地元料理が食べたいんだから、邪魔しないでよねっ」
 マリーアは小型飛空艇ヴォルケーノに乗り、敵にちょっかいをかけては距離を取る戦法で敵の注意をひきつけようとしていた。これも一定の効果は上がっているが、マリーア一人に対して敵が大勢なので、決定的に局面を変えるには至らない。
 (ブレスが使える分、敵が若干有利か……。淵かカルキ、どっちに敵が集中してくれたらと思ってたけど、ワイバーンは一体一体が結構強いから、両面で戦闘になっちゃってるし。これは、さっさと大将首を取るに限るねっ!)
 味方の状況を見て、指揮官を早く討ち取るべきだと判断したルカルカは、ワイバーンを駆ってジュウザァに迫った。
「てえええええいっ!」
 右、左と両手に持った槍を繰り出す。ジュウザァは、上手く盾を傾げて突きの威力を削いで受け流す。
「なかなかやるなぁ、女! 今度はこちらの番だ!」
 大剣が、ルカルカの頭目掛けて振り下ろされる。ルカルカは槍を頭上で交差させてそれを受け、跳ね返した。
 キン、ガキィィィィン!!と金属のぶつかりあう音が響く。
「ルカルカ!」
 さらに二合、三合とジュウザァと打ち合うルカルカに向かってダリルが叫んだ。ルカルカはワイバーンを急降下させて、ジュウザァから離れた。追いすがるジュウザァに向かって、ダリルは魔道銃の引金を引く。
「何のッ!」
 ジュウザァは巧みに龍を操り、射撃をかわす。その後方へ回り込んで、ルカルカは龍の翼を狙って真空波を放った。龍が、バランスを崩す。ダリルの攻撃も続く中、さらに真空波を打ち込むと、さすがに龍が攻撃をかわしきれなくなって来た。
「帝国へ帰れ!」
 隙をついて、ルカルカは槍を突き上げる。龍飛翔突だ。雷をまとった槍が龍の腹を、そしてジュウザァの半身をかすめる。肉の焦げる臭いが漂った。
「うぉぉぉぉぉぉ……」
 焼けただれた顔を押さえるジュウザァを乗せた龍が、ふらふらと落ちて行く。
「さあ、次の相手は誰っ!?」
 教導団でも最強レベルの強さと言えるルカルカがフリーになったことで、戦況は一気に【鋼鉄の獅子】の有利に傾いた。あっと言う間に龍騎兵は蹴散らされ、無事な者は散り散りになって逃げて行った。ルカルカは大きく息をつくと、ワイバーンを着陸させた。と、傍らの茂みががさがさと動いた。敗残兵かとルカルカも橘も身構える。
「待って下さい、敵ではありません!」
 叫びながら姿を現したのは、傷だらけのザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)を支えたボア・フォルケンハイン(ぼあ・ふぉるけんはいん)だった。
「帝国兵の捕虜となっていたのを、必死の思いで逃げ出してきたんです……」
「さっきの部隊から、か?」
 果たして、増援に来る部隊が捕虜など連れて歩くものだろうか……かすかな違和感を感じながら、ダリルが二人に近付いた。しかし、ザウザリアスの傷は本物だった。顔面から血が流れ、相当の酷い怪我である。
「……マリーア、手当てを。それが済んだら、シクニカへ向かおう」
 違和感を抱きながらも、ダリルはそう判断した。
「うわっ、ひどいねこれ!」
 進み出たマリーアが応急処置を始める。そこへ、
「おーい、大丈夫だったか?」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)清 時尭(せい・ときあき)が現れた。
「帝国の増援部隊が、こっちへ来たんじゃないか?」
「それなら、さっき撃退したよ。で、密林の状況は?」
 ルカルカは無事に再開出来た戦友に向かってにっこりと微笑む。
「軍事基地はほぼ空。多分、その撃退したっていう部隊が、残存兵力のほとんどだったんじゃないか? 軍港は味方が攻略に向かってるから、変な所に矛先を向ける余裕はないと思う」
 ウォーレンはほっと胸を撫で下ろして言った。
「じゃあ、安心してシクニカに向かえるね」
 ルカルカは満足そうにうなずいた。
 
 
 しかし、シクニカに到着したルカルカたち【鋼鉄の獅子】を待っていたのは、帝国兵ではなく、既にシクニカを実質的に占拠している【桐生組】。
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)は門を叩いたルカルカらを慇懃に迎え、笑顔で、このように述べる。
「教導団の方は、何を目的にいらっしゃったのですか?
 教導団の方が、対帝国軍のためここを拠点化、ひいては統治をされるおつもりならば……」
 ひなは、難色を示す表情を作り、それはご遠慮願いたいことですー、と述べた。
「ともあれ、はるばるの遠征はご苦労様なのですよ。しかし、戦闘は既に終わっているのですー。
 もてなしは致しますが、部隊の長期駐留ということであれば、やはりご遠慮願いたいのです」
 ラスタルテが撤退した後、城に入って次の戦いに備えていた【桐生組】だったが、ラスタルテは戻って来る気配はない。ひなとしては密林の基地を教導団が攻略するということであれば、その間の駐留については認めようと考えていた。だが既に密林方面の帝国軍は制圧されており、今更シクニカに教導団の部隊を駐留させる理由はないのであった。
 ひなは、
「会談等については正式な申し合わせの上、機会を確りと決めさせて頂きますね〜」
 と述べ、
「シクニカは今後、私たち【桐生組】が再生させて、幸せにするんですよー。ほら、この通り、戦後処理や統治のプランもきちんと作成してありますしー」
 彼女らのシクニカ統治のスタンスは固いことを示した。
 書類の束を示すひなの背後では、領主になる予定のオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がこくこくとうなずく。
「なるほどな。だが、果たしてそれが認められるかな……?」
 ダリルの問いかけに、ひなはむっとして彼を睨み返した。
「確かに、【桐生組】はシクニカの解放者だ。だが、百合園や蒼空学園が、【桐生組】がシクニカを占拠して独立勢力となることを認めるとは俺には思えない。卒業して個人で建国するか、国に帰属し軍に判断を委ねるかのどちらかになるだろう」
「それは……。むむー……」 
 シクニカの解放、そこまではシャンバラの国益と【桐生組】の行動は相反しない。だが、その先、【桐生組】が独立勢力としてシクニカを占有するとなれば、話はまた別になる。【桐生組】の行動が、百合園や蒼空学園の生徒として見た時にどうなのかというところまで考えていなかったひなは、これについての反論は一旦取り下げざるを得なかった。
 【鋼鉄の獅子】は、しばしの休息の後シクニカから撤退し、ミカヅキジマへ戻って行った。
 シクニカ統治の取り決めについては実際には、戦後行われるコンロン会議やシャンバラ政府や各校との協議を経ることになる。その間、【桐生組】は内政外交に長けるひなの手腕を軸に善政を敷き、オリヴィアは実質的には数ヶ月、シクニカの領主を務めたことになる。しかし、最終的には獅子の軍師ダリルの言った通り、コンロン・シャンバラの両政府より、シクニカはコンロン帝の領地とすることになり、新しい領主は住民の中から選ぶこと、という内容の通達が【桐生組】の元に届いた。
「シクニカを手に入れるためにこんなに頑張って、領主になりますって両親に手紙まで出したのに……」
 さめざめと泣くオリヴィアを、ひなは慰める。
「ま、まあ、でも実際少しの間でも立派に領主を務め上げましたし! それにまったく無駄ではなかったのですよー」
 【桐生組】の統治は一部民の根強い支持を受け、コンロン政府の取り決めによって新しく決められた領主の願いもあって、シクニカ領内に百合園女学院と蒼空学園の分校設立の計画が進められることになる。