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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第1回/全3回)

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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第1回/全3回)

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『何だ、あの時の奴じゃあないのか』

 それは事件発端から、遡ること数日前。
 「とある人物」からの接触に、黒崎 天音(くろさき・あまね)は、モニタの前でトン、と指で机を叩いて目を細めた。 
 表示されているのは、カウンターの回りも遅い、オカルティックな内容を扱う、どこにでも転がっていそうなブログである。先日、トゥーゲドアで行われた地輝星祭のライブ放送についての感想や、子供の妄想のようなあれこれが散りばめられているが、ただひとつ、このブログが他と違っていたのは、それが「ただ一人」を誘い込むためだけに作られたものだ、ということだろう。
『全く……俺は本来”部外者”なんだがな。わざわざこんな手の込んだお誘いを受けちゃ、釣られてやるしかないよな、わんこちゃん』
 ハンドルネームである「カニス」という名前をからかうように、そして、どこか攻撃的な口調。
 狙い通り、目的の人物と今、天音はチャットで会話をしているわけなのだが、その顔は困ったような、しかし面白がっているような、そんな複雑な表情を浮かべている。その理由は、部外者であると今回の件の関与を否定する相手が「会話を続けてやってもいい」とする前提として、指定してきた”条件”だ。
「……どうしたものだろうね、これは」
 画面の向こうの呟きが聞こえたわけもないだろうが、チャットルームには『なにを悩んでんだ?』と、相手からの哂うような言葉が文字になって羅列されていく。
『俺はただの研究者に過ぎない。異端だけどな。その部外者から情報を得ようってんなら、見返りがねえとだろ』
 口調は攻撃的でも、要求は不当というものではない。それに、確かにこの相手が本来「部外者」であるなら、手を貸せというのであればその対価は必要だろう。だが、問題はその対価だ。
『ディミトリアスって言うんだろう、あの野郎の弟は。そいつの持ってる術が”欲しい”……できるだろ?』
 天音はふう、と息をついて、キーを叩くと「話だけはしてみるけど」とだけ回答して、その会話はお開きとなった。
「さて……どうしたものだろうねえ」
 もう一度同じ言葉を漏らして、その指でモニターにまだ点滅する名前を、ぴん、と指で弾く。

 そこに表示されていた名は”愚者”……その名前を名乗った相手は、トゥーゲドアの町では、こう呼ばれている。
 五千年前、ストーンサークルの封印を行った、賢者――と。