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【Tears of Fate】part1: Lost in Memories

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【Tears of Fate】part1: Lost in Memories
【Tears of Fate】part1: Lost in Memories 【Tears of Fate】part1: Lost in Memories

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 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は立ち尽くした。
 その姿に見覚えがあったから。
 実際には資料として見ただけだが、『知って』いる。
「あれは……確か大黒美空ですわね」
 書架と書架の間を抜ける一本道。狭く長いその通路を、つかつかとブーツの足音高く、黒衣の少女が歩み来たる。一人だ。
 髪はショッキングピンク、遠目でもわかりそうなその色。
 エリシアは仁王立ちする。接触まで、ぱっと見で六秒。
 たまたま今回、エリシアは暇をもてあましていたときにこの事件の報を受けた。考えるほどに嫌な事件だ。だから、
(「新婚夫婦も、能天気精霊娘も……血生臭いクランジに関わる必要はありませんわ」)
 と思い、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)には知らせず、もう一人のパートナーのノーンにも無断で単独で乗り込んだのだ。自分一人で活躍してみせる。自分だけでもやれるという結果を出したい。せっかく掴んだ陽太の幸せを邪魔したくないから。
「大黒美空、貴方との一時限りの共闘を所望しますわ」
 ぴしゃりと相手を指さし宣言した。
 決まった――と、思った。
 ところが、
「ちょ、ちょっと、貴方!」
 あろうことか美空はエリシアをひょいと避け、そのまま歩みを止めなかったのだ。
「だから、共闘!」
 と、思いきや。
「手伝って……ほしい。私は、クランジを、倒したいのです」
 ぴたりと足をとめ、大黒美空はなんとなくちぐはぐとした口調で言ったのだ。
「ふふん、ようやくわかったようですわね。まあ、それなりの敬意を払ってくれるのならよろしくてよ……って!」
 ぴょん、とエリシアは跳ねてしまった。
 美空が膝を付き、語りかけたのは、エリシアがいる場所から少し先その書架の陰だったのである。
 そこには見目麗しき二人の魔法学校生、風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)がいるのだった。
(「もしかしてわたくしの身長のせいで……見えてない!?」)
 ガーン、という音が聞こえるくらい、エリシアはショックを受けて凍り付いた。
 なお、エリシアの身長は117センチ、望は174センチである。
 ところで望は、背後にノートをかばいつつ冷静に美空に応じた。
「襲撃を受け混乱している最中、身元不明な相手から協力を求められて素直に従うとお思いですか?」
 どう考えても普通の話ではない。敵の可能性もある。拒否するのが正常の反応だろう。しかし、
「それは、わたくし達がイルミンスールの生徒だと知った上での提案ですわよね?」
 ノートが前に出た。
「けれどお嬢様……」
 望は難色を示すも、ノートはむしろ、こんな状況だからこそ、と前向きだ。優雅に応じた。
「構いませんわ、望。疑われる事も撃退される可能性も踏まえて接触してきた…それだけ切羽詰っている方なのでしょう」
 こうと決めればテコでも動かない。それも、窮まっている相手に対して手をさしのべるのであればなおさらだ。代々、貴族としてノーブレス・オブリージュを果たしてきた一族の矜持を示し、ノーンは美空の申し出を受けると宣言した。
「元々の予定では既に外出中。ここにはいない人間ですもの。校長達は他の方に任せて、今はこの方を助けますわよ」
 仕方がない、と望も心を決めた。それに、ノートの言い分も説得力がある。
「お嬢様のお心に従いましょう」
 望も武門の生まれであり騎士たる身でもある。一度決めればもう迷わない。迷わず、望は美空の手を握った。
 しかしここでノートは、小春日和のような笑みを浮かべて言ったのだった。
「ところで……いったい何を手伝えば宜しいのですの?」
「格好良く決まったと思ったら……」
 やれやれ。望は額に手を当てた。
「ちょーーっと、わたくしも加えなさい!」
 エリシアがようやく、会話に加わる機をみて入り込んできた。
「え……ああ、貴方も頼む」
 本当に今はじめて気づいたらしく、美空はエリシアにも膝を付いたのであった。
「それで、何を手伝うと?」
 改めてノートが述べた。
 この返答はあらかじめ用意していたらしい。美空ははっきりと言ったのである。
「私は大黒美空。私もまたクランジの一人。この事件の首謀者……クランジΘ(シータ)を倒す。詳しく説明する時間はないが、あなたがたに決して迷惑はかけない」
「その前に……」
 エリシアが行く手を指した。
「あれをどうにかしなければならないようですわ」
 決して広くない通路を埋めるかのように、直進路のゆくてから量産型クランジが数体、機械音を立てながら出現したのだった。
「挟まれた、というわけですか」
 望は振り返り、後方にも二体、量産型が出現したのを確認していた。
「むしろ、退路を断たれたのは好都合、戻る予定はありませんもの」
 ノートは巻き髪を手で背中に払うと、冬の月のごとく銀色の瞳で微笑してみせたのである。
「手伝うと決めた以上、貴女の思惑が何であれ、必ずその目的は叶えてみせますわ。貴族たる者、約定を破る訳にはいきませんもの」
「OK、R U ready ?」
 美空が仕込み刀で身構える。外した左腕が床に落ち、カランと音を立てた。
 耳に心地良い金属音。ノートがすらりと剣を抜き払い、旗印のようにこれを掲げたのだった。おおよそこの世で『邪』と呼ばれるものであれば、間違いなく畏れるような輝かしき光が刀身に宿る。
「道を切り拓きますわ! 望、彼女たちを箒に! 皆さん、一気に駆け抜けて下さいまし!」
 戦いの合図はノートの一声、および彼女による戦乙女の騎行(ライド・オブ・ヴァルキリー)であった。